第169話 勇者夏ノ目秋流 最初の戦い

うめえ!!

ほんとは、まだかき氷の季節ではない。

この世界の四季がどうなってるのか、わたしはよくしらない。

春、夏、秋、冬に相当する言葉は、しっかりとインプットされているので、たぶん四季はあるのだろう。


それならば今は、たぶん秋のはじまりくらいだ。

夜風は、長袖のシャツにジャケットを羽織ってちょうどいいくらいだ。


わたしは「かき氷」って訳したが正確には「かき氷」ではない。

果実をそのまま凍らせたものを削って、その上からシロップをかけている。


これは、当たり、だ。

いちごに似た赤い果実のかき氷をたいらげたわたしは、つぎの獲物に目をつけた。

キウイっぽい、翠の果実に、マンゴーっぽう果実。


ミックス大盛りで。


冷たいものを食べ過ぎるとお腹をこわす!?

なにを、残念仮面の中のひとがなにを常識的なことを抜かす!

これは、わたしとかき氷の戦いなのだ。


少なくとも頭がキーンっていうまで、わたしは一歩もひかんぞ!


屋台の周りは、ベンチもいくつか出されてなかなかの盛況ぶりだった。

いつものお蕎麦屋さんは今日は、閑古鳥がないている。


ギムリウスとヤホウさんは「ちょっと用事がある。」と言って姿を消した。ネイア先生もこれから、用事があるそうだ。

残るみんな、ロウさま、ルトくん、リウくん、アモンさん、フィオリナさん、エミリアさんはそれぞれ、お気に入りのかき氷をそろって平らげている。

だいぶ、夜遅いのにいいのだろうか。ちなみに校門はあけてくれている。


「ざんねんか・・・フィオリナさん、それって?」


「これは、ふつうの氷を削った豆を甘く似たものを凍らせて、豆を甘く煮たものをかけた・・・・」


「よし!追加お願いします!」


「おい・・・」


大丈夫!わたしは勇者っ!

そして勇者はお腹が強い!

たぶん・・・・


集まったのはほとんど、冒険者学校の学生だ。

学校はだいぶ校外のほうにあるし、だいぶ校外なので当たり前って言えば当たり前なのだが、なかにはそうでないひとも何人かいる。


たとえば、わたしたちの隣のベンチに腰掛けて居る紳士なんかがそうだ。


教職員でもなさそうだし、片方の目にだけ、メガネなんかかけておしゃれな感じだった。


わたしと目があうと、微笑んで会釈をした。


「こんばんは、よい夜ですね。」

「そうですね。風も気持ちが良いし。」

「冒険者学校の学生さんですか?」

「はい、入学したばかりですけど。」

「そうですか? ここのみなさんも冒険者学校のみなさんでしょうか?」

「はい」


わたしは周りを見回した。

なにしろ何千人の生徒がいる学校だ。顔など覚えているはずもないが、全員が制服を着ているから・・・


「間違いないと思いますよ。」



「それはありがたい。」

紳士は、わたしに丁寧に一礼した。

「ではここの19名をいただくか。まったく、スタートとしては悪くない夜です。

いや・・・・」

メガネの下の目がキラリと光ったような気がした。

「あなた、は見逃すとしましょう。18名が今宵の贄だ。まったくよい夜です。」


わたしもなんだかうれしくなって、笑い返した。


とはいえ。


「そんなことはもうしなくてもよいです、よ?」


「どういう意味ですか?」

怪訝そうに紳士はつぶやいた。


「言葉通りの意味です。」

そう、わたしは答えた。なんでそう言ったのかはわからなかったけど。


「・・・まあ、いい。ここを私の贄場にできるのならば」

紳士は、立ち上がった。おもったよりも背が高い・・・のではない。彼の足元には無数の根が生えていた。

その分、背が高くなったように思えた・・・それだけのことだ。


「目をつぶっているといい。好ましき少女よ。」

紳士は、わたしにそう言った。

「友人たちの流血はあまり見たいものではないだろう?」


「そんな!」

わたしも立ち上がった!

「かき氷をぜんぶいちごにさせてたまるものかっ!」


わたしは勇者だ!

だれがそう言ったんだっけ?・・・ああ、ヴァルゴールとかいう神さまだ。

あやしげだけど、けっこう気が合う。


ぞぶっ!

生徒のひとりが、地面から生えた木の根に刺し貫かれた。

そのまま、根はぐんぐんと伸び、刺し貫かれた彼女は、空中にもちあげられる。

なにか叫ぼうとしたその口腔を犯すようにそこからも、根が差し込まれた。


まわりは呆然とそれを見守った。


数秒が過ぎてから、ようやく悲鳴があがる。

剣の柄に手をかけるモノ。呪文の詠唱をはじめるものがいるのは、さすがに冒険者学校だ。


だが、真下からの攻撃。避けようと思っても裂けられるものではない。


・・・いや、アモンさんが地面から飛び出でようとした根っこをもろともに踏み潰した。

ルトくんは、身体に巻き付こうとした根っこを、どういう技か、あっさりからぶりさせた。

エミリアさんが、棒で根をはじきとばす。

フィオリナさんは根っこを引きちぎった。

リウくんは・・・・根っこがびびって近づけないっ!!


でもあとはダメだ。

たぶん上級生らしき、ひとたちが何人か、剣や手甲で根をはらいのけた。それ以外のひとたちは、みな根に巻き付かれて自由を奪われている。


「おっと、命を落としたものはまだいないね?

命をとるまえに、名を名乗るのがわれわれの作法だからね。」

うねうねと動く数十本の根に囲まれて、紳士は嘲笑う。

「わたしは、唯一の神ヴァルゴールの12使徒がひとり、アレクハイド。この街をわが贄場とするために、きみたちの命を奪う。

恨んでくれていい。

なにしろ、きみたちはなんの咎もなくわたしに殺されるのだから、な。

苦しみ、泣き叫び、わたしを恨みをつのらせて死んでいくがいい。


贄、となるのはそういうことだからな。」


『踊る道化師』の面々は、一名を除いて冷笑でそれに答えた。

一名の例外は、お腹を刺し貫かれて、かなりの太さの根っこを口に差し込まれて冷笑どころではなったのだ。


で、その例外さんは、かわりに、口に差し込まれた根っこに、噛みついた。

サングラスがはずれて落ちた。

いつもは深い藍色の目が赤光を放っている。


「ひょうひゅへん!」


何言ってのかわからなかったが、それがロウさんの魔法だったのだろう。


のたうつ根っこは、一斉に向きをかえて、方眼鏡の紳士アレクハイドに襲いかかった!

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