第134話 夏ノ目秋流~死に方のお稽古
わたしは、ランゴバルド冒険者学校がどんなところか知らない。
しかし『邪神』に召喚されて、この世界に顕在しているわたし、夏ノ目秋流にとっては、とりあえず、邪神がわたしのもともとの身体を修復してくれるまでの間の2~3年の間の衣食住を保証してくれるところで、ひょっとして、その約束が果たされなかった場合には、その先の働き口を保証してくれるという誠にありがたいところになるはずなので、協力はおしまない。
わたしに出来ることならば!
ここまで、ランゴバルド冒険者学校は二勝二敗。
星の上ではいい勝負なのだが、あとの二人がまあ現代語に訳せば「チョーヤバい」存在らしい。
ルトくんの仲間ならば、今回不参加の三人ならば、対抗できるらしいのだが、なにしろ今回は不参加。
話をきくと、ロウさんの試合相手の王太后のメアさんは、王位継承のごたごたで、ルトくんを殺そうとした相手、そして、その前世は「闇森の魔女」と呼ばれるとんでもない魔法使いのザザリで、ザザリさんは、ルトくんのお仲間で今回の待機組リウくんのお母さん。
わたしと対戦することになっているアウデリアさんは、残念仮面さんのお母さんだそうだし、なかなか愛憎がうずまいているみたいだが、そうでもないらしい。
「ロウはなんとかなるとして」
とルトくんは言った。
ドロシーさんはまだ退院できない。エミリアは、いやほんとは年上らしいのでエミリアさんは傷の自己治療とかで部屋にこもりきり。ネイア先生は迷宮内のそういう施設で治療中らしい。
ルールス先生は、ネイア先生の見舞いとかで出かけているし、屋敷はわたしと、ルトくんとロウさんの三人だけ。
「勝てるの?」
とわたしが聞くと、いいや、とルトくんとロウさんは同時に首をふった。
「わたしが不死身なので。」
と、ロウさん。
「それは吸血鬼が不死身だって意味で?」
「いや、死んでも復活できるので。」
「じゃあ、負けて死ぬのはもう前提!?」
ロウさんは難しい顔で頷いた。
「それで、アキルのことなんだけど。」
「え? ロウさんのほうはもう終わりなの!?」
「わたしは強いんだ、強いんだ。強いんだ。強いんだ。ほんとは強いんだ・・・」
下をむいてぶつぶつとつぶやくロウさま!
それって、メンタルでなんとかしようとするときの自己暗示!!
「な、なにか方法はないんですかっ!」
「開始同時土下座。」
「そ、それはいくらなんでも!」
「ところが、ウィルニアの情報だと、ザザリことメア陛下のご機嫌があまりよろしくないそうだ。
どうもメア陛下が、魔道院の臨時講師に手をあげて、この対抗戦に出てきたのは、そもそもかつての息子であるリウと戦いたかったという理由らしい。」
「な、なんでぇ!」
千年の時を超える母子の愛憎劇にわたしは震えた。い、異世界だ・・・やっぱりここはわたしのいた世界とは違う!
「いや、メア陛下曰く、『母親というものは乗り越えなければならない壁として、一度は我が子の前に立ちはだかるべきだ』とかで。」
い、異世界だああああっ!
と叫んだわたしに、ルトとロウがそろって首を振った。
ザザリだけだ、と。
「で、リウが出てこないとわかった時点で、メア王太后ことザザリは、ものすごく機嫌が悪くなった。
八つ当たりで誰でもいいから、試合相手をズタズタにしないと気がすまないくらいに。
なので、いきなり土下座してもうっかり踏んづけたり、いや土下座する間もなく彼女の異界に巻き込まれたりして、勝敗もなにもなく、惨殺されるのではないかと。」
「ざ、ざんさつまでけっていっ!?」
「・・・わ、わたしは強い、わたしは強い、わたしは不死身の真祖、わたしは強い・・・」
ロウさま・・・かわいそう・・・
「で、アキル!」
「はいっ!」
「アウデリアさんにとっては、この世にたびたび害をなしてきた邪神ヴァルゴールは、不倶戴天の敵なんだ。それこそ、もし、ヴァルゴールが猫に憑依したとわかっただけで、犬派に転向するくらいに。」
うーん、そのたとえはちょっとわからないかな・・・
「なので、勝敗を度外視にして殺しにかかるのは間違いない。」
「ま、まずいじゃないですかっ! わたしはロウさん、みたいに復活できませんよ!」
「一応、この世界には死んだものを蘇らす蘇生魔法というものがあって。」
「ほ、ほんとですかっ!?」
「ただ、死んだ人間を蘇らせた場合、それは本人なのか、それとも記憶の一部を引き継いだだけの別人なのか、神学的に、また魔法学的に議論があって・・・」
「ダメじゃん!」
「なので、アキル。」
ルトくんは真面目な顔で言った。
「とりあえず、逃げろ!」
「へ?」
「試合放棄して逃げたものまで追いかけてこないだろう。隣町までは歩いても半日だ。
そこまで行って、ロザリア行きの馬車に乗れ。ロザリアまでは、だいたい10日くらいかかるが、そこからは列車が出ている。ランゴバルドへの直通はないから、いったんミトラ行きに乗るんだ。
ミトラからならランゴバルド行きの列車は、何本もある。」
「な、なんでです! わたしはヴァルゴールの使徒でもなんでもありませんよ! 勇者とか言われてますけど、ヴァルゴールになにも命令なんか受けてないんですから!」
「使徒じゃないのは分かる。なんらかの命令も受けてないのも本当だろう。」
ルトくんは頷いてくれた。
「アウデリアさんは、一説によると戦斧を使うかの英雄神の生まれ変わりと言われている。
本人は、否定してるけどね。でもあの尋常じゃない強さは、少なくとも英雄神の『何か』なんだろう。
同じような意味で、アキルもヴァルゴールの『何か』なんだとは思ってる。」
わたしは、悲鳴をあげかけた。
「ほんとにわたし、この世界に何か害をもたらそうなんて気はまったくないんです!」
「それはそうだろ。もしあったら、ぼくらがほっておくと思うか?」
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