第139話 勇者夏ノ目秋流 脱出

わたしとしては、何がなんだかわからない。


わからないことは「異世界なんだあ」で取り敢えず納得させといてわたしは、言われるがままにした。

もの凄く強いアウデリアさんってひとは、わたしを殺そうとしている。


なんとか試合形式を「お料理対決」とか「メイクアップ対決」にしてお茶をにごせないのか、それでも聞いてみたが、どうもアウデリアさんの希望で「武器、魔法あり、召喚なし」の試合形式で決まってしまっているらしい。


覚えることはものすごく多い。

わたされた銀貨は形も不揃いで、少し欠けたりしているのもあったけど、グランダでは「重さ」で価値が決まるからこれでいいらしい。

そして、10日分の荷物ですよ荷物!

毎日着替えなんてもってのほか。街道で宿は整備されてるから、一応お金をもっていけば食べるほうはなんとかなるみたいだ。それに武器!

わたし、はじめて渡されました。

ショートソードっていうのかな。


わたしでも片手で振り回せる軽い剣。とは言え、腰にさげたとたんに重みがずしっときた。

だって、半日歩くんだよ。半日。

やっぱり中学時代は陸上やっとくべきだねーーーー。

まあ、ふつうは異世界転生しないけどねーーーー。


シャツは長袖。胴衣をその上から着る。これは革でできたずっしりしたもので、一応鎧にもなってるらしい。

それにマント。さっそうとなびかせてると風の抵抗ですすみにくくなるので、体に巻き付ける感じ?


そんなこんな。

ほとんど、徹夜の作業が終わった日は、なんとロウさんの試合の日だ。


ロウさん、死なないでね。あ、死んでも大丈夫なひとでしたっけ? え、やっぱり死ぬのってやですか? あ、そもそもひとではないですもんね。


徹夜明けのハイテンションな会話をして、薄暗いうちにグランダを出た。

隣の街までは、一本道らしい。

えーと、山賊とかあとゴブリンとかは?


でないでない、とルトくんとロウさんは、笑って見送ってくれた。


よいひとたちだ。あ、いや、よいひととよい吸血鬼だ。

ランゴバルドでまた会おうね! ぜったいだよ!


そう言ってわたしはあるき出した。

しばらく歩くと、薄暗かったあたりがどんどん明るくなってくる。

周りは、THE・荒野って感じ。荒涼とした平野のなかにところどころ、小高い丘と森があって、そこにへばりつくようにして集落がある。

その周りだけは畑になってるみたいだけど、あとは、せいぜい腰くらいの高さの雑草がところどころに茂っているだけ。

当然、風は強いし、けっこう冷たい。


一番、心配していた足のほうは大丈夫だ。

ロウさんが、ブーツみたいなのをはかせてくれたんだけど、これがしっかり足に馴染んでくれて、いまのところ、どこもすれたり、傷んだりしない。


そのまま、どんどんあるき続けた。一度くらいは水を飲んだかな。


もう集落らしき、ひとの住む家も見えなくなっていた。


グランダには携帯の時計ってのがないみたい。

ランゴバルドから来たルトくんたちは、何分、何時間、何時に集合とかわりと正確に時間を表現するんだけど、現地の方たちは、一刻のちに、とか昼頃に、わりと表現自体がテキトーなことが多かった。


わたしも時計は持ってなかったから、それでも半日、もうお昼頃かな、って時刻になったと思う。

目指す隣町はまだ現れなかった。

道の途中が小高い丘になっていたので、そこまで小走りに駆け上がる。いや、道を知らないうちに間違えてた、とか。不安になったからだ。


で、不安は的中。


丘のてっぺんでいままで歩いてきた街道らしき、レンガが敷き詰められた道はぷっつりと途切れていて、そこから先、見渡す限り、ひとの気配なんてなかった。

そう言えば。

最寄りの隣町に行く街道で、誰ともすれ違わないなんてありうる?


わたしはぞっとした。

なにか。

なにか異常なことが起こっている。


とりあえず、日はまだ高い。

頑張って歩けば、日が暮れる前までに、グランダの街に戻れるはずだ。


丘を降りようと、振り向いたわたしの前に。


「よお。どちらにお出かけかな?」


筋肉を鎧代わりに身にまとった上から革鎧をきたような、女冒険者。

アウデリアさんがそこにいた。

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