第104話 夏ノ目秋流と駆けつけた守護者たち
と、ぐだぐだとあって、わたし、夏ノ目秋流は異世界へと招かれた。
体が。異世界用の体が構築されていく。
さらば、わたしの元の体。ちゃんと修復してくれよ、ヴァルゴール。
わたしの体はくるくると回りながら、飛んでいく。
光り輝く門が見えた。
そこを一気にくぐり抜ける。
召喚されたっ!
召喚されちゃったあ。
異世界。異世界。異世界なんだよね。
わたしは目を開ける。
周りは薄暗い。空気は冷たくて乾いていた。
どこかのお屋敷の集会場かな?
体を起こそうとして、気がついた。
・・・・動けない!?
手首と足首が、がっちり固定されている。
首は動いたので、恐る恐る横を見て、わたしはどうも最悪の事態っぽいことを確信した。
手首は(多分足首も)枷のようなもので、床に固定されている。
いやな、とってもいやな予感がして、首をめいっぱい下に向ける。
ああ、マッパだと?
うむ。
わたしは、ヴァルゴールの力を受けた勇者として、この地に召喚されたんだよね。
そういう説明だったよね。
そりゃあ、いろいろ、後ろ暗い陰謀がらみで勇者が、騙されたり洗脳されそうになって逃げ延びる、なんて展開も予想はしていた。
しかし、いきなり全裸で床に固定されているなんてアリなのか。
これではまるで勇者ではなくて、生贄・・・・
「邪神ヴァルゴールが召喚さしめた異世界人よ。」
顔は暗がりに沈んで見えない。
「我らは、ヴァルゴールの使徒にあって、使徒にあらず。
闇に潜んで闇を打ち払う。
邪神の召喚した異世界人よ。その生命は我々が刈取ろう。」
どうも人影は複数いるらしい。
つまり、こいつらは、あれか。邪神の教徒のふりをして、ヴァルゴールの活動を密かに妨害するという複雑な立場のひとたちか。
「・・・・あの、わたしは、#夏ノ目秋流__なつのめあきる__#っていうただの女子高生なんですけど?
交通事故に会って死んじゃうところをへんな神さまに見初められて、この世界におくりこまれたんです。
なんでいきなり、殺されなければならないんですか?」
答えはなかった。
ならば!
我が異能を使うまで。
今度は間に合えよ!我が守護者!
「助けを叫んでも無駄だ。」
最初にしゃべったのとは違う。今度は女の声だった。しかもけっこう若い。
わたしと同じくらいの世代じゃないのかなあ。
ああ、エルフとかだったら、違うかも。
「ヴァルゴールが、召喚の場所に指定したのは、西方域と北方を隔てるクロム山脈のいまは打ち捨てられた寺院。
ここを通るものも、ましてわざわざ訪ねてくるものもいないわ。」
「でも本当になにも知らないんです。」
全裸の女子高生が涙でうったえてるんだ。だれか同情しろ。
しまった、全裸では女子高生かわからんな。せめて、ソックスくらいはヴァルゴールに再現させておくのだった。
「己に自覚がなくとも、ヴァルゴールは契約と隷属の神。」
ほんとうにちょっとだけ、女の人は同情してくれたようだった。
同情するなら金をくれ、じゃなくて助けてくれ。
「一度、魅入られてしまったらその身体も魂もあの邪神のものとなる。抵抗も無駄。知らず知らずのうちにすべてをヴァルゴールに捧げるようになるの。」
一歩前に出た彼女がフードをはずした。
額から左目を通って頬まで、無惨な刀傷がある。当然、その目はみえていないだろう。
顔立ちが整っているだけにその傷は、痛々しいものがあった。
「わたしは、ヴァルゴールの契約を破棄するために目をひとつ、つぶした。」
「俺は、左腕だ。」
最初にしゃべった男が、腕をみせた。剣を握っているのかとおもったらそうではなかった。
腕は手首から先がなく、そこに直接、剣が植え付けられていた。
外科技術は、もとの世界よりもすぐれていて、切断された四肢も魔法で再生できる、そんな技術があるとヴァルゴールは言っていたが・・・
「おまえはどうだ? なにかを犠牲にしてヴァルゴールとの契約を破棄することを望むか?」
「・・・・・」
わたしは絶句してしまった。おそらく、身体に欠損部分をつくること自体が契約破棄に必要なのだ。
わたしの場合はなにをもとめられるのだろう。深爪しただけでも眠れなくなるたちなのだ。
痛いのはだいっきらいだ。
「決心ができたら、そうしてやる。
おまえの場合は心臓をえぐり出さないとならないのだが。」
どっちにしても死ぬよね、それ。
「おまえにも選ばせてやろうではないか。」
集団のボスらしき、こぶとりの男が叫んだ。
「心臓を抉られて、ヴァルゴールとの契約を破棄したうえで、死ぬのか。
ヴァルゴールの下僕となったまま、首を切られて、心臓をえぐられて死ぬのか。」
どっちも死ぬのか。
夏ノ目秋流、ピンチ!
でもわたしは比較的、落ち着いている。
悲鳴も出でないし、脈もすこく早いけど、正常だ。
年齢とともにわたしの能力は高まっている。
以前は、「守護者」を召喚したあとはしばらく、意識を失っていた。だから、誰が「守護者」として現れどんなふうに問題を解決してくれたかは覚えていない。
だが、わたしがわたしのこの能力を「異能」としてはっきりとらえはじめたころから、情況はかわっている。
意識の断絶はいまのわたしにはないし、来てくれた守護者に具体的になにをしてほしいか頼むこともできる。
そして・・・・
守護者がいつ到着するかだってわかるのだ。
ほら。
短剣を振り上げたボスの頭の上。天井が音をたてて、くずれた。
呆然と見上げる邪神の裏切り者たちを、漆黒の蜥蜴の巨大な顔が覗き込んだ。
竜。
竜だ。
漆黒の鱗に覆われた巨大な竜だ。
さすがは異世界!
わたしはすなおに感心していた。
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