第173話 使徒を狩るもの
「面白い。」
リウが笑った。
「面白い。」
アモンも笑った。
「人を狩りに来たヴァルゴールの使徒共をこちらが狩るわけか。」
ロウが手を叩いて笑った。
ぼくは全く面白くない。
「『踊る道化師』のメンバーは決まっている。」
「それはそうだな。お主がフィオリナと自分自身のために選抜したメンバーだ。」
ボルテックは、全員の顔を見回した。
「だが、面白いことに生まれでた事象というものは、作った本人の意志をはずれて動き出してしまうことが往々にしてある。
例えば・・・・」
「ああ、まさに。」
と、ギムリウスがつぶやいた。
「わたしはそれを目の当たりにしています。『知性』を与えたユニークが成長し、創造主を見限り、そして創造主を敵として立ちはだかる。」
「さすがは上古より活動する神獣ギムリウスだ。
『踊る道化師』はたしかに、お主がフィオリナのために作ったパーティだろう。
しかし、集まったメンバーを見るがいい。
神獣ギムリウス、真祖ロウ=リンド、神竜リアモンド、そして魔王バスズ=リウ。
これだけのものたちが、お主の意志通りに動くと思うか?」
「ち、ちょっと!」
ドゥバイヨさんの声にぼくは我にかえった。竜人のひともこの男はなにを言い出すのか、と目を丸くしている。
「翻って、お主のもともとの目的を思い出すがいい。
お主の願いは、フィオリナとともに幸福な人生を、ともに歩むことであっただろう?
そこには、『踊る道化師』は必要不可欠なものではない。」
「妖怪じじい殿の言うことはわからないでもない。」
フィオリナまで、そんなことを言い出した。
ぼくが口をはさもうとしたが、フィオリナが制した。
「つまり、こういうことを言いたいのだろう?
わたしは、別段、『踊る道化師』の一員でなくとも、ルトを王配にもつクローディア=グランダ連合国フィオリナ女王陛下として、ルトの傍らにいられるのだ、と。」
まだ、バージョンアップするつもりなのか。この悪役公爵家令嬢は。
「それならば、『踊る道化師』のメンバーの座はほかのものに譲ってやってもいいのではないか。
例えば、妖怪じじいの弟子であるそこの鶏ガラとか。リウに身も心も捧げたがっているロリバとかに。」
「はいっ」
アキルが手をあげた。
「わたしもいます!」
「異世界勇者どのとか、に。」
「悪い意見ではない。」
フィオリナは言った。
「それならば、そもそも『踊る道化師』そのものが、先のグランダ王と転生酔い真っ最中のザザリの無茶ぶりから生まれた奇跡の産物だ。
わたしはそこに無理に属する必要はないな。
もちろん、ルトも。」
フィオリナはぼくの手を握った。
「もとより、わたしの手の中には、ルトの手があればそれでいい。
何度か考えた方法ではあるが、このまま手に手をとって、駆け落ちでもしよう。
煩わしいあれやこれや。」
このままでは、クローディア大公国や「不死鳥の冠」やグランダの行く末やミュラ先輩が「あれやこれや」で片付けられてしまう!
「全部投げてしまうのもいいな。もともと、これが、グランダの王太子だったから起きた出来事だ。
ただの駆け出し冒険者なら面倒ごとは何もない。
そうだな、妖怪じじい殿。
おまえらはここで好きなだけ、『踊る道化師』の枠をめぐってゲームを楽しんでいるがいい。
わたしとルトは抜けさせてもらう。」
「そういう結論か。それもまたあり、なのかもしれん。俺もそう、すすめたこともあった。」
「ジウル! 揶揄うのはそのくらいにして!
わたしはそれでは、困ります。」
ドロシーだった。
マントを羽織っているので、体型はよくわからないが、少し肩幅が大きくなったような気がする。
顔立ちは確かにぼくの知るドロシーだったが、どこかが、違った。
ほんの少し頬がこけたかも知れない。ほんの少し唇が紅くなったかもしれない。
自分の身体のラインを見せることを恥じらう初々しさがほんの少し薄れたのかも知れない。
そうだ。
前に別れたときは、彼女は少女、だった。
いまは、女になっている。
自分の持つ魅力を誰かに行為とともに保証されたのだ。
俗な表現だったが、そうとでも言うしかない。
「わたしもルトの傍らにいたい。そのために、短い期間ではありますが研鑚をつんだつもりです。
ここで、逃げないでください!」
「とは言ってもだ、な。」
フィオリナは苦笑いしながら、ぼくを引き寄せた。
「現実にわたしは、ルトと一緒にいるために、公国の公女の座やら、父親の愛情やら、責任やら、かわいい愛人も含めて一切合切捨てる気でまんまんなんだ。
たかだか、束の間の乳繰り合いにうつつを抜かしかあげくに、百歳を越えるじじいに、女にしてもらったやつになにか吊り合う代償が出せるのか?」
ボルテックが苦笑しながら何か言おうとするのを、ドロシーが制した。
「ジウルはわたしが誘いましたから、彼が実は百歳を越える大魔導師であったことなど、どうでもいいです。
どうしようもなく、求めてあってしまうことがあるのです。
あなたにはわからないかもしれませんが。」
今度はフィオリナの頬がほんの少し引き攣ったかも知れない。
「ボルテック卿。」
リウが真面目な顔で言った。
「いろいろ意見もあるだろうが、オレはルトから誘われて、ヤツと一緒に世界を回るためにここにいる。
ルトに抜けてもらっては困るのだ。」
「わたしは…」
「別段、ロウの意見は聞いていないが?」
無視されそうになった真祖は唇を尖らせた。
「わたしは、フィオリナとルトと一緒にいるために、魔王宮をでたのだ。」
「ずいぶんとモテるんだな。」
アモンはこの状況をも楽しんでいた。
「まるで、ルトが姫君のようだ。
ならば、こうしようじゃないか。
ヴァルゴールの使徒を多く狩ったヤツが、自分のわがままを通す。」
「面白い。」
フィオリナがつぶやいた。
「これじゃあ、フィオリナがちょっとかわいそうだな。」
リウが言った。
「これじゃあ、お前だけが失うリスクだけで、勝っても得られるものがない。
そうだな。
お前が勝ったら、剣を作ってやる。
魔王自らがお前のために作り上げた剣をやる。」
魔王は魔王の顔で笑った。
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