<完結>駆け出しの二人
冷たい夜風が会場を吹き抜けた。いままで昼間と変わらぬような明るさで、会場を照らしていた照明が揺らぎ、部分的にはほとんど消えかかった。
これは、決して錯覚ではない。
この大聖堂あとに結界を作り、維持して、照明その他一切をコントロールしていた人物が、一瞬呆然として、全てを忘れたからである。
ルトは。
フィオリナも。
リウも。
馬鹿みたいな顔で、突っ立ていた。
風の音だけが、聞こえていた。
「あ、あのぼくらは、グランダ出身で、グランダだと成人は16歳なんですが。」
「北の蛮族の風習など知らん!」
ルールスは言い切った。
ここには、その「北の蛮族」であるグランダ国王もクローディア大公もいたので、これは大変まずい発言だったが、両名は無視を決め込んだ。
(クローディアは、意識して無視していたし、グランダ王はリアにワインの蘊蓄を語ったところひどく邪険にされて落ち込んでいた。)
「だが、人類文明の中心たる西域では、ほとんどの国で婚姻は成人していることが最低の要件であり、成人年齢は18歳だ。
そして、冒険者学校に入学したものは、最低限、在学中はランゴバルドの法に従うことになる。これは、書面にサインが残っているな。」
そうなのだ。
ドロシーは、内ポケットの「婚姻届」を握りしめた。
ドロシーの「婚姻届」が受理されなかった理由がこれだった。
ドロシーは自分が18になったので、なんとなくルトも同い年くらいだと思い込んでいた。
いつも大人っぽい態度ばっかりとってるし。
でも、ルトはまだ子どもだったのだ。フィオリナも。それから。
「あ、駄魔王。おまえも入学願書に16歳と記入しているな。実際に何歳かは知らんが、自分で書いたものに責任をとれよ。」
はああ。
そう言って、へたり込んだのは、フィオリナ、だった。
助かったあ。
なんでおまえの口からその言葉が。
列席者全員から、そのツッコミが聞こえたような気がした。
「少なくとも、フィオリナが18になるまでのあと一年ちょっと。」
ルトも晴れ晴れとした顔で夜空を仰いだ。
「この話は先送りでいいですよね。」
「というか、それしかあるまい?」
ルールスが言った。
「ついでにここで、婚約破棄もやっておけ。この手の女はこれからも同じトラブルを起こす。
切っておいた方が、あとあと楽になる。」
「それはお断りです。」
ルトは、フィオリナの片方の手(もう片方はリウとしっかり腕を組んでいた)を取り、彼女にキスをした。
「は」
フィオリナが真っ赤になった。
「は、は、は。ルトからキスしてくれたのって初めてじゃない?」
ああ。
参列者は思った。
これは、一応、結婚式だったな。じゃあ、これは新郎新婦の誓いのキスなのだな。
まばらに起こった拍手は、全員へと伝播し、なんだかわからないまま、みなは立ち上がって拍手した。
「おめでとうっ!」
ギムリウスが叫んだ。
「ルト、フィオリナ! おめでとう!」
テーブルに座ったギムリウスの配下たちも、おめでとう、と言いながら、拍手をぃした。
たぶん、結婚式ではそう言うものだと「一般常識」で教わったんだろうな。と、アキルはぼんやり思った。
神さまでも、こいつらについていくのは楽じゃない。
アキルは、さっきロウが切り分けてくれたステーキを頬張りながら、拍手を続けた。
お肉は少し冷めていたが、美味しかった。
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