第99話 負けられない戦い

「わたしがグランダへ?

無理だ。」

とルールス先生は、即時に断った。

「わたしの護衛とおまけに『迷宮』の管理まで任せられるとしても、わたしはわたしの仕事がある。」


「ランゴバルド冒険者学校の存続に関わる案件です。」

ぼくは言った。


「負けるのは、ルールス分校でランゴバルド冒険者学校ではない。」

「現学長はそう言っているそうですが、世間の評判はそんなことにはならないのです。絶対に。」


「わたしもそう思います。」

ネイア先生も言った。

どうもグランダ魔道院は進学院長の就任の挨拶と同時に、各国の魔道学校や冒険者学校に対抗試合を申し入れていたようだった。


伝説の賢者ウィルニアが、この度学院長になりました。

つきましては、御校と対抗戦はいかがですか?


誰も相手にしなかった。


ランゴバルド冒険者学校以外には。


ここにはさまざまな「事情」があった。

優秀な人学予定者を奪われた件。

恥をかいて失敗をさせたい「ルーカス分校」の存在。


「負けられない戦いだということかね?」


ルールス先生は、一通の手紙を差し出した。


「今朝届いたものだ。グランダ魔道院のメンバー全員がこちらだよ。」


ぼくは手紙に目を通した。


今まで、書かれていたメンバーに嘘はない。



我流の拳法家ジウル=ボルテック。

魔道院学生で冒険者“隠者”ヨウィス。

銀級冒険者リヨン。

氷雪竜公女ラスティ。

美少女仮面ブラディローズ。


そこに新しいメンバーが加わっている。


銀級冒険者アウデリア。

グランダ王太后メア。


飲んでたお茶が喉につまった。


「アウデリアは、わたしたちもよく知る名だ。つい先日までミトラやランゴバルド。西域を中心に活動していた冒険者。

銀級だが、要するに『黄金級になりたくない』銀級というやつだな。

風雪だが、斧をよくする英雄神の生まれ変わりと言われていた。


・・・何か彼女についての情報はあるか?」


「英雄神なんて嘘です。少なくともアウデリアはそう言ってました。」


「本人と話したことがあるのか?」


「そりゃあ、何度も!

ぼくの婚約者の母親ですから。


彼女、曰く、生まれ変わりという輪廻を通したならば、いかに記憶や能力が一部残っていようともそれは『別人』だそうです。」


つまり、は。

ルールス先生の顔色が悪い。


「つまり、彼女は英雄神のアクロディティリアの“何か”です。あくまで本人ではない、と。」


「こ、この王太后のメアという人物はなんだ?

外交筋に尋ねてみたが、およそ、政治の場には出てこない。奥ゆかしいおとなしい婦人だという評判だった。」


「それこそ、前世が問題なのです。」


「前世が魔族の大幹部だったとでもいうのか?」


「当たりですね。闇森の魔女ザザリってこっちでも聞いたことがありますか?」


疲れたようにルールスは、椅子に沈み込んだ。


「・・・グランダはいったいどうなっているのだ・・・」


「魔王宮が開いたのです。地獄の窯がぶちまけられたと一緒で、魑魅魍魎が人間の顔でそこらじゅうを闊歩しています。

あと、5年は関わらないことをおすすめしますね。

むこうは待ってはくれないでしょうが。」


「5年の、根拠は?」


さすがに教育者は細かい。


「魔道列車がクローディア大公国まで、開通するのが5年後だからです。

つまり、5年たったらから安全になるのではなくて、5年後には否応なく関わることになるわけですね。」


「しかし、まあ」

気を取り直したように、ルールス先生は続けた。

「お主たち、リウとアモン、ギムリウスは参加もしないと明言しているのだろう?

勝てるのか?」


「先生、対抗戦です。」

ぼくは取り直すように言った。

「相手が何者だろうと、殺し合う訳ではありません。

勝機は必ずありますし、」


ぼくは余裕たっぷりというわけではなかったが、ここは、そう見せた方がいいことは分かった。


「場合によっては、勝つことすら必要ないかもしれません。」


「議論をしている時間はない。」


ルールスは難しい顔で言った。


「午後の列車の発着を逃したら、対抗戦の日にちに、向こうに到着できなくなる。」


「まあ、『足』は確保してあります。」

ぼくは肩を竦めた。

「乗り心地はよくないのですが・・・


片道で5時間といったところでしょうか。

まあ、グランダはランゴバルドと違って上空の侵入規制なんかありませんから。

門前までノリつけられますよ。」


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