第115話 迷宮のチェスゲーム
グリムド、と飛ばれている3次元ボードゲームがある。
一般には流通していないし、今後も流行ることはないだろう。
騎兵、弓兵、重装歩兵・・・などを模したコマを動かして戦う。新たな兵を生産したり、新しい兵種を創造したり、場合によっては相手の戦力を自軍に引き寄せたり、することもできるため、消耗戦というよりは持久力の試される戦略が必要だ。
対局者は、何時間も、展開によっては何日もその球体状に展開した模擬戦状と向き合わなければならない。
そして、このゲームの最大の特徴は。
「槍兵を、黒の森へ二つ。バリスタの準備にかかる。索敵兵を赤の原へ。」
コマに手などかけない。
アモンの命じたとおりに、彼女のコマが移動する。
が、槍兵のコマがひとつ。
移動した先で消滅した。
いつも野太い笑みを絶やさない口元が、歪み
「グリムドかっ」
と忌々しげにつぶやいた。
「今回のグリムドは、透明化が使えるらしい。
索敵を増やした方がよくないか?」
リウはそう言いながらも、彼のもつ重装歩兵を白の草原に展開させる。
索敵を出す気などさらさらない。
正面からの真っ向勝負だ。
しかし、陣形は防御に適したものを選んでいる。
もっとも左においた歩兵が、バチバチと火花をあげて消滅していく。
そこに、アモンがバリスタによる遠距離攻撃を叩き込んだ。
手応え、はあった。見えぬクリムドが悲鳴をあげて消えていく。
そう。
このゲームの最大の特徴は、ゲームの名前にもなっている第三勢力「グリムド」の存在にあった。
ゲーム開始と同時に、召還される「それ」がどんな能力をもち、敵なのか味方なのかプレーヤーにはわからない。
プレーヤーたちはときにはともにグリムドを討ち、あるいは、相手にグリムドをけしかけ、最終的には相手プレーヤーの殲滅を目指す。
プレイするにはかなりの魔力を消費する。
ゆえに。
このゲームをプレイすることができるのは、一流以上の魔導師に限られていた。
「リウがこのゲームのプレーヤーだとは、知らなかったぞ。」
アモンは目を細めた。まずは協力して第三勢力「グリムド」を叩く展開か。
「魔素の過剰摂取による凶暴化を実際の戦闘ではなく、ゲームで発散できないか。」
リウは言いながら弓兵によるなにもない場所への斉射をしかける。
バタバタと見えない兵が倒れていく。
「このグリムドは、わりと成績がよくてな。実際の戦闘の三割程度は、凶暴化抑制に効果があった。」
「魔力の消費量が。」
「魔素による強化をなめるなよ。少なくとも魔法に素養のある魔族なららこの程度、やすやすとプレイすることができたぞ。」
「作ったのは亜空竜ウドアだ。」
アモンは斥候を走らせる。
空振り。
「つまり古竜を基準に、魔力消費量を設定している。それに匹敵する魔力をもつとなると・・・」
「まったくウィルニアの迷宮封じ込め作戦は正しかった・・・としか言いようがない。」
リウは頷いた。
「世界を滅ぼすまで戦った後は、お互い同士が殺し合う。そしてなにも残らなくなる。
・・・また見えないところに弓の斉射。なにかが苦悶の声をあげて倒れた。
「もうひとつ、このゲームで気に入っているのはこれだ。」
「・・・・」
「もうひとりのプレーヤー『グリムド』。
現実における戦いも決して、相対している敵だけがすべてではない。必ず、それを見守っている第三者がいる。」
浮かべた笑みは魔王のものだった。
「そして、そいつはいつでも敵にまわる。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます