第172話 真の対策会議
別に、いつものロウの寝室だってよかったのだが、アキルがやたらに、ラウレスの鉄板焼きを食べさせろというので、打ち合わせは「神竜の息吹」になった。
巻き毛のひとの良さそうな(それでいてひとではない)ラウレスは、前にもあった元竜人部隊の竜人に加えて、もう一人女性の助手が増えていた。
名前を聞いたらドゥバイヨさんというらしい。入れ墨をあちこちに施したなかなかの美人さんであったが、神竜の息吹の制服に慣れていないらしく、なんだか動きがぎこちなかった。食べながら聞いたところでは、もともとお客さんとして、来たらしいのだが、トラブルでカウンターや高い酒を壊して、ここで働いて返すことになったらしい。
ラウレスの妙技は見事なもので、火加減も完璧。竜人さんの飴細工のお菓子はほとんど芸術品。ドゥバイヨさんは、下働き、というか仕込みの作業をやっていたが、どうもどんな刃物でも体から出せるらしい。
ラウレスのお客の目の前の皿に転移魔法でソースをかけるところなど、高度な魔法の無駄遣いもここに極まれり。
堪能した後、例によって弱目のアルコールが配られて、ここからが本題だ。
「ヴァルゴールの12使徒の実力をどう見る?」
ぼくが単刀直入に尋ねた。
意外にもドゥバイヨさんが、答えた。
「強いよ・・・わたしより、ね。」
鉄板焼きコーナーのアルバイトよりは強い、か。
・・・・
それってなんか参考になるのだろうか?
「オーナー、この人、『蝕乱天使』の銀級冒険者でヴァルゴールの使徒です。」
ラウレスが説明してくれたのでやっとわかった。
「クリュークの後釜に座ろうとして、『血の祭典』に参加して、メイリュウさんを狙ったようなのですが。」
「銀級冒険者だろ?」
ぼくはちょっと驚いた。メイリュウさんは、確かに「銀級に匹敵する」と言われてたけど実力が伯仲なら後は、運次第だ。
「ここは、冒険者ギルドなんですよ。」
ラウレスが言った。言われるまで忘れてた。
「わたしもいますし、リンクスさんもいます。銀級程度取り押さえるのにそれほど、手間はかかりません。」
「12使徒ではないにしろ、わたしもヴァルゴールの使徒だったんだ!
並の銀級と一緒にするな!」
憤慨したようにドゥバイヨさんが言った。
「確かに、けっこうあちこち壊されたましたし。高い酒も破られました。カウンターもテーブルも壊されましたし。」
ラウレスがそういうと、ドゥバイヨさんは小さくなった。
「リンクスが電撃で失神させていなければ、店に火をつけられていたかもしれません。」
「けっこうたちの悪い戦い方をするって程度しかわからない。」
とぼくは言った。
「得意な分野は器物破損と放火か?」
「ヴァルゴールの使徒をいじめるな!」
とフィオリナが言った。
「確かに12使徒の二人はいずれも厄介そうだ。わたしたちも結局、逃げられている。けっこうしぶとい戦い方をしそうだし、まだまだ隠してる能力がありそうだ。」
「わたしとヤホウも、隠れ家を急襲しましたけど、逃げられました。」
ギムリウスが、言った。ヤホウも頭巾とマントの下で小さくなっている。
「うち一人のゴウグレは、わたしが昔、作り出した知性のある『ユニーク』です。自らも蜘蛛型の戦闘分体を作り出すことができる個体です。」
「いずれにしても攻められるだけでは、厄介だ。生徒全員を守り切ることも難しい。」
リウが言った。
「こちらから、殲滅に動いた方がいいだろう。
参加しているのは、今のところその二体だけなのだろう。」
ドゥバイヨさんが、必死にわたしもわたしもアピールをしたが、一同は無視した。
「分担を決めておくか?」
アモンが言った。
「複数で当たらないと捕まえきれないでまた逃げられてしまう恐れがある。」
部屋の扉がノックされた。
リンクスくんが顔を覗かせる。
「『踊る道化師』にお客さんなんだが。」
「だれ?」
ロウが不快そうに言った。
「内輪の話の最中で、これからが大事なところなんだけど。」
「ヴァルゴールの使徒についての情報を持ってるそうです。
みなさんともお知り合いだとか。」
ぼくらは顔を見合わせた。思い当たる人物はいない。情報通という意味ならば、闇森のザザリやウィルニアなのだろうが、彼らがグランダの地をそう簡単に離れるとは思えなかった。
「わかった。案内してください。」
考えてても始まらない。ぼくはリンクスくんにそう頼んだ。
予想は一部当たった。
ウィルニアからの伝言。
ヴァルゴールの使徒たち。その中で名のあるものは次々とランゴバルドへ向かっている、という。
12使徒ばかりではない。
およそ、戦闘に自信のある使徒たちが続々とランゴバルドへ集結しつつある、というのだ。
「考えられる限り、最悪の事態だろう?」
情報を持ってきた人物は、たくましい胸を張って楽しそうに言った。
「数十名の使徒ども。しかも人を生贄に捧げることを教義にもつ集団がこぞってやってくるのだ。
いくらお主たちといえどもこれを防ぎ切れるとは思えない。」
確かにサイアク、ではある。
ぼくは、楽しそうなジウル・ボルテックの顔を見ながらそう思った。
ドロシーは、ぼくと目を合わさないようにして、ボルテックの体の影に隠れるようにして立っている。
「それで、提案なのだが、な。」
「手を貸してくれるというのならお断りです。いっそ、ヴァルゴール側についてください。一緒に叩き潰してあげますから。」
「まあまあ。」
と、余裕しゃくしゃくの拳法家にして大魔導師は、鷹揚に笑った。
「俺とその弟子も一枚かましてもらおう、という提案なのだよ。」
「その弟子を鍛え始めてまだ一月と立っていないはずですが?」
「うむ。確かにまだまだ未熟なれど、そろそろ一度実戦を経験すべき段階になったのだ。
そして、かませろ、と言ったのは使徒退治ではない。まあ、結果としてそうなってしまうのだが。」
ボルテック卿は、昔から人を揶揄うのが大好きだった。
今もまさにそんな感じ。
ドロシーを目の前にしてイラッとしてるぼくを揶揄うように続ける。
「俺と俺の弟子も『踊る道化師』に参加を希望する。ついては今回の使徒狩りをその試験台にしてほしいのだよ!」
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