第219話 ガールズトーク

粗末ながらも夕食を取らせてもらったあと、わたしたちはそれぞれ別々の部屋に案内された。

部屋同士はかなり離れているし、これでは、ジウルさんたちと打ち合わせもできないなあ・・・と思って、ドアを開けようとしたら、鍵がかかっていた。

ガチャガチャやっていると、無愛想の煮こごりをさらに煮込んだようなメイドさんが、のぞき窓から顔を覗かせた。


「あの・・・ジウルさんたちと打ち合わせをしたいんですけど。」

「当家では、お客様は夜の8時以降は、朝食の時間までお部屋にとどまっていただきます。必要なものがあれば呼び鈴でお呼びください。」

それだけ言うと、返事もまたずに背中をむけた。


「どうなの、これ?」



わたしと、ドロシーさん、オルガっちは同室だ。

「どうもこうも・・・黒幕は男爵閣下じゃろ?」

オルガっちは、すでに上半身真ッパで寝る支度をしている。

しなやかな広背筋は、よく鍛えてる証拠かもしれない。

下着は、この世界ではあまり見ないショーツタイプのピッタリしたものだ。小さめのお尻がかっこよい。

「あの娘には。吸血斑があった。おそらくは、どこからの吸血鬼の支配下においているのだろう。薬や術より確実で、事前には覚めることがない。」

「ご隠居さんや、ジウルさんは?」

「気がついている・・・少なくとも普通の状態でないことはわかっているだろうさ。」


ドロシーさんは、オルガっちやわたしより少し背が高いかな。無駄肉のない体型は好みが別れるだろう。


「さて、明日に備えて少し、ジウルや御老公どのと打ち合わせもしたかったが、閉じ込められてはしかたがない。

こちらはこちらで少し打ち合わせをしておくかの?」


「打ち合わせって、どういう・・・」

ドロシーさんはこの旅の間、割合に無口だ。


「まずは、そうおぬしじゃ。おぬしがグランダ魔道院とランゴバルド冒険者学校の対抗戦で活躍した銀雷の魔女なのか?」


「そう呼ばれてるみたいですね。結局、ジウルに負けて弟子入りをしたんですけど。」

「で、あのジウルはなんじゃ?」闇姫は怒ったようにいったが、質問の意味がわからないと思ったのか言い直した。「ボルテックがなんで若返りして拳術のマネごとなんぞはじめたんじゃ?」


「あれまあ。」

わたしはつぶやいた。

「お気づきでしたか?」


「さすがに弟子入り志願までしたわらわには分かるわっ!

まさか、この女に惚れ込んだわけではあるまい。」


「ドロシーさんは聞いてる?」

「まあ・・・少しは。」

「話してもいい?」

「いいと思う。情報はルトからよね?」


わたしは頷いて、続けた。


「ボルテック卿は、魔法が使えない相手と戦ったんだ。なので、前から研究してきた魔力をそのまま打撃にのせる拳法を試した。

そのときに、格闘戦にいちばんふさわしい年代に自分の身体を変化させたの。結果は引き分けだったけど。」

「あのじじいの魔法が通じない相手じゃと?」

オルガっちは罵った。

「神竜クラスの防御力でないと考えられん・・・・



神竜か・・・・っ」


オルガっち、考え込んでいた。


「あの人クラスになると・・・これは彼の言葉ですからね。『齢なんぞとるほうが難しい』だって。」

ドロシーが言った。


「で、そのボルテックに食い下がったのが『銀雷の魔女』。」


困ったようにドロシーさんは下を向いた。ほんとに清楚で上品に見えるんだけどなあ。

「いくつか偶然が重なったんです。あのひとはまだぜんぜん本気にはなってませんでしたし。」


「やつとは、どんなきっかけで付き合うようになったのじゃ?」

「それは・・・」

ドロシーはくすりと笑って、上目遣いにオルガっちを見やった。

うーん、おとなのひとの笑いだなあ。

「昼夜一緒にいるので自然にね。最初はわたしが誘いました。」


「声がおっきいんだよね。」


闇姫の言葉に、ドロシーは真っ赤になった。


それから、しばらくはあれがああだ、これがこうだと、二人の妖女どもの話ははずんだのだ。

意外なことなのだが、邪神のわたしもそっちの話には、あんまり免疫がなかったのだ。人間同士のそういうことって別にどうでもよかったからなあ・・・


いまのわたしはわたしの身体を通して当事者としてそれを体験できる。依代はそういうふうに。異世界のわたし自身を調整する形でつくってあるのだ。

照れるぜ。


「そういうおまえはなんだんだっけ?」


「いえ、わたしはまだそういう経験はちょっと・・・」


「ではない。おまえは何者でなんのために、ボルテックの護衛付きでミトラへ旅をしているのじゃ?」


わたしはまじまじとオルガっちを見つめた。彼女はわたしに似ている。黒い目、黒い神。でもわたしよりはちょっと美人だ。

わたしが現世に降り立つための作ったわたしのための依代。13人めのわたしの使徒。この前、うっかりボルテックとドロシーに口走ってしまったが、オルガっち自身も知らない秘密なのだ。


「異世界人の夏ノ目秋流。勇者ってことになってるらしい。ミトラ流の剣術を習いに。」



話はほぼ一晩中続いた。

朝になって、ドアが開かれた。朝ごはんだ朝ごはん! 待ちかねたよ!

と思ったのはわたしだけだった。


ドアの向こうには、ご隠居さんたちと、執事さん。兵隊さんがふたり。執事さんは怖い顔をしていた。


「ジウルがいない。ギルドのある隣町にむかった。ベルドット一戦交えてくる、との書き置きがあったそうだ。」







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