第154話 エミリアさんの挑戦

「どうだったぁ、アキル!」

わたしが、一般常識の追試の発表を見ていると、後ろからロウさんが飛びついてきた。

わたしが勝手に意識してドキドキしまうのだけど、そういうスキンシップが大好きなタイプの吸血鬼らしい。


「う、受かってた。」

わたしは感動でちょっとプルプルしていたので、ロウさんのスキンシップはありがたい。

吸血鬼さんの肌は、とってもすべすべしていて、ひんやりしていて、汗臭かったり、脇臭かったり、ぜんぜんないのだよ。吸血鬼なんでたぶん、代謝が違うんだろうと思う。


試験自体は難しかった。基本は暗記ものなのだが、この世界、特に今いる西域と言う地域についての知識など、わたしはゼロだったので、もうひたすら覚え込むしかなかった。

同室のフィオリナさんは、夜ご飯の後、たいてい出かけてしまう。暗記の勉強にはありがたかったけど、わたしは実は一人にされると寂しくなるタイプなので、これさえ終われば、一緒に出かけられると内心、期待していた。


「合格のお祝いしないとね!」

とロウさんは、嬉しいことを言ってくれる。

「わたしの部屋に、夕ご飯食べたあと、フィオリナとおいでよ。みんな集めとく。」

「み、みんな?」

「わたし、ルト、リウ、アモン、ギムリウスそれとエミリアもくるかなーーー」


そ、そのメンバーは。


「『踊る道化師』とその見習い。アキルも参加希望なんだって? まだリウたちのことちゃんと紹介してなかったから、いい機会だと思うよ。」


そう、この前、ラウレスさんの鉄板焼き屋さんで、みんなは「対抗戦終了」の打ち上げをやったのだが、わたしは「一般常識」を受けていたので、参加できなかったのだ。

ラウレスさんの鉄板焼きは、美味しかったのに残念だぁ。

とはいえ、わたしは1試合も参加していないのだから、そもそも参加の権利からして怪しいのだけれど。


それにしてもわたしが、「踊る道化師」に参加を希望してるって?

どこからそんなことに・・・・

確かに、この世界を見て回るのにルトくんと、一緒に・・・って言ったけど。あれ?

あれれ?


それはそういう、ことか。



ロウさんのお部屋は凄まじく広い。

寝室は一個なのだが、ベッドはなんだろう、キングサイズくらいはあって、ベンチみたいな腰掛けまで置いてある。

わあ、すてき。あんまり座り心地なよくないけど、と思って、掛けてあるシーツをそっとめくったら。

「棺桶」でしたーー。



寝室以外に立派なリビングだってあるのだが、こっちのほうが、おちつくとのロウさんの提案で、みんなはてんでにベットに腰掛けたり、寝転んだり、天井に巣を作ったりて寛いでいた。

まあ、天井に巣をかけらりたりすると、わたしが落ち着かないのだが。


「アキル! 一般常識合格、おめでとう!」


音頭をとって乾杯してくれたのは、アモンさんだった。制服を抜いじゃってて、下着?ではないよね、水着みたいな薄物1枚だ。

呆れるばかりのプロポーションだ。あのでかさでタレないってのは異世界なんだなあ。


リウくんは、どこにいたって彼が中心で世界が回る。そんなタイプだ。

いくら可愛く見えたって肉食獣はひと目でわやる。

食物連鎖の頂点に、仁王立ちしてる感じ。


彼とリウくんだけが、男の子であとは全部、女の子・・・タイプは違うが全部かわいい!


ハーレムバーティかよっ!


と小声で呟いたら、まあ、そうだなと、リウは、真面目に「でもオレは女にでも、なれるからなあ。」と言った。


「そう言えば」

とフィオリナさんが妙な笑いを浮かべている。

「古の魔王は多情な人物だったと伝承にあるなあ。

気に入った者がいれば、自ら女に変じて交わった、とか。


時には相手を女に変えた、ともあるぞ。

長寿族の大将軍エルフィエルとの悲恋は、いくつも歌劇になっている。」


「あ、あ。」

リウさんは、困ったように口ごもった。

「オレはやつのことが好きで好きでしょうがなかった。でもそういう行為は男と女でするものだろう?

オレは女になってもけっこう、美人なんだが、やつがそれでは嫌だと言いやがるので・・・」


「同性間の恋愛については、リウは古風なんだ。」

と、ルトくんが悟ったようなことを言った。

「いちいち、こっちや相手の性別を変えることからして、もう普通じゃないんだけど。」


「いや、ちょっと思ったんだけど。」

フィオリナさんは、結構真面目な顔で言った。

「わたしを男にして、ルトを女にすることは、可能か?」


「ああ、もちろん。なんの害にもならないし、一時的にでも恒久的にでも可能だ。」

ただ、ルトが嫌がる。

と、リウさんは付け加えた。


い、異世界だなあ・・・・


「実際にやったのか?」

「ルトを女性にか? 初めて会った時に一度だけな。」

「殴り倒した後に、踏みつけておけばよかったと思う。」

「そこまでのものか! だいたい本人が嫌がったので、なんの行為もしていない。すぐに元に戻したし・・・・」

「だって、かわいかっただろう?」


うむ。まあ、それはな。

と、リウさんは答えた。ルトくんが嫌な顔をしている。


「おまえだけ見るなんてずるいっ!」

「そう言う問題かっ!」


「そう言う問題だ。剣を抜け! もう一回殴り倒す。」


立ち上がったフィオリナさんの鼻先に、棒が突きつけられた。

エミリアさんだった。


「何か姫の御心にそぐわぬ事があったにせよ。」

エミリアさんの声は静かで落ち着いていた。

「我が、主人に対し、暴力を加えられるならば、まずこのわたしを通していただきたい。」

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