第107話  闇の中

「あいつらを行かせた理由が?」


リウは、不機嫌そうに、カップに残ったお茶を飲み干した。

ルト達が旅立って、半日もしないうちにこれだ。

そんなに不機嫌になるなら、一緒に行くか共に残るか。ほかに方法はあるのに。

アモンは、空になったカップの底を睨むリウと、カップをかじり出しそうにするギムリウスにかわりのお茶を注いでやり、自分の分を入れるために、湯を沸かす。


「前にも言ったが、オレたちはチームだ。同じパーティでともに肩を並べて戦う。

実力はある程度は均衡していないと話にならん。」

「確かに、ルトとロウは、このパーティの弱点ではあるわね。」


場所は「神竜騎士団」の団長室だった。

少なくとも威張り散らいだけの団員は、逃げ出し、「神竜騎士団」は学内の自警団としての本来の姿を取り戻しつつある。


お湯はすぐに湧いたが、茶葉の対しては高音すぎる。

適度にさめるまで、少し時間をおくことにした。


竜はこのように並行して作業をすることが、当たり前のようにできる。

大半の人間には無理だ。彼らは注意すべき項目を切り替えることで同じようなことはできるが、それは「同じようなこと」であって「同じこと」ではない。


「ロウは分割された現在の魂と体で戦うことに慣れていない。いままでは、迷宮の、階層主としてサポートを受けられていたけど、それがなくなったいま、明らかに戦い方を見失っている。」


「ルトはもっとひどい。」


リウは吐き捨てるように言った。


「あいつははなから、戦うことをしない。

逃げ回るだけだ。」


「それで十分だからじゃない?」

アモンは冷静に言った。

「逃げ回って、相手を分析できれば、あとはわたしたちがいる。

わたしたちに出会う前は、フィオリナがその役目をしてたのでしょう。


いままで、彼が一番本気に近い戦い方をしたのは、たぶん、ウィルのアンデット、シャーリーと戦ったときよ。

わたしたちだって手こずるあのアンデット聖女をルトは圧倒したのよ。

ウィルをあしらいながら、ね。」


「それでも気に入らない。」


魔王はぼやいた。


「戦いは速やかに相手を無効力化させるのがベストだ。うっかり消滅させてしまったら、あとで泣けばいい。

シャーリーのときも、あえてシャーリーにトドメをささずに、血の契約で従属下におき、『黒い刃』の、呪いを解呪させている。」


「シャーリーは、ウィルのお気に入りだからよ!」


アモンは茶葉をポットに投入した。これで茶葉がポットのそこに、ゆっくりと沈んだころが飲み頃だ。


「ウィルも、気に入らない!」


とうとう魔王の愚痴はそちらにまで飛び火した。


「なんで一緒にパーティを組むのを嫌がったやつが、のこのこ地上に出てきて、魔道院の学院長におさまるなど。

なにを考えている?」


「思考の権化のようなやつだか、この件についてはなにも考えていないと思う。」

アモンはからからと笑った。

「その場のノリで引き受けて、あとはなにか魔道院内で楽しいことでも見つけたのだろうね。」


「とにかく、だ。」

リウは強引に結論づけた。

「ランゴバルド冒険者学校が負ければ、ルールス分校は解散、オレたちは資格がとれないままで路頭に迷う可能性大だ。

かといって、」


そうかといって、なのだ。


「グランダ魔道院が負けて、ウィルがコケにされるのも気に入らない。

いまでも小説で唄で詩で劇で、さんざんおもちゃにされ続けてるんだぞ。

なんだ、このオレとウィルが密かに想いあっててそこに美貌の真祖吸血鬼があらわれて、寝取り寝取られ関係になるというのは!」


「あら面白いかも。タイトルは?」


「定年間近のバツイチ孤独なおっさんのオレが転生したら美貌の吸血美少女に! 魔王と賢者から言い寄られるまさかのハーレム展開、と、思ったら魔王と賢者もデキていた!?」


「こんど、わたしも読んでみるわ。」


アモンは指をならして当番の団員を呼びつけた。


「なにはともあれ、勝っても負けてもだめという、どうしょうもない状況を打破するのがルトのお得意だと、わたしはふんでいる。

お手並み拝見といこうじゃないか?


おーい、夜食をなにか頼む!

ギムリウスがいるから量だけはたっぷりでね!」

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