第125話 勇者夏ノ目秋流のアドバイス

ルトくんは、朝ご飯のあとすぐに出て行って、お昼過ぎに疲れ果てて帰ってきた。


わたしの顔を見るなり、がっくりくずれ落ちる。

「そうだった。

アキルのことも考えないと。」


「わたしは最終戦だから、いいよ。それより、どうした?

ルトくんの秘策は失敗だったのかえ?」


聞いて驚いた。なんとルトくんは、残念仮面さんをうちのチームにスカウトに行ってたらしい。

残念仮面はさんは、その名をフィオリナさんと言ってすごい剣士らしい。


浮気されて、しかもばれても別れる気がなくって、それでも婚約続行なんて、ルトくんは、婚約破棄に何かトラウマがあるのだろうか?


「とにかく、明日のエミリアさんの試合、頑張ろうよ。

なにかまだやれることはきっとあると思う。」


それでも、ルトくんの顔色は晴れない。

顔をはさんで、ぐっと顔を近づける。わたしと同い年のはずだけど、女の子みたいに肌がきれいだ。


「わたしでよければ話してみて!」


宿に使わせてもらってるのは、中世ヨーロッパ「風」のお屋敷で、全員に寝室があって、20人以上が宴会できそうな食堂とそれに併設されたリビングがある。

食事や、お洗濯など身の回りの世話をしてくれるメイドさんが3人いて、そのひとたちの寝室もある。


あくまで、わたしの感覚で中世ヨーロッパ「風」であって、大きなバスタブを備えたお風呂が二箇所に、トイレは各寝室にある。蛇口をひねると水が出る上水道もあるけど、沸かさないで飲むのはダメらしい。

本当の中世ヨーロッパよりは衛生面は、かなりマシ。

「浄化」や「煮沸」などは魔法でなんとかできるらしいけど、こりゃ、魔法のないわたしにはそれでもけっこうしんどい世界かもしれない。


そのひろーいリビングのすみにルトくんを連れて行った。

てっきり、残念仮面さんのスカウトに失敗したのか、それともいっそ、別れを告げられたのかと思ったら、そうではないらしい。

それどころか、残念仮面さんとその彼女さんのエッチなあれこれを話して盛り上がってきたらしい。

わたしも下世話な興味であれこれきいてしまったけど、けっこう純情可憐な異能者のわたしには、顔があかくなるような部分も多かった。


それを横で、給仕しながらその彼女さんがきいてたっていうから、もうそれはそういうプレイじゃないかな?


そして、ルトくんは一番ショックを受けたのが。


単純にこちら側に残念仮面さんをスカウトしようとしたルトくんに対して、残念仮面さんが出した代案が・・・


魔道院の主力メンバーを闇討ちすること。


具体的には、どうやってもこちらが勝てないと思われる王太后のメアさんと、冒険者のアウデリアさん。

わたしはアウデリアさんに対戦相手にご指名されているから、他人事ではなくなった。


メアさんは、わたしを群衆から守ってくれたひとだ。

優しそうで、そんなすごい力があるようには見えなかったけど。


「あのひとは、古の魔女ザザリの転生体なんだ。」


異世界っぽい展開にわたしは、ちょっとわくわくした。


「そのザザリって魔女は強いの?」


「得意なのは、結界と精神支配かな。勝てる可能性のあるヤツは、今回の遠征に参加してない。」


「わたしと戦う予定のアウデリアさんって・・・あのひとも強い?」


「強い弱いというより、生ける自然災害ってところかな。」


そんな強いひとを闇討ちしたって返り討ちに合うのがせいぜいなんですけど?

残念仮面ことフィオリナさんならそれが出来るっていう?


「魔女ザザリは、現在はあくまで王太后メア陛下だし、アウデリアさんはフィオリナのお母さんだから、いろいろ問題はあるんだけど。」


フィオリナで一勝をもぎ取るより、闇討ちで二敗を無くした方がいい、と、そんな考えに同意しかかった自分に落ち込んでいたらしい。

考えは真っ黒だが、悩んでるルトくんはかわいい。

ちょっと守ってあげたい気もするんだけど、彼の周りは美人で変人ぞろいだからなあ。わたしの入る余地があるのか。


「なんとか正攻法で、一勝、出来れば二勝、勝ち取れば格好はつくよね。

まずは、明日のエミリアさんを勝たせれば、大きく前進出来る。リアさんって人とは、ドロシーさんのお見舞いに行った時に病院であったけど、どういう戦い方をするの?」


ルトくんが言うには、光魔術の天才らしい。得意な技は「光の矢」。それを飽和状態に、無詠唱で放てるそうだ。


「で、それをかいくぐってなんとか近づくと、今度は『光の爪』が待っている。」


光の爪は、リアさんのオリジナルな魔法で、光の矢を恒常的に発生させて、手足の指に装備させたものらしい。

なんだか、ドロシーさんが、自分の拳や脚に火や氷をまとわせていたのに似てるね。


そうわたしが言うと、ルトくんは、たぶんリアさんが最初で、それを見たロウさんが、アレンジしたのがドロシーさんの技じゃないかな、とそう言った。


「でもドロシーさんってもともとは、戦士なんかじゃない人でしょ? その彼女があそこまでジウルってひとに食い下がれたんだから。」


ルトは、うつむいてポツリ。


あれ、反則だから。と、言った。


もともと、武具は使わない素手の格闘戦で、ドロシーだけが、あの銀のマイクロビキニみたいなのを着けてて、それがじつはすごい魔法のアイテムだったって。だからあそこまで食い下がれたって。

そう言うこと!?


それなら、簡単じゃない!

わたしは叫んだ。


「明日の試合は武具はおっけいなんでしょ?

だったら、ドロシーさんのボディスーツをエミリアさんに着せてあげれば!」


ルトくんは、目を丸くして立ち上がった。そのままわたしの両手を握りしめて、ぶんぶん振った。


それから、猛ダッシュで二階に駆け上がる。


「ロウ! ドロシーのスーツは回収しているな!

すぐにエミリア仕様に仕立て直す。エミリア!」


そのあとは、けっこう大変だった。

ドロシーさんとエミリアは、背もだいぶ違うし、あのボディースーツは特殊な糸で、個人個人に合わせてオーダーしないと、着てる方が大変なことになるらしい。

エミリアさんは、ルトくんとロウさんに捕まって、そのまま夕食まで缶詰になっていた。


何をやってたのか聞いたら、素っ裸でずっと棒を振らされてた、と。

さすがに、げっそりした顔で、美少女はそう告白した。

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