第153話 夏ノ目秋流の冒険者学校生活

わたしは目を丸くしている。

グランダでも魔法の恩恵で、なかなか不自由ない生活の送れたわたしだったが、人類文明の中心地、ここランゴバルドでは、もう元の世界と変わらない。


自動車はないが、馬車をひく馬は機械仕掛けだ。

大きな交差点ではちゃんと信号機まである。

通貨の単位とかちゃんとある。印刷した紙幣は主流らしい。グランダみたいに銀貨をいちいち計量器ではかって、なんて買い物はしなくていいらしい。


もちろん上下水道もある。

スイッチひとつで明かりが灯る。どんな魔法かきいたら「電球」だと言われた。

そりゃそうだ。

お恥ずかしい。


ランゴバルド冒険者学校は、街のはずれの丘陵地帯をまるっと使ったでっかい学校だ。

全寮制だが、これはランゴバルドの国策。

泊まるところにこまるような苦しい生活の子供にも読み書きくらいは教えてやれるように、あるいはよい教育がうけられなくて、手に職のない若者を救済するための、福祉厚生的な意味もあるらしい。


途中で脱落させられることはあるけど、基本的には入学試験はフリーパス。

わたしは「一般常識」が落第だったらしかったけど、それ専用の講義を10日間受けるようにと、言われただけだった。

この期間は、基本外出は禁止。きびしいな、と思ったら、信号機のある交差点の渡り方、馬車の乗り方、買い物のさいの通貨の使用法、ほんとにそれを知らずに街中をあるかないほうがいいようなことをみっちり教えてくれたのでそれはそれで、納得した。


わたしは配属されたルールス分校は、クラスもひとつしかないので、先輩にあたるルトくんたちと同じクラス。と言っても、ホールルームの時間に集まるだけで、あとはいくつかの必修を除けば、自分の興味のある講義をぜんぶバラバラにとってもいいらしい。

ただし、「一般常識」が通ったあとでね。


寮は、3階建ての建物。

いい忘れたけど、この世界では、建物はとくべつな塔とか以外は、五階建てくらいのものが多い。どうもエレベーターの文化がないらしいのだ。

良し!知識チート発動か!と思ったが、エレベーターの構造なんでわたし、まったく知らなかった。

ひとりでに上下する箱があって・・・と説明を試みたが、かわいそうなやつを見る目で見られた。チックショーーーー!


寮の部屋は残念仮面こと、クローディア大公国のフィオリナ姫との二人部屋。

けっこう広いリビングに、ちゃんと水洗のおトイレ。バスタブまであった。

さすがにウォシュレットはなかったので、今度こそ知識チート発動!かと思ったが、うまく説明できずに、とんでもないエロ装置だと思われてしまった・・・やれやれだぜ。


寝室は別々にあったので、あれ?これひょっとして、メイドさん用の寝室じゃないの?とフィオリナさんにきいたら、別にそんな役目は期待してないから大丈夫だと言われた。やっぱりそうか。


わたしたちのクラスは、20名ちょっと。

クラス内に、やっぱりここでも派閥があった。



まずは、ルトくんの仲間のリウくん。野性味のある二枚目の率いる通称「魔王党」。

リウくんを魔王とあがめるやばそうな集団で、主な活動は放課後に集まっての武術の鍛錬。ほんとにやばいのか、わたし、勇者ってことになってるけどこれと戦えってことなのか?

と思ったがそうでもないらしい。

エミリアさんや、あとフィオリナさんと交換留学で魔道院にかよってるドロシーさんとかもここに加わっていたらしい。


次が、ルトくんの仲間のアモンさん。二十代のすっごい美人で、制服の袖をバッサリ切ってノースリーブ。

肩の筋肉と胸の脂肪分がうらやましいぜ、姐さん!

彼女が率いてるのが「神竜騎士団」。

ちょっとネーミングがアレかな、とも思った。実際に騎士団がいる世界で学生が「騎士団」なのっても、ねえ。

一応、これ、学校内のでの自警団を兼ねていて、クラス横断の組織らしい。


それからルトくんの仲間のロウさん。真祖吸血鬼さんはてきとーに見た目のよい女の子を三人ばかりピックアップして「紅玉の瞳」と名乗る仲良しグループを作っていた。

なんだかよくわからないのだが、ネイア先生もここに所属していた。

主な活動は、放課後のたのたと話ししたり、街に買い物にふらつくことだ。


で、ルトくんは何をしてるのかというと、どこにも属さない。なんだか便利さんみたいに走り回っている。

やってることはパシリに近いが、本人は楽しそうで、まわりも別に彼を馬鹿にしたり、下にみてることはない。

どうも、ルトくんは冒険者学校に通ってはいるが、もともとグランダで冒険者をしていた「本物」の冒険者で、ランゴバルドでの資格取得のために、しかたなく学校に通っている身の上らしい。


さて、わたしはどうしよう。

もともと異世界人が、クラス内でも異世界人なんてシャレにならないし。

「魔王党」はなんか怖いし、ひょっとしたら敵になるかもしれない。

「神竜騎士団」は上下関係きびしそうだし。

「紅玉の瞳」は、なんだかなあ。ロウさんとはみんなでうふふきゃっきゃっではなく、もっと密やかな関係を築きたいのだよ。


クラスにはもうひとり、めちゃくちゃういてる子がいる。

亜人のギムリウスちゃんで、彼女もルトくんの仲間らしい。

なんのことはない。みんなルトくんの仲間じゃないか。


彼女と仲良くなってみたいなとも思ったら、このまえ、彼女が廊下のうすくらがりで人間ほどの大きさのまだらの蜘蛛とあやとりをしてるのを目撃してしまったのだよ。

いきなりホラー展開もどうか、と思う。


いろいろ考えて眠れなくなったわたしなのだが、こんなときに相談したい残念仮面ことフィオリナさんは、まだ帰ってこない。

考えすぎでお腹のへったわたしは、クラスで評判の夜鳴きそば(でいいんだよね)をたずねて、校門脇に夜だけ出店する屋台のお蕎麦屋さんにでかけて、そこで、フィオリナさんやルトさん、ロウさんとばったり出くわした。


いっしょに蕎麦を食べながら(味はおいしかったけど、中華のスープに日本蕎麦をいれたような料理だった)相談したら、


「だったら、わたしやルトと一緒に行動したら。」


と言ってくれた。いいのか?婚約者とラブラブしたいのでは?


別にかまわない。

と、フィオリナさんは、お蕎麦のおかわりを頼みながら言った。


「ドロシーみたいなことにならなければ、な。」


「ああ、あれはわたしがいろいろけしかけたので・・・」


ああ、ロウさんが殴られている!

でもロウさんは、「紅玉の瞳」のリーダーなのでは? ルトくんたちと一緒でいいの?


「うん。夜はわりと一緒にいる。」


ああっ!またロウさんが、今度は蹴倒されている!


そうか、そういうことなら、わたしもこのグループにいれてください。

そう言ってわたしは三人にぺこりと頭をさげた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る