第100話 旅立ちの日
収納魔法という便利なものがあるにせよ、旅行の準備はそれなりに大変だ。
特に片道で10日はかかるグランダに出発するのである。
ルールスは各方面に、手紙を書きまくり、政府の高官らしき人物がひっきりなしに彼女の屋敷に出入りしていた。
このことから、ぼくは大体次のように推論した。
彼女たち、旧学長派はランゴバルドの従来の権益、つまり冒険者ギルドにおける西域の支配的な地位を引き続きランゴバルドに置きたい一派。
ジャンガ新学長派は、ギウリーク聖帝国と聖光教が、冒険者ギルドの主導権を奪おうとしているか、少なくとも影響力を強めようとしている一派。
悪いが、ぼくらはどちらの味方でもない。
だから、並列して記するのだが、、少なくとも、ギウリーク聖帝国を後ろ盾とする新学長派は、選挙で負かした相手にさらに暗殺まで企てる連中だ。
わからないのは、ルールスが同じ手段で、自分達を排除しようとしたときに、どう対処するつもりなのだろう?
ネイア先生一人を持ってしても、一晩で全員を一掃するくらいわけはないと思うのだが。
その理解に苦しむジャンガ学長とその取り巻きは、ぼくらの見送りに出ている。
にやにや笑いは、もう対抗戦の指定日まで、3日を切っているからだ。
かつて、勇者クロノとアウデリアは、ミトラからグランダまでを3日で走り抜いたそうだが、同じことができるのか? というわけだ。
まあ、方法はいくつもあって、ギムリウスが一緒なら転移が一番簡単だ。あと、アモンは飛べるから乗せていってもらう方法もある。
だが、今回は二人とも居留守組なので・・・・。
「ルールス先生自ら御出馬とは痛み入りますなあ。」
いやらしい笑いを満面に浮かべて、ジャンガは言った。
「人数すら揃えられぬかと、危惧しておりました。
ルールス先生にネイア、そちらの生徒4名・・・・おや、それでも一人足りないようですなあ。」
「一人は途中で合流することになっている。」
ルールス先生は、それだけ言って背を向けた。
ぼくらは、ジャンガ学長以下の冷たい視線を背中に受けて、出立する。
馬車は使わず、それぞれが荷物を背負う。収納魔法には得意不得意があるし、魔力を消耗するから、あまり日常使いはできない。
迷宮ならともかく、旅の間中、収納を展開しておくことは無理だ。
そういう『収納効果』のあるアイテムもあるが、結構な値段がするし、全く魔力の消費がなくなるわけではない。
公式には、一山を超えた隣町から、北へ行く列車に乗ると言ってある。山道で馬車は使えない。
一昼夜、かかる道のりだが、乗り継ぎを考えるとランゴバルドから乗るよりは、一日ほど早くつける計算だ。
これはランゴバルドが田舎にあるためではない。
例えばミトラに行く便は一日は何本もある。要は、北の最果てロザリアの街に行く便が少ないのだ。
そして、グランダはその北の最果ての街から徒歩で約10日の旅となる。
山道はかなり険しい。
数時間も歩くと、この手の労働に慣れないドロシーなどは結構へばった顔をしている。
ルールス先生は、道が上り坂になった瞬間から、ネイア先生におんぶしてもらっていた。
山道は一旦、くだりに変わり、程よい空き地がひらけていた。
「ここらでいいかな?」
と、ぼくがいうと、ロウは頷いた。
「黒竜!」
手を上げて、光弾を放つ。これはただの合図。
日が陰ったのは錯覚で、身の丈40メトルに達する巨大な生き物が泣きながら降りてきたからだ。
「ルトが初めて『黒竜』って呼んでくれたっ!」
そんなことで涙を流して喜ぶな、駄竜。
ネイア先生は戦闘体制。
両手にナイフを握り、いつでも飛翔に移れるようにしていた。
ルールス先生は・・・・ちょっとびっくり、多重障壁に加えて、位相をずらしている。これなら単純な物理攻撃なら、まず無敵だろう。
ドロシーは・・・・えらい。ちゃんと二本の足で立っている。
流石に緊張しているのだが、それは仕方ないだろう。
もちろん格、の点から言うと、いつも稽古をつけてもらっているアモンの方が遥かに上なのだ。
竜の姿は迫力はあるものの。
「我々、ルールス分校チームの七人目のメンバーです。」
「こ、古竜がメンバーなのかっ」
「いや、向こうにも古竜が一匹いますしねえ・・・正直星は考えてません。」
「え・・・そうなの?」
黒竜はしょげた。蜥蜴のしょげた顔が人間にわかるのかどうか、昔、フィオリナと議論を戦わせたが、ちゃんとわかる。
「では、なぜ、わたしが呼ばれたのか・・・」
「決まってるだろう?」
ぼくは、ビシッと指差した。
「足代わりだ! グランダまで我々を安全かつ快適に運べ! 運んだ後は、すぐにランゴバルドに戻って、『神竜の息吹』の鉄板コーナーで予約のお客様を接待しろ。!
そして、3日後の対抗戦に間に合うようにまたグランダへ戻ってこい!
さらに対抗戦が終わったら、またランゴバルドまで運べ!」
ひ、ひどい!
とラウレスは泣くのだが、いやこれは適材適所だろう。
もし、向こうの古竜とまともにやり合ったら、多分彼、死ぬし。
ラウレスは力場を展開して、ぼくらを包み込んだ。
「素人さんのドロシーとエミリアがいるから、急上昇、急加速、急降下はなしで頼みます。」
「ち、注文が多いしっ!」
「そういえば、聖竜騎士団時代から、運び屋やってたベテランだもんなあ。」
竜は一声、泣いて飛び上がった。山の向こうにランゴバルドの街が見える。
さて、懐かしき・・・・というほど、日は経っていないが。
我が故郷、グランダは、どうぼくを迎えてくれるのだろうか。
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