第347話 メイド服の大公家姫君
続々と押しかける参加客は、みなギウリークの貴族、高官なのだろう。
それでもそれほどの高位の貴族、聖光教会で言えば枢機卿クラスのものはまだ来ていないようだった。
ガルフィート伯爵とカテリアは、受付を使用人に任せると、親父殿とアウデリアさんのところにやってきた。
「長丁場になります。随意にご休憩やお食事を。できましたら、クローディア陛下かお妃様には、会場にいていただくようお願いいたします。」
「いろいろとご苦労をおかけいたします。」
ぼくは、カテリアに話しかけられる前に、その場を離れた。
一応、目立たないように小姓の恰好なのだが、充分目立ってしまう速度でフィオリナにむかって、ダッシュした。
「これはこれは、ハルト元王子。」
クローディア大公家、もとクローディア公爵家は、給与の高さ、待遇のよさでけっこう憧れの職業だったのだが、制服のかっこうよさでも人気があった。
すらりと背の高いフィオリナには、よく似合っていた。
「なにをしてるっ!」
「奇しくもさっき、古竜どもがラウレスにおなじようなセリフを言っていたな、我が君。」
意地悪そうな笑みで浮かべても、フィオリナはきれいだった。
円形のテーブルに、オードブルを盛った皿を次々と並べながら、凛と背筋を伸ばした美女はその仕事を楽しんでいるかのように見えた。
「わたしがなぜこの格好かというと、おまえからの要請に基づいたものらしい。」
「‥‥なんでそうなる?」
「発案はロウだ。わたしがカテリアを口説くのをやめさせるには侍女の格好をさせておくのが一番いいと判断したらしい。
さすがに、ロウ=リンドだ。あの皮膚の下に暖かい赤い血が流れているんじゃないかと錯覚させるほど、人の情の機微に精通している。」
それは、
なんと返していいのかわからないので、少し考えた。
ごめん。
と言うと、フィオリナは真面目な顔で言った。
「わたしは、クローディア家の制服がとっても似合うのだし、料理も給仕も別段、苦手ではない。ただ、わたしの動きをこうして制限してしまえば、ルトはカテリアとダンスをせざるを得なくなるぞ?」
「それは、まあ、なんとか」
「それは、我が君ならなんとかするだろう?
裸のリアと同衾してなにもおこらず、ドロシーともとうとう行為にまで至らなかったルト坊やなら、なにもしないことでは右に出るものはいないよな!」
皮肉にもとれる口調に、ぼくはフィオリナの顔をしっかり見返した。
彼女の顔は。
とても大事なことを話すときの、それだった。
「なあ、ルト。お前は別段、全人類の守護者じゃあないんだぞ。
り知り合う人間を片端から自分の庇護下におく必要はないのだし、相手も別にそんなことを求めていない。」
「そんあ風に考えたことは」
いや、鋭いなフィオリナ。たしかにぼくは、無意識にそんなことをしていた。
「だいたい、何度か話をした程度のカテリアなどをわたしの毒牙から守ろうと四苦八苦するなど、全くの無駄な行為だ。違うか?」
「自分のことを毒牙って言うな!」
「わたしはおまえより自分を把握している!
わたしの体は年齢相応に、肌のふれあいを求めているし、おまえとそれが満たせない以上は適当に代役を求めるのはぜんぜん、やぶさかではないのだ。」
「だからって、政治的な交渉相手の御令嬢を口説かなくても。」
「そうだな。これは、父上とギウリークの駆け引きに、影響がでる。ガルフィート伯は、おそらくギウリークの最重要人物だ。その娘とクローディアの姫が、いい中になってしまったら。」
「そこまでわかっているなら、何故?」
「その方が面白いからだ、我が君。
不満そうだな。ひょっとして、お主は“なにもおこらないこと”が平穏無事で幸せなことと、思ってるんじゃあるまいな?」
「ち、ちがうの!?」
「ちがうぞ。」
フィオリナは断言した。
「どうしたっておきるアクシデントを修正しながら生きていく。
その修正のプロセスと達成に喜びを感じのが、人間だぞ。」
「恋愛とかの分野ならな。これは外交交渉だ。」
「にたようなものさ!
そして、クローディア大公姫と名門ガルフィート伯爵令嬢の痴情のもつれがそこにくわわるんだ。」
「それでどうなるんだっ!」
「わたしは、ギウリークの貴族に有力な知己が出来る。そのことを交渉にどう利用するかは父上次第だと。いずれにしても、ヘタれた小僧が、尻尾を巻いて退散するよりははるかに面白い利用価値があるだろ?」
「主観の相違だけだ。親父殿の魂胆は、けちょんけちょんに踏み潰してしまったギウリークの顔をたてて、これから報復などを考えさせないことにあるんだ。」
「その友誼の象徴として、両家のむすめが互いを姉妹のごとく感じていることはとっても役に立ちます。」
フィオリナな宥めるように、ぼくの首を抱きしめた。
「あるいは、きみにこそ精神的に負担がかかるかもしれない。
そんなときはリアに慰めてもらいなよ。慰安のための関係っていうのもアリだと思う。
グランダが遠いのなら、ドロシーかロウがおすすめだ。
三人共にわたしと違ってアクシデントを起こすことを楽しみにするタイプじゃないから。」
「それってアリなのか?
ぼくらは、その」
「お互いに持って生まれた運命がある。心配しなくとも、そのうち呆れるほど当たり前の家庭を作ってやるぞ。
泣き喚く双子の姉弟、きみはジャガイモを買ってきて、帰るなり、上司の愚痴をこぼしながらジャガイモの皮を剥いて茹で始めるんだ。
わたしはきみの背中に話しかける。
“ねえ、明日ミュランとお芝居を見にいくんだけど、双子のお世話をリアに頼んでくれない?リアが忙しければ、ロウを頼んでよ。
ドロシーとアキルは絶対いや。うちには入れないで!”」
それが当たり前の家庭なのか。
そもそもアキルもぼくの愛人候補になっていた?
いつも間に!!
「お互いに相手にないものを、外に求めることについては、制限は設けない方がいいと思うの。
でもそれは少し先ね。いまは、わたしがカテリアを口説くとこを眺めてなさい!」
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