幕間3

爆誕のルールス分校

ランゴバルド博物館の『神竜の鱗』の奪還を阻止し

(正確にいうと奪還されたものをうっかり壊してしまったので代わりを用意し)

怪盗ロゼル一族の頭領にロウ=リンドが就任

(実質的な指揮はエミリアが取ることになるだろう)

裏でいろいろ操っていた深淵竜ゾールは深く反省し、自分を見直すために、魔王宮へと修行に旅立った。

(うそではない!)


ロウの部屋の窓から、霧となって流れ込んできたネイア先生は、例によってぼくに深深と最敬礼を行い、ドロシーに気づいて、言葉使いをあらため、さらに裸てベットにいるドロシーをみて、状況をお察しし、耳を塞いで目をつぶり、壁に向かって正座し、さあどうぞ、わたしはなにも見てませんし聞いてませんから、と宣った。


うん。ロウと、ネイア先生ってぐるで動いてないか?

ロウが、けしかけて、ネイア先生がぎりぎりで止めにはいる。


ルールス先生がおよびなんでしょ?

行きますよ。


ぼくは、部屋着をドロシーに渡して、おやすみ、と言って部屋を飛び立った。


「飛べるんですねえ。」

ネイア先生が、感心したように言った。

しまった。手の内はできるだけ隠しておきたかったのだけど。


「どこまで、話した?」

とぼくが聞くと、ほぼ全て、と爵位もちの吸血鬼は答えた。


「じゃあ、ロウが『紅玉の瞳』でロゼル一族の頭領でもいいのか?」


「校内で不法な活動を取らなければ容認する、とのことです。」


「それはそうだろう。実質、指揮をとるのはエミリアだしな。」


「それは聞いてませんっ!!」



ルールス先生は、ぼくに座るよう促し、お茶を出してくれた。と言ってもいれたのは、ネイア先生でここらは本当に人遣いが荒い。

だいたい、もう夜明けに近い真夜中だぞ。


「いろいろ、聞きたいこともあるがよくやってくれた。」

と、ルールス先生は感謝の意だけは素直に現す。

「おかげで古竜との繋がりが切れなくてすんだ。あれはランゴバルドが直接コンタクトができる、数少ない古竜でな。

責任を感じてランゴバルド博物館を辞められたりでもしたら。どこへ、消えてしまうかわからん。

危ういところだった。」


古竜との繋がりってそんなに大事なものだろうか?

アモンは、もと魔王宮の階層主でお互いを友人だと思っているから大事だが、ニフフとラウレスは、あれはアモン流に言わせれば「変態」だぞ。


「約束どうり、諸君らを特待生として迎える。在学中は生活費の補助をさせてもらおう。」


それは正直ありがたいのだ。

休息日ごとに、ロウの夜中の屋台での、飲食費を稼がねばならないと、思うとぞっとする。


「ほれ、これが特待生証書。5名分ある。」


公式文書用の紙に流麗な筆致で書かれたそれを、5枚、ルールス先生はぼくに手渡した。


一読して、ぼくは眉間にシワが寄るのを感じる。


「このルールス分校ってのはなんです?」


「うむ、よくぞ気づいた!」

ルールス先生、言葉ではそういったが、表情をみれば、気づかれたかっ、がバレバレである。


「おまえたちのクラスを第1号として、冒険者学校内にエリート選抜コースとしてルールス分校を立ち上げた。」


「左遷に僕らを、巻き添えにしましたねえ?」


「な、何を、言う!」

目が泳いでいても口調は強気なルールス先生。

「授業だって、いままで通り受けられる。寮や学生食堂も含めた校内の施設も使える。

おぬしらに損になることはひとつもない!」


「卒業後の、冒険者資格は?」


「それも、いま調整中だ!」


「1番肝心なところがダメだろう?」


ネイア先生が、ルールス先生になにやらごにょごにょにょと、耳打ちをした。


そうなのか!?


ルールス先生は、けっこう下世話な顔でぼくを振り返った。

ごほん、と咳払いをして机の引き出しの奥から紙袋を取り出して、ぼくに手渡した。


「これはわたしからの個人的な報奨だ。」


「なんですか、これ。」


「うむ!これはだな、コ××××××といって、男性器に装着しておくとうっかり子どもができたり、しないのだ。」


「ほう?

それをルールス先生が教官室のデスクにストックしてる意味をおききしてもいいんですか?」


部屋の温度は、急速に低下して行った。 この日1番の殺気をこめて、ぼくとルールス分校長は睨みあった。

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