第140話 夏ノ目秋流 スキル 守護者召喚

アウデリアさんがなぜ、ここに・・・

いやなぜ、はわかる。

わたしを逃さないように、待ち伏せをしていたのだ。


でもわたしは、「隣町」から馬車に乗るために、本当は行き止まりでしかない寂れた街道を歩かされた。

アキルが逃げようとしている。

その情報だけでは、ここで待ち伏せをすることなんて、できない。


まさか。

ルトくんたちが。


まさか、だよね。

なすすべもなく負けるくらいなら、両者場外乱闘の末、失格、とかの方がマシだとか。


いや。

本当にその方が星取りだけ考えたらマシだ。


ずい。


と、一歩踏み出したアウデリアさんは、わたしをはねたトラックくらいの重量感があった。


ルトくんたちが裏切った!

思えば、話だっていかにも急だったし、その割には、わたしの送り出しはみょうにスムースだった。

ほかの誰かにも、相談する間も無く、わたしは準備のため缶詰になり、ルトくんやロウさん以外と顔を合わせることなく、送り出されて。


「心配するな、アキル・・・だっけ?

おまえが何も覚えていなくとも、わたしの攻撃を受ければおまえの体は反応し、反撃を開始する。

少なくともむざむざと殺されることは、ないよ。


おそらく、この丘は地形からなくなるだろうが、幸いにこの辺りに住んでいるものもいない。」


だから!


わたしをグランダから追い出したのか!


怒るより何より、わたしはルトくんに感動すら感じた。


つまり、異世界人たちはわたしが、ヴァルゴールの手のものだと、信じている。

それはいくらわたしが否定しても、実際にこの体がヴァルゴールに造られている以上、反論の余地がない。

そして、ヴァルゴールは邪神で、わたし自身の存在もとっても危険なもので・・・・


なあんだ。


なら、元の世界といくらも変わらないじゃない。


「いい顔で笑うな、アキル。

己に与えられた能力でも思い出したか?


ならば使ってみろ。」


ぶん。

と、唸りを上げて、アウデリアさんの斧が一旋した。


「頭と胴が離れ離れになってからでは、どんなスキルも使いにくいぞ。」


「アウデリアさん。」

わたしは、ショートソードを外して草むらに放り込んだ。少しでも敵意のないことを示したつもりだった。

「わたしは、本当にヴァルゴールのなんか・・・じゃないんです。いや、えっと・・・」

言ってて、これは違う、と自分でも気がついた。

「いえ、直接会って、話をして、この体をもらっているから、ぜんぜん無関係ではないんですけど。

でも。」


わたしは一生懸命に話した。


交通事故に巻き込まれたこと。

白い女の人が、わたしの事故で壊れたわたしの体を治しているから、その間、異世界で過ごしてみないかと誘われたこと。

そして、そして大事なこと。

白い女の人は、この世界に何か害をなせ、なんて一言も言っていないこと。


「アキルよ。」

アウデリアさんはため息をついた。

「おまえは、ヴァルゴールに会い、そして今ここでこうしてしゃべっている。これがそもそもあり得ないことなのだ。

神はその存在そのものがあまりに強大になってしまったので、通常、定命の生き物と直接コンタクトを取れば、相手の精神を破壊してしまう。

だから神域、とかいう己の世界にとじこもっているわけなのだが。


おまえが言うようにヴァルゴールと直接話しをして、今も正気を保っている。それこそがあり得ないのだ。」


「そこはほら」

話をしてくれる気はありそうだ。わたしは頑張って反論してみる。

「わたし、異世界人なので。」


「定命の生き物、と言っただろう?

おまえはもとの世界では神かなんかだったのか?」


「でも、わたしは、いま、ほら!

ここにこうしています。わたしはおかしくなってますか?

言うことがめちゃくちゃで意味さえ通らないですか?」


「可能性として、おまえの自我はすでにすり潰されて、ヴァルゴールの操り人形となっている。」

「そんなことはないですよ!」


ほんとにないか、不安になったので、ぴょんぴょん跳ねてみた。

よし!

手足も体もちゃんと動く。


「それに!

なんども言いますけど、わたしはこの世界に害をなそうなんて思ってませんからっ!」


「わたし、が?」


「そう、わたしが。」


なぜそこにアウデリアさんが引っかかったのかは分からなかった。


なにか。

風圧のようなものを感じて、わたしは1歩、退いた。

目の前を、アウデリアさんの斧が通り抜けていく。

ああ! 私の、前髪がァ!


「抵抗するなら早めに、な。」


そうさせてもらうしか、ないようだった。


わたし。

夏ノ目秋流は、異能者。

スキルは、守護者召喚。


わたしは、「力のある言葉」を発した。


アウデリアさんが斧を振りかぶる。

その斧に。

落雷。


で、よかったのだろうか。

それとも、それに似たなにかの魔法?

それって、斧で裁ち切ることができるんだ?


続いて、アウデリアの頭上に黒い竜巻が降りてきた。わたしは頭を抱えて伏せた。

轟音が響き渡り、巻き上げられた土砂が私の、頭上にバラバラと落下した。


「美少女仮面」


アウデリアさんの、目の前にたつそのお姿は!


「残念仮面さん!」

「ぶらっちいろーず、見参」


あ、いま、噛んだ。噛んだね!?

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