第126話 第二回戦開始!
会場内では、魔道院の生徒による発表会が行われていた。
投げ上げられた投擲的に次々と、炎の矢が炸裂し、爆音を上げる。
出席しているのは、いずれも10代。魔道が学問として体系づけられている現代にあっては、魔道士、魔術師として身を立てようとするものは、基礎教育を終えた後、私塾で魔法の基礎を学びながら、魔道院を目指すのが一般的だ。
幼い時から、食事制限と投薬、精神的制御下で、魔道士むきの人間を作る方法は、それはそれで確立されてはいたが、上古の昔はいざ知らず、今日ではまずありえない。
途方ないコストをかけて人間一人を潰した挙句、必ずしもそれがモノになるとは限らない。
そして、仮にモノになったとして、人ならざる術の一つが使えてもそれは「それだけ」のこと。
生活の中に、さまざまな魔術、魔道によるアイテムは存在している。アイテムは作ってしまったらそれで終わりではなく、メンテナンスも必要だ。
単発の「すごい魔法」しか持っていない魔道士は、活躍の場は極めて限られるのである。
攻撃魔法、防御、付与魔法、治癒魔法など各分野に一定以上の知識をもち、それが実践できる。
これをグランダでは上級魔導師と呼んでいるが、この資格を取れるのは、魔道院で学ぶしかない。
いま、会場でデモンストレーションを行なっているのは、そういうわけでまだ若い学生たちである。
10代のうちにさまざまな基礎教育をこなして、あるものはそのまま社会人となるし、さらに魔道の奥に足を踏み入れたいものは、選考過程にすすむ。
つまり、グランダで、魔法を生業とするものの大半は1度は魔道院の門を叩くことになる。
例外的なのは、むしろ冒険者ギルドであって、特定の魔法に特化しているのは、パーティのなかでそれで利用価値があればなんの問題もない。まして初見殺し的なオリジナルの魔法でもあれば、万々歳である。
演武的な的当てが、終わると、試合形式の魔術戦が組まれていた。
実は生徒たちにとっては、これは卒業時の席次にかかわる重大な試験を兼ねていた。
こう言った一連の水増し的な出し物は、たんなる見世物としては、及第点以下だっただろうが、観客の多くは各国からの学校関係者が多かったので、とくにブーイングも起こることはなかった。
この時の出場者のひとりは、ミトラの魔法院の有力者に見出され、卒業後、ミトラの魔法院に進学する。
その、彼こそが、あのマクシミリアン・ジーナスであり、ご存知のとおり、聖光教において史上初めて教会外部出身の枢機卿となり、伝説的な冒険者パーティ「踊る道化師」とともに聖光教の改革に尽力することになるのだが、この日のことを回顧録に書き残している。
タイトルは、「始まり日」である。
さて、後日の話はとにもかくにも。
おまたせいたしましたぁああああ!
いや、おまたせしすぎたのかもしれません!
大賢者ウィルニアさんのナレーションだ。
異世界人である、わたし、夏ノ目秋流には、なんか下品に聞こえるのはなぜだろう?
第二回戦は、武器あり!魔法あり!アイテム使用あり!
ありありありのデスマッチ!
挑むのは、実年齢は不肖なれど、ちゃんと成人してるのは間違いなしっ!
棒術を駆使し、対抗戦に挑むのは、謎の美少女エミリアちゃん!
対するは、わが魔道院にて研修中のちょっとエッチな看護師さん!
リア・クロォオオルディア!
元勇者パーティ「愚者の盾」のメンバーにして到達級の冒険者だあっ!
うーん、ナイスですねえ。
まさか、わかってやってるのか、大賢者!?
一回戦の反省をふまえて、両選手には笛をもたせております。
ちょっとヤバいと感じたら笛を一回。
だいぶヤバければ笛を二回。
もうダメ!っと思ったら笛を三回吹いてください!
・・・・ウィルニアっ! てめえもまさか転生者かっ!
エミリアは、身体を覆っていたマントを脱ぎ捨てた!
その下は、ドロシーさんが着ていたような身体にぴったりしたボディスーツ。
でも・・・・
「アキルのアイデアはすごくよかった。」
わたしたちは今日は観客席だ。
となりに座ったルトくんが難しい顔で言った。
「ドロシーのスーツを解いてから、もう一度編み直す。
出来る限りはやったんだが、糸自体が破損してしまっている部分が多すぎた。エミリアはドロシーよりも小柄なんだけど、それでも」
エミリアのボディスーツの銀色部分は身体の左半分だけ。
右側は・・・さすがになんにも着ていないわけじゃなくて、白い伸縮のある生地で作られていた。ドロシーさんは銀色部分以外はほぼ透明だったから露出感はちょっと低い。
でも、エミリアが幼く見えるから背徳感は倍だ。
エミリアが長い棒を取り出した。どこから? まるでわからない。これが話にきいた収納魔法なんだろうか。
そして頭の上で棒をくるりと回してから、先端をぴたりと相手にむけて静止させた。
その延長上に、リアさんの胸がある。
谷間を見せすぎのその胸が。
リアさんがにやっと笑う。
「ずいぶんと、出来る子じゃない?
わたしもちょっとは本気になろうか、な?」
「さて、第二回戦となりました。今日はわたくし、実況はウィルニア。
特別ゲストとして、謎の拳法家ジウル・ボルテックさんに来ていただきました。
ジウルさん、エミリア選手なんですが、じっさいのところ、我々グランダにはまったく無名の選手です。」
「うむ。しかし、あの構えは『出来ている』。戦う前からわかる。達人のレベルだろうさ。」
「しかし、エミリア選手、見たところ13,4歳にしか見えませんが。」
「見かけどおりの年齢ではないのだろうな。強すぎる魔力をその身に宿したもには往々に見られる現象だ。」
「はあ、魔力過多による不老長寿ですか。悪いことではないような気もいたしますが・・・」
「魔道の真髄を極めたいと思う研究者には、な。だが、愛するものと一緒に年を取れぬ悲しみというものも常についてまわるぞ。特に幼少年期から青年期にかけては、一種の発育不全として発現しがちだ。」
「体の成長が知識や精神のそれ、について来ないということですか?」
「そうだな。特に恋愛については致命的だ。愛するパートナーがいても相手がもとめる方法で愛してやれない、というのはけっこうな悲劇だろう?
おまえのように、付き合う相手をとっとと、神獣や古竜に切り替えてしまったヤツにはピンと来ないかもしれないが。」
ルトくんはなんだか、すごく怖い顔をしていた。
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