第164話 邪神召喚


「ラウレスからの連絡だ。」


ロウの寝室である。参加メンバーは、リウ、ロウ、アモン、フィオリナ、エミリア、ネイア先生、それにギムリウスとヤホウ。

さすがのロウの寝室もちょっと手狭になってきたかと思ったのだが、ギムリウスとヤホウは天井に巣を作ってへばりついてくれた。


「ドゥバイユ、という名のヴァルゴールの使徒を捕まえたらしい。」

ぼくがそう言うと、ヤホウの声が天井から聞こえた。


「それは12使徒ではありませんな。」


「さすがです。ヤホウさん。生まれてこの方、魔王宮に引きこもっていたとは思えな・・・・」

「ひ、引きこもってないしっ!

ちゃんと仕事してました!


ギムリウスも頷いた。


「引きこもって仕事をしていました。」


ネイアが口をはさんだ。


「恐れながら主。ドゥバイヨは、ランゴバルドの銀級冒険者です。所属は『燭乱天使』。」


「ああ、もともとあそこの首魁のクリュークは、ヴァルゴールとつるんでいたな。」

フィオリナが言う。


「はい、まさに。

クリュークは12使徒の一員でした。」

ヤホウは即答する。

常識という部分で、主従揃って問題はあったにせよ、有能なやつには違いない。


「先の戦いでクリュークが再起不能の負傷をいたしました。」


知ってる。というか当時者の約半分はここにいる。


「戦神を直接降ろすなんてばかなことをしたクリュークが悪い。」

アモンは言い張った。そういえば最後に尻尾でぺちっとしたのは彼女だった。


「ここランゴバルドは、いままでクリュークの贄場となっておりました。」

「贄場?」

「生贄をささげるための命を狩る場所、の意味です。どういうものかヴァルゴールは、配下の使徒たちに生贄を要求するときにその狩り場を各自で分担させたようですな。

こランゴバルトいったいは、クリュークの贄場として指定されておりましたようです。

そのクリュークが再起の見通しのたたない重傷をおいました。

当然、この街は担当するヴァルゴールの使徒がいない、空白地となります。」


「なったらなったでいっこうにかまわないのだが。」

ネイア先生が当たり前の事を言った。


「まあ、犯罪組織の縄張り争いのようなものですからね。」


「レリウスとメイリュウさんの情報では、ドゥバイユは直前まで三人と食事をしていたそうだ。」

ぼくはなかなか頼りになりそうなヤホウに引き続き情報をもとめた。

「ひとりは、頭巾とマントで身を隠したヤツ。これは、詰め所に現れて、フィリオペさんとマシュー坊っちゃんを襲ったヤツだろう。

もうひとりは、スーツの紳士。浅黒い肌で目にモノクルをしている。」


「両方ともヴァルゴールの12使徒です。モノクルの男は、アルクハイド。頭巾のほうがゴウグレ。」


ヤホウの面のしたにある顎がガチガチとなった。

ギムリウスがどこから出したのかわからない。同じような音で答えた。


「・・・くわしい情報はありません。現在、お話できるのはそれだけです。」


「十分だな。」


ぼくは、集まったメンバーを見回した。


「で、どうする? ぼくたちが始末をつけなければ、また無駄な血が流れるのか?」

「オレたちは別に正義の味方ではない。」

即座に、リウが答えた。

「これまでの戦いは、いわば身にかかる火の粉を払っただけだ。」


「そりゃそうなんだけど。」

ぼくはぼやく。

「今回も、ぼくたちが介入しなければ、フィリオぺさんとマシュー、どっちかは命をとらえれていたかもしれない。」


「今、おまえが抱えている問題の一つは、マシュー坊ちゃんが死ぬと解決するんだが?」


「マシューが魔王党の一員なので、それは無理だ。」

ぼくはため息をついた。

「どうして、ヴァルゴールの使徒たちは、ぼくたちの見えないところで、コソコソと犯罪をしでかして、勝手にいなくなってくれないのかな。」


「ヴァルゴールも同じことを思ってるかも知れない。」

アモンは笑っている。

「なんでこいつは自分の行く先々に立ち塞がるのだろうか、と。」


るんるん。

フィオリナが鼻歌を歌っている。

邪神、とやりあえるのが楽しみでしょうがなのだ。


よし決めた。


と、ぼくが言うと、ネイア先生が不安そうな顔で、何を決めたんですか?どうするんですか?と聞いてきた。


「直接、交渉しよう。

ヴァルゴールを呼び出す。」


ネイア先生とエミリアが、正気を疑うような目でぼくを見た。で、しょうね。


「前に話をしたことがあって。」

ぼくは丁寧に説明をした。

「ヴァルゴールに供物として、命を捧げられることの有益性について意見を述べたのですが、彼?だか彼女?だかにも考えるところがあったようで、そのまま退散してくれました。

多分、神様のことだから、時間感覚はずれてると思いますが、別に喧嘩別れしたわけではないので、話には応じてくれると思います。」


ネイアとエミリアは、助けを求めるように周りを見回した。


フィオリナとリウが、この二人だけは障壁を張っておいた方がいいか、それとも意識を失わせておいた方が、などと実用的な相談を始めてのを見て、顔色が青ざめていく。


だって、実際、そうなんだもの。

神様自身は正気でも、信者はそうでないケースが。


かつて、接触したヴァルゴールである存在を、心の中で形作る。

相手の姿を明確に捉えられれば、念話に距離は関係ないはずである。そして相手の姿は相手が強大であればあるほど、明確化しやすい。


“ヴァルゴール!!”


細いが鋭く作られた、ぼくの意思は虚空に消えていく。



「や、やめ」

エミリアの声が悲鳴に近い。

「おやめください、主人さまっ!」

ネイア先生の懇願する声。

いやあんまり、気を散らさないでくれるかな。ぼくだって邪神との接触にはそれなりに細心の注意を払うし、かなりの集中は必要なんだ。




「ルトくーーーーーん!」


外から呼ぶ声は、異世界勇者アキル?

ヴァルゴール本体を呼びたかったのに、それが召喚した勇者が来てどうする?


「みんないますかぁ? 屋台にかき氷が来てるって。みんなで食べに行かない?」


見回すと、エミリアとネイア先生が懸命に頷いていた。


「そ、そうですよ。なんだかほら汗ばんできちゃって・・・」

吸血鬼の先生が?


「そうほんとに。わたしなんてもうほら汗びっしょり。」

真っ青な顔でエミリアが。

「今、わたし、とってもみんなにかき氷をご馳走したくて。今日のラッキーアイテムはみんなでかき氷を食べることみたいです!」


夜中に?


ぼくは、渋々念話を中断した。


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