第330話 久しぶりに主人公がふつうの女の子からもてた!

全員の注目がぼくに集まる。

勘弁してほしいなあ。『認識阻害』の魔法は、ぼくを直接知らない人間には効かないのだが、こんな方法をとられるとは!


もっともだからどうした。という部分もある。

なにしろ、グランダはもう正当な王があとを継いでいるのだ。

留学生のウォルトが実はクローディア家の間諜で、実はその正体は『踊る道化師』のリーダー、ルトであり、ルトはまた元グランダの王太子ハルトの別名である・・・ということが知られてもそれは一向にかまわないわけだ。

これは、まず正体を隠すことに辟易していたぼくにとっては、なにか枷のようなものがはずれたような爽快な感覚だった。


・・・気になったのは、「剣聖」カテリアの目つきだけであって。彼女は声にこそださなかったが「王子さま」とつぶやいて、わずかに頬を紅潮させていた。


「恐れながら、申し上げます。」


ぼくは平民が貴族に対するときと同様に、膝をついて挨拶をした。


「卑賎なわたくしの愚考を少々のべさせていただきます。」


「うむ。」

満足そうに、いや面白そうに親父殿が笑う。礼儀正しいこいつがこんなに気持ちの悪いものだったとは・・・とアウデリアさんがつぶやいた。

「話すがよい。」


「まず、エステル伯爵の悪例をみてわかるように、各地域を支配する貴族層は、『駅』からの収益のあげかたを知りません。

彼ほど極端ではないにしろ、魔道列車の運行をさまたげるような行為を行い、乗客を街に無理やり降ろさせる。あるいは、正常な運行をさせるかわりに契約にない税を無理やり納めさせる。このような例はほかにも報告されています。」


貴族たちの何人かがしぶい顔をした。

あるいは心当たりがあるのかもしれない。


「一方で、街を地域をどのように管理したらよいかを鉄道公社は知らない・・・これは少し語弊があるかもしれません。

『正当性』が得られないままに、その土地を支配しようとしても、民が大人しく支配されるかどうかは、疑問なのです。

昔ながらの『王』や『貴族』ならいざ知らず、『鉄道公社』なる得体のしれないものに、税を納め、裁判を受け、その命令に従うことは、住民にとっても難しい。

そして、鉄道公社が、組織として、いかに知識を蓄えたところで、彼らもまた西域で生まれ育ったものたちです。


今回の例でいえば、鉄道公社がゼナス・ブォレストに求めたものは、エステル伯爵の管理からオールベの街を切り離し、そこを鉄道公社の管理に置くことでした。

ですが、ゼナス・ブォレストの行動は・・・エステル伯爵に代わる貴族として、その領地に君臨することでした。

鉄道公社そのものは、あたらしい時代の産物です。ですがそこで働くものたちの頭の中は、これまでの『領主』による支配から一歩も脱したものではない。」


「いままでの貴族もだめ、鉄道公社もだめ。ならばどうする?」


「過渡期の存在として折衷案です。」

ぼくは言った。

「主な駅のある街を、その地域から切り離します。そして名目上の支配者として高位貴族の代官をおくのです。」

「それではいままでと変わらぬ・・・」

「いえ、その地域を領地とする貴族以外のものから、街の支配者を決めるのです。駅のある街は飛び地となります。

街のものたちは、支配者する貴族の名が変わっただけで、それまでどおりの暮らしができます。かといって、差配をしなければならない貴族は、離れた土地に街をひとつだけ、面倒をみるわけですから、名目としての代官を派遣したうえで、行政の大半を別のものにゆだねることになるでしょう。」


「それが鉄道公社、か。」

ガルフィート伯爵はうなった。

「しかし・・・」


「他の貴族の目があるのならば、鉄道運行に対するおかしな妨害を行えないでしょう。鉄道公社も貴族の監督下にあれば、ゼナス・ブォレストのような人物の出現を未然にふせぐことができます。」


ぼくの見たところ、一番怒っているのはガイストブレス侯爵だった。しかし、彼はどうみても鉄道公社の意向で動いている人物なのだろう。

だったら、ぼくの提案は、鉄道公社にとって、充分利益がでるものなはずだ。怒っているが反対はできない。


「しかし、鉄道のある街はイコール、土地の領主が居を構える支配地の中心地であることが多い。」

ガルフィート伯爵が言った。

「街一つとは言え、それを他家の支配におくことを、そこの領主がよしとするか・・・」


「なにもすべての駅を、いっきにそうしろ、というわけではありません。」

ぼくは、彼のほうにむかって歌うように話す。

「たとえば、懲罰的な意味合いをもたせるのもありでしょう。

鉄道の運行に再三障害をもたらしたあげくに、恨みをかって当主も後継も暗殺されてしまった伯爵家などは!」


「エステル伯爵家か。」ガルフィート閣下は苦笑いをうかべた。「あれだけの名門になると大逆罪でも起こさぬ限り取り潰しもない。

だが、現在は当主はなし。

後釜は親戚筋がでるとして・・・

ふむ、オールべを取り上げることはあり、だな。」


「しかし、実際のところ、誰がそれを行うのです?」

アライアス侯爵がもっともな疑問を口にした。

「話として有り得るのは分かりました。しかし、いまの混乱の極みにあるオールべは、利益どころかとんでもない、火種を抱え込むだけです。

懲罰どころか、オールべをもつこと自体がマイナスになりかねません。

街の回復、一連の悪事に加担したものへの処罰、鉄道公社との折衝・・・。

エステルの、親族筋は嬉々としてオールべを差し出しますわ。」


「それは、これから考えるとしよう。よろしいな、ガイストブエス閣下。」


もちろん、この言葉は彼本人に言った、と言うよりも彼の雇い主である鉄道公社にむけたものだった。

彼はうろたえ、なにかしゃべろうとして口をつぐみ、怒りだそうとしたは思いとどまり。

「・・・わかりました。よく検討いたしましょう。」


ガルフィート伯爵は、親しげにガイストブエス侯爵の肩を叩いてから、親父殿を振り返った。


「お見事です。クローディア大公国は素晴らしい人材をお持ちだ。」

「お褒めに預かり」

親父殿は目を細めた。

「恐縮です。」


「ところで、陛下には西域まで名高い姫君がいらっしゃるとか。」

「そうですな。」

親父殿は、ラウレスにむかって自分の分の弁当も作れと、交渉中のアウデリアをチラリと見やった。

「母親そっくりの気性ではありますが」


縁談話し、か。

クローディア大公家は、たしかに西域貴族にとっても縁戚にぜひなりたい間柄だろう。


しかし、ガルフィート伯爵の話は別の方向へ飛び火した。

「そちらの少年は、いずれフィオリナ姫と?」

「はて。」

親父殿はぼくを見て、ぼくと彼にしかわからない笑みをちらりとうかべた。

「幼なじみではありますが、そう言ったことは当人に任せておりますので。」

「ならば、三日後当家にて、大公ご夫妻のミトラへの到着を祝うバーティを行いたいと存じますが。」

「ほう。もちろん喜んで出席いたしますが・・・」

「その席上で、我が娘カテリアのエスコートをそのウォルトくんに任せたい。」

「パパっ!」

「人前でパパは辞めなさい。」

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