第138話 第六戦メンバー変更!

いいなあ。対抗戦第五戦で。


古の魔女と。


真祖吸血鬼が。


口喧嘩で勝負。

まあ、そっちに誘導したロウが見事だったとほめてあげたい。

本気で自慢そうなロウだったが、ぼくは取り敢えず、にっこりしただけで、ほめてはやらないことにした。


だって結局、負けてるし。

ラウルが、「さすがはザザリ、わたしとロウが一人に戻っても勝てないかも・・・」と見当違いな感心のしかたをしていが、口喧嘩ってそういうものではないよね。





「それでは、これからドロシーの快気祝いをいたします。

アルコールがイケる方は、アルコールを!

そうでない方には、とっておきのケルビン茶を容易いたしました!


みなさん、グラスをお手にお取りください!

では、か」


ルールス分校が借り切った屋敷のリビングだ。

いつもよりお料理はちょっと豪華だぞ。


お酒もたくさん用意した。


「ちょっと待て!」

この中ではわりと常識人のルールス先生がとめにはいった。

となりには包帯姿もいたいたしいネイア先生が傅いている。

「なんで、エミリアと戦ったリアとやらもここにいるんだ!」


「いや、なに。リアも退院できたので、一緒に快気祝いをしようか、と。」


「なら、なぜドロシーと戦ったジウルがいる!」


「いやだなあ、ヨウィスだっていますよ。」


「まあまあ、おめでたいことは一緒に祝いましょう。」


「・・・というか、ウィルニア! おぬしまでなんでここにいるのだ!」


「戦いが終わればともに魔道の研鑽に歩む仲間ではありませんか。」

にこにことウィルニアは言った。

「学校対抗戦ってそんなものでしょう?」


「終わってないだろっ! まだ第六戦が残っているし!」


「なるほどなるほど。」

ウィルニアは、勝手にグラスのワインを飲み干した。

「乾杯前にお話しておきましょうか。でも少しアルコールをいれてからのほうがききやすいと思うんだけど。


結論から言うと、勇者アキルは逃げました。」


ルールス先生の顎ががくん、と落ちた。「に、逃げたああ・・・・?」


「うん、あのままだとアウデリアに殺されちゃうのが明白だったので。」

ロウも勝手にグラスに口をつけはじめた。

「ルトとわたしが逃した。なので第六戦は、なし!」


「え、え・・・・いいのか、それで。」

ルールス先生は、ウィルニアに食って掛かった。


「もちろん、よくはありませんよ。第六戦も予告のパンフレットも配布済み。特別付録は、ドロシーちゃんの一糸まとわぬオールヌードポスターです。」

「な、な、な、な」ドロシーが立ち上がった。「き、きいてないしっ!」


「大丈夫です。後ろ姿ですから。」


パラリと開いたポスターは、ドロシーの後ろ姿。顔は横向き、軽く足を開いて直立。滑らかな肌に、しなやかな筋肉の躍動が美しい。首筋から背中はもちろん、お尻のすぐ上、というかほぼお尻まで見えている。

うん、きれいだな、ドロシー。


「原画はいまのところは、ラウル=リンドの手作業だけどね。」

ウィルニアは感慨深げに言った。

「フルカラーというものが、こんなに大衆にうけるとは思わなかった。上古に廃れた技術だけど復活させようかなあ。」


「こ、こ、こ、」

「うむ、もう少し広背筋を鍛えたいところだな。」

ジウルが、淡々と言った。若い女性をみる男の口調ではない。

「明日から筋トレメニューを増やしてみよう。ベッド生活で下半身も衰えているはずだ。あわせて体内の魔力を循環させ、攻撃力、防御力のアップにつなげる。」


「はい!師匠!」


「し、ししょうおぉ!?」


「ドロシーは三ヶ月ばかり、魔道院に交換留学させます。」

ぼくは出来るだけなんでもないことを、報告するようにうきうきした口調で言った。

「ドロシーの打撃、組技に魔法を組み合わせる技も、ジウルさんには新鮮にうつったみたいですからね。持ちつ持たれつってことです。」


「そ、それはかまわないと、思うが。

交換留学って、かわりに誰を」


「まあまあ、ルールス分校長、疑問点にひとつひとつ、答えていては話がすすみません。」

ウィルニアが、ルールス先生のグラスになみなみと酒をそそいだ。

「話を少し戻しましょう。」


「せ、せいとをまるはだかにして、そのいらすとを・・・・」


「あれは、検査中にロウが見た記憶映像をラウルに転送して、イラストにおこしたものです。わざわざ裸にしたわけではありません。」


「でも実物どおりなんだろ? これ。」


「まあ、そうですね。ラウルにはデフォルメはしないようにお願いしてるので。

で、もう少し話を戻しましょう。」


「アキルが逃げた・・・」


「そのもう少し前です。勇者が逃げちゃっけど、第6戦の予定は組んでしまったよ、のところからです。」


「そ、そうなのか。」

無意識のうちに、ルールス先生はグラスをいっきに空けている。いやあ、いい飲みっぷりだ。

だいぶストレスたまってたんだなあ。

ウィルニアは、またがばがばと酒を注ぐ。

がばがば。

ごくごく。

がばがば。

ごくごく。


ルールス先生の顔がとろんとして、息が荒くなってきてから、ウィルニアは、パンフレットを開いて、ルールス先生に突きつけた。


「にゃんらあ・・・こんどはだれのぬうどじゃあ・・・くけけけけ、そうだネイアいっしょにぬごう!」


ネイア先生が、水を差し出した。それをこくこくと飲みながら・・・


「にゃうに? 第六戦・・・急遽カードを変更?・・・だと。


『斧神アウデリアが出ることが出来ないというなら、このわたしが出るしかあるまい。魔道院新学院長“賢者”ウィルニアがついに闘技場におりたったぁ』」


ほえ、という顔でルールス先生はウィルニアを見上げた。たいへん可愛らしい。

ウィルニアもとてもいい笑顔で、はい、と言った。


「・・・・ならば、勇者不在の今、わたしが立とう! ついに神秘のベールを脱ぐか!

冒険者学校の前学長! ルールス・ヴァエランド・ローゼバック! これが最終! これが究極!

ラスボス対決にふるえろ!人類社会!」


ルールス先生の口から注ぎ込まれた清水がそのまま、床にしたたっていた。


泣き叫ぶ声はけっこう大きかったので、ホテルではなくて屋敷を丸借りしておいて、よかったなあ、とぼくは思った。

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