第141話 斧神と勇者の説教タイム
残念画面さんが来てくれたんだ!
わたしの守護者として!!
確かにフィオリナさんは、ものすごく強いってきいた。
でも?
なぜ、残念仮面で、登場するんだろう?
やっぱり、母親であるアウデリアさんには正体を、知られたくないとか。
「あのなあ、フィオリナ。」
もうバレてるし。
「フィオリナとはなんのことかな。わたしは、ざんね、美少女仮面ブラッディローズだ、母上。」
母上って言っちゃてるし。
「そこのヴァルゴールは、もう少し、離れて!」
ヴァルゴール当人にされてるし!
「フィオリナ。ちょっと話をしておきたいんだが。」
少し土煙がおさまってきた。
アウデリアさんは、斧を地面に突き刺して腕組み。
戦う、というか説教するときの親の顔だ。
「いくらなんでも、物事にはやり過ぎってものもあるぞ!」
「・・・な、なんのこと?」
「親の口から言わせるか!?
ミュラのことだっ!」
「・・・」
「おまえ、サカリでもついたのか!」
親にここまで言われたら、わたし舌噛むかも。
「いや、お母さん、これはきっといろいろとわけが?」
「いろいろ? わけ?」
「そうですよ!
ルトくんとの別離の寂しさに耐えかねたとか、このチャンスに結婚式をあけちゃおうと思ったけどダメになったとか、いろいろ辛いことが重なって。」
残念仮面さんの肩が震えている。
そこらへんの事情は、ルトくんから少しは聞いたのだ。
もともと、ルトくんはグランダの王位後継者。
残念仮面さんが結婚すれば王妃になって(ならなくてよかったなあ)クローディア公爵家は、今の公爵の姪が、騎士団副長と結婚して継ぐはずだった。
もしくは、王位継承がトラブって、ルトくんが王位につかなければ、ルトくんは入婿みたいな感じになって、公爵家は残念仮面が継ぐ。
ところが、現状どうなっているかというと、ルトくんが王位を継がなかったまでは、予想の範囲内だとしても、冒険王に俺はなるっ!とか言って、グランダを離れ、残念仮面さんもそれじやあ、わたしも、と後を追うと。
ところが、政治的なトラブルで残念仮面さんは、グランダを離れられず。
ルトくんたちはルトくんたちで、冒険者の資格を取り直す必要があって、冒険者学校に通うはめに。
「結婚式はついでやっとこうというノリであげるものではない。」
と、お父上に言われたそうだが、なにしろ、いまは、クローディア「大公国」だ。
結婚式を挙げるなら、大公国を継ぐのかどうかハッキリさせるべき、継がないのなら、替りに跡取りになる姪御さんや副長にちゃんと話して、筋を通せ、と言われて、残念仮面さんはぐうの音も出なかったらしい。
そういう責任感はあるんだ!
よしっ!
我が守護者をフォローはしたぞ!
さあ、言い訳をしてみろ、我が守護者、残念仮面よ。
「なんか、もう寝るかなって、時間になると体がもぞもぞするんだよね。
それで寝室に向かうと、ほら、必ず酒蔵の前を通るじゃない?
そこで、寝酒に少し飲もうかなって、ワインを手に取ると、そうだ、一緒に飲む相手がいないかなぁって、思えてきて、そうするとほら、酒蔵とわたしの寝室の途中には、必ずミュラの部屋があるわけで」
はあ。
わたしとアウデリアさんのため息は、見事にハモった。
だ、駄目だ。駄目なひとだ。
「あのなあ、フィオリナ。」
アウデリアさんが、ぼりぼりと朱色の髪をかいている。上品な仕草ではないが、このひとには似合っていた。
「おまえ、少し頭を冷やしてこい。
覚えたばかりの蜜は、たいそう、甘く感じるだろうが、溺れてしまうのは、よくない。」
あれ?
わたしはどうも、アウデリアさんを好きになりかけている。
言ってることは、真っ当だし、駄目駄目仮面さんの気持ちも頭からは、否定しない。
「そ、それはどういう・・・」
「ランゴバルド冒険者学校に三ヶ月ばかり、留学して来い。
替りにこっちには、ドロシーを預かる。」
「わ、わたしは、」
「冒険者ギルドのグランドマスターの件だろう?
どうせ、三月かそこらで結論がでるものか。
おまえがいてもいなくても変わらん。というか、いない方がいい。」
アウデリアさんは、大きな手で駄目駄目仮面さんの髪を、掻き回した。
「しばらくは何も、考えずにルトと遊んでこい。」
ほんとにいいひとだなあ。いやまったく。
「おまえは逃がさんぞ、ヴァルゴール。」
やっぱりそうなりますか。とほほ。
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