第297話 入院と迎撃準備
「とにかく!」
エミリアは、そこらへんにあった布切れをギムリウスに巻き付けて傷口を固定して、病院に連れ込んだ。
しかし、病院がギムリウスになにをすればいいのだろう。
「とにかく、入院させてください!」
ギムリウスの目がキラキラと輝いて、瞳が3つに分かれてぐるぐると回った。
「入院!」
ギムリウスは、手を伸ばしてエミリアの手をつかんだ。
やめろ、傷口がずれすだろうが。
「入院できるの?」
「自己治癒能力の高い亜人です。とにかく安静にして栄養のあるものを食べさせてください。」
「それはかまいませんが・・・・」
エミリアの出した金の力で、医師の態度は丁寧だ。エミリアは可憐な少女で、ギムリウスも腰のあたりから触手のような残骸がぶらぶらさせていること以外は、けっこう可愛らしい。
「それなら、ホテルでよろしいのかと。」
「入院! 入院!」
ギムリウスは喜んで立ち上がろうとして、断念した。
動くと傷口が裂けて、体がまっぷたつになってしまう。
「入院したいっ!」
「いずれにしても列車の運行トラブルで」
エミリアはため息をついた。
「まともな宿は残っていないでしょう? とにかく安静が必要なのです。個室をお願いします。」
入院の手続きを終えて、病室に行くと、すでに病室はクモ糸に覆われていた。
「にゅういんっ!にゅういん!」
ギムリウスは、体を両手で抱きしめるようにして、蜘蛛の脚で天井やら壁を駆けずり回っていた。
体を抱きしめているのは、そうしないと傷口が割れて体がズレるからだ。
はしゃいでいるのは分かるが、そもそもそんなヤツを入院させる必要あるのだろうか。
「ギムリウス!
糸を片付けてベットに戻れ!」
偉大なる神獣さまに、怒鳴りつけることできるのは「踊る道化師」にいるおかげだ。
いそいそと、ギムリウスはベッドに戻った。
人間のするとことができるのが嬉しいのだ。そこらが大体理解出来るようになったエミリアには多少、ギムリウスが可愛くうつる。
「動かないほうが、治りがはやいだろう?」
「早く直さないと。」
ギムリウスは頷いた。
「クローディアとアウデリアさまをミトラに、連れていかないと。
ルトたちも探したい。」
「そうだよな。」
エミリアは、優しく言った。
「・・・そうだ、やっぱりこの体は廃棄して本体を」
「絶対やめて。」
シホウにしてみれば、必ずしも対竜兵器は必須ではないと考えている。
はっきり言う。彼ら「絶士」そのものが古竜に匹敵するまさに「絶」対兵器なのだ。
彼があのまま、ラウレスとの対決しなかったのは、それによる市街地や味方に対する被害の懸念があったためと、空を駆ける竜と対決するには、シホウよりも空中での自在な機動が行える絶剣士アイクロフトか、無限長の斬撃を持つ絶魔法士グエルジンが向いている、そう判断したためである。
だが、ウキウキしながらボロボロのメイド服で帰ってきたグルジエンと、片腕を三角巾で釣ったアイクロフトまでも上機嫌だった。
「シホウ! 新しい絶士候補を見つけたぞ。」
体の方は、ほぼ不死身と言ってもいい再生力を持つ。メイド服が破損したままということは、ストックを使い尽くしたと言うことか。
「シホウ! ギムリウスだ! あのギムリウスと士合ったぞ。絶士にスカウトしよう。」
いつもは憂い顔の絶剣士は、嬉しそうに言った。
シホウは思う。
絶士は「異常者」だ。その力は人の限界をこえ、ついには最初からはみ出しものの集まる冒険者という集まりでさえ、居場所を失った。
並の「一流」である銀級を超えた所には「黄金級」や「英雄級」しかなく、それは各国や高位貴族のお抱えとして「冨」の代わりに縛りのつく立場でしかない。
貴族家同士の、あるいは国家間の争いに巻き込まれる。ただ。牙が鋭いだけの番犬になるのだ。
それを救ってくれたのが、鉄道公団だ。保安部の精鋭部隊「絶士」だ。
そう言った意味での「絶士」という組織を大事に思っている。それはいい。
「わたしの相手は、フィオリナだ!」
グルジエンは叫んだ。
「わかるか! クローディア大公国のフィオリナ姫だっ!
凄いぞ! 服が五着だめになった。こっちもそれなりに手傷を負わせたが、あっさり逃げられた。」
優れた人材を求め続けるのは悪いことではない。
しかし、だ。
シホウは思う。
任務は一体どうするのだ。
こいつらの頭の中は、新しい絶士のスカウトのことしかない。
妨害を廃して、オールべを鉄道公社の直轄管理地区にする話は一体どうなっているのだ。
二階の寝室からは、聴き間違えのないような喘ぎが、階下にまで漏れている。
一般の保安員に命じて、弩弓を用意させた。
まった・・・上も下も。
そればかりか、同僚すら頼りにならんとは。
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