第328話 主人公の言い訳は相変わらず意味が分からない
「そもそも我が婿殿は、何をしにミトラに来たのだ?」
クローディア陛下は、いいにくそうにそう言った。
「あー〜〜〜〜〜・・・義父上、そのランゴバルドに対するギウリーク並びに聖光教会の・・・」
ぼくは言いかけて、諦めた。
ものすごく喋りにくい。喋りにくい上にこれだって正確な表現ではないのだ。
ぼくとフィオリナは、まだ正式に夫婦になったわけでもなく、なのでぼくはまだ「婿」ではなく、クローディア大公もまた義理の父親でもない。
「わかりました。諦めます。親父殿。」
「まあ、それがいちばん話しやすいと思いますな、ルト殿。」
「ギウリークと聖光教会のランゴバルドに対する、非合法な干渉をやめさせるためです。」
ぼくは、自分の知っていることをざっと親父殿に説明した。長年の実績のあった冒険者学校のルールス校長が、不正な選挙で校長の座を奪われたこと。
それだけでは飽き足らず、実際に命を狙われたこと。
「それだと、どこまでがギウリークの意思なのか、釈然としない。」
クローディアは、冷徹に言った。
「ギウリークの後ろ盾で、新学長になったその・・・ジャンガたちが勝手に企んだものかも知れない。」
「裏は取りました。」
ぼくは、親父殿に言った。
「聖光教会が、裏工作の拠点に使っていた『神竜の息吹』の現在のギルドマスターであり、冒険者学校内で手駒に使っていた『神竜騎士団』なる自警団の前団長のメイリュウさんの証言があります。」
「いま、『神竜の息吹』と『神竜騎士団』なる組織は、ルト殿の配下にあるわけか?」
「神竜騎士団の方は、アモンが・・・・」
と言いかけて、ああ、この偽名だと親父殿はわかりにくかもと思いぼくは言い直した。
「リアモンドが団長をやってます。」
「それは・・確かに『神竜』騎士団だな。」
アウデリアさんが呆れたように言った。
「神竜がリアモンド一人だったとしても、看板に偽り無し、だ。」
「いえ・・・・まだ、入団するかどうかはともかく神鎧竜レクスが、一緒のクラスにいますので・・・・」
「何はともあれ、こいつらこそが、人類に対する最大の脅威かも知れんぞ、我が君!」
アウデリアさんが言う。
「とはいえ、当人たちから仕掛けてこない以上、何もできんな。
ルト殿の良識に賭けるしかあるまい。」
アウデリアさんは無茶苦茶、不安そうな顔をした。
失礼な!
これでも、十分、良識ある方だぞ。
「神竜の息吹、の方はいかがかな?」
親父殿はそう言った。
「メイリュウなるギルドマスターは、ルト殿の支配下にあるのか?」
「いや、支配・・・そういうと無理があるかな?」
実際には、メイリュウさんはアモンにベタ惚れなのだ。
「お互いになんと呼び合っているのです?」
親父殿が言った。
「互いの呼び方で、力関係などはわかるものです。」
「ぼくは・・・」
ちょっと考えながらぼくは答えた。
「メイリュウ・・・さん、が多いかな。実際に、冒険者学校の先輩には違いないので。」
「で? メイリュウは、ルト殿をなんと?」
「え・・・と。
オーナー
かな?」
ミトラの街に夜風の音だけが響いた。
足を止めた親父殿とアウデリアさんは、顔を見合わせてため息をつく。
「ルトの良識がどうの言ったな、我が君。」
「十分、良識の範囲内だと思うぞ?
要するに、そのメイリュウという元神竜騎士団の団長で、現在ギルドマスターをしているものが、ギルドの実質的な支配者が、ルト殿だと理解している、ということだろう?」
「なら、ルトがギルドマスターになればいい。まあ、名誉職的な位置づけならば、グランドマスターなど、言いようはあるはずだ。」
「それは、今、神竜の息吹が、ギルド経営を辞めてしまっていて、ほとんどレストランとして成り立っていることと関係がありますね。」
なぜ、そうなったかは、ぼくにもわからない。
ただ、どういうものか、悪評高いギルドに併設の居酒屋が、わりと好評だった。
行き場のなくなったラウレスをしばらく面倒を見てもらおうと連れて行った時に、「竜人」として紹介した彼をいきなり、調理場に放り込んだと聞いている。
その後、首になった竜人部隊の部下がなぜか菓子を作るのがうまかったり、店で暴れたヴァルゴールの使徒が、なかなかテキパキとよく働くホール係になったりと、いい人材が集まって現在の姿になったのだが・・・。
「話を戻すと、ぼくとフィオリナが来たのは、聖光教会に何かものすごい嫌がらせをしてやるためでした。
一方的に、やられるばかりではない。
こちらも同じことを。
お前らの喉元でもやってやれるんだ、というところを示すためです。」
「やり方としては悪くないと思いますな。」
ぼくは、心が軽くなるのを感じた。なんにせよ、親父殿に褒められるのは嬉しいのだ。
「西域の列強は、特にギウリークは聖光教会という出先機関が各国にあるだけに、一方的に他国を狩場とする傾向がある。謀略や軍事的な威圧、なんでもござれだ。
ランゴバルドのように、王権が絶対ではない国家では、謀略が良いと判断したのだろう。
同じことを自分たちもやられる・・・そうわからせることは抑止力にはなる。」
そこまで言ってからちょっと険しい目で、ぼくを見た。
「だったら、フィオリナはあまり向いていないのでは?
あれは暴力装置としてはかなり、たがが外れてしまっている。必要以上の破壊をもたらしてしまうと相手も引くに引けなくなってしまうかも知れません。」
実の父親にここまで言わせるとは!
「・・・そこはそれで。せっかく一緒に学校に通えるようになったのに、また何ヶ月も離れ離れになるのも。ましてフィオリナは短期留学の予定で、ランゴバルドに来ているのですし・・・」
「確かになあ。ほっておいたら、また誰ぞとできてしまうかも知れない。」
アウデリアさんは楽しそうに言った。
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