第174話 邪神と勇者 伯爵と前学長


ヴァルゴール!

わたしは、窓辺で呼びかける。

だらん。


と白い女の人は、上から垂れてきた。

これはこれでけっこうホラーなのだが、割と慣れた。ここは異世界で相手は神さまなのだ。


「ヴァルゴール! まずいよ。あなたの信者が全滅しちゃうよ?」

「アキル。」

呆れたように白い女の人は言った。

「わたしの信徒はいつの時代にもなくならない。

わたしは契約を司る神だ。人がいて社会があるかぎり、契約はなくなることはない。」


「でも使徒っていうのが、ランゴバルドに集結してくるよ。」

わたしは指摘した。

「ルトくんたちは、とんでもなく強いよ。使徒どもが起こそうとする『 血の祭典 』とやらの犠牲をゼロにはできないと思うけど、使徒もみんな殺られてしまう。」


「あたしゃあ、は神様なので。」

と、ヴァルゴールは、往年のコメディアンの口調で言った。

「信徒は必要だけれども、使徒とか自称する跳ねっ返りは全滅してもらってもかまわない。」


そ、そこまで割り切るか!

じ、邪悪そのもの!


あ、邪神でしたか。


「そうです。わたしがへんな神様です。」


うーん、正直そこらは動画配信とかでしか見てないので。

「なので、秋流は気にせずに、自分の目標達成だけ考えていればいい。」


へ?

私の、目標?


「ルトくんたちのチームにはいって一緒に世界を見て回るんでしょ?」

そうだっけ?

それはあくまでも元の世界に戻れないとか、戻るのにうんと時間がかかったときの話であって・・・


「だから、さ。」

邪神さんは、思いっきり親しげに顔を寄せてきた。

ガラスが無ければキスしてる近さだ。

「頑張ろうよ。」


え?頑張るけど?

なにを頑張るんだっけ?


「使徒殲滅でしょ?」


無茶を言うな。どうしてもって言うなら人型汎用決戦兵器でも用意してくれ。

ヴァルさんは、笑ってわたしを指さした。


ええっ?!わたしがそうなの?


勇者=人型汎用決戦兵器


のことなのか!

それにしちゃあ、なんのチートもくれないね!とわたしはヴァルさんを睨んだのだった。





「あの二人のことは、きいております。」

ランゴバルド伯爵は、落ち着きなく部屋を歩き回りながら言った。


偉丈夫の彼がそんな動作をすると部屋が狭く感じるのでやめて欲しい、とルールスは切に願った。

どうせきいているのも嘘で、昨日帰ってから資料を取り寄せたのだろう。

ランゴバルド伯爵麾下の暗部は、きわめて優秀だが肥大化した官僚機構の欠陥を補うまでには至っていない。


「曰く

一人スタンピード。

曰く

魔王の再来。」

ぐるりと向き直ると、ルールスの顔を覗き込んだ。

ち、近いな!


眼鏡なしでひとと接したことのないルールスにはそれだけで充分圧迫、だ。


「おまけにパーティには、真祖の吸血鬼までいるとか?」

「吸血鬼が冒険者学校にはいるのは、珍しくはあるが皆無ではない。

とくに政治向きに報告の義務さえないはずだが?」

「当代、西域で活動が確認されている唯一の真祖です。」

「懐柔してとりこむ、価値があると言いたいのか、ね。」

ルールスは、デスクを指でとんとんと叩きながら言った。

「それには、同意見だ。で、わたしがやっているのがまさにそれ、だ。

特別室を与え、特待生とした月々の生活費を渡し、彼女が同級生を玩具にしても黙認している。」


同席のネイアは、同級生を玩具にしたことなんてあったっけ?と考えこんだ。担任として目を光らせていたつもりだはあったのだが。


あ。


ドロシーのことか。


「12使徒のうち、2名。」

重々しくランゴバルド伯爵は言った。

「冒険者学校の生徒に任せてはおけませんな。こちらも出来るところは見せつけておかないと。」


「なら、どうする?

生半可な戦力では犠牲者が増えるぞ?」


「聖櫃の守護者、ランゴバルドが誇る英雄級の冒険者を出します。」


ルールスはじろり。と彼を睨んで言った。


「ネイアは貸さんぞ。」


「わかっております。それ以外のものでいま動ける者にて、カタをつけます。」


「あ、あとな」ルールスは取ってつけたように言った。「ネイアの武装を使えるようにしといてくれ。」


伯爵は顔色をかえた。


「わたしの指揮下にないものに、ですか?」

「ネイアは場合によっては真祖と対峙しなければならなくなるやもしれぬ。

武装は使ってこそ意味がある。」


「ひとつ確認しておきますが、ジャンガ学長の一派をこの機会にネイアの武装で一掃とかは考えてませんよね?」


「そんなもの、守護者の武装なしでもいつでも、やっのけるわ!」

ルールスは鼻を鳴らした。ふまんそうだった。

「それを口実に、聖教会がどう介入してくるかが読めん。

暗殺されるのが怖くて、自室に引きこもっていると、思わせているくらいで丁度いいのだ。


これが駆け引き、だよ。

若いな!ランゴバルド伯爵閣下は!」


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