第92話 それは最高の夜だった
終わりがよければ全てよし。
元のランゴバルドに戻り、ロゼルの一党がなんとか動けるようになってから、ぼくらは解散した。
エミリアは、ロゼルの一族と打ち合わせがあると言うので別れ、ぼくらは、冒険者学校までのけっこうな道のりをだらだらと歩いた。
ロウは、自分のコートを脱いで、ぼくに背負われているドロシーにかけてくれた。
割合に人情味のある真祖なのである。彼女は。
さすがに、真夜中をだいぶ回ったこの時間、繁華街からははずれた学校までの道。人通りはまるでない。
それを言ったら、歩いているぼくらのうち半分はひとではないのだが。
アモンは機嫌よく、調子のはずれた戯れ歌を歌って笑っている。
なんて、歌かきいたら自分で作詞作曲した「望郷竜歌」だと言った。
モデルは、いまごろは、「神竜の息吹」で後片付けをしているラウレスくんらしい。
正門は、ぼくらが近づくとしずしずと開いた。
ネイア先生が仁王立ちでぼくらを迎えてくれた。
「一応は心配いたしました。」
「ランゴバルドが消滅しないかでしょう? ちゃんとうまくやりましたよ。」
ぼくは手をふって、ネイア先生をねぎらった。
使い魔には優しいタイプの魔道士なのである。ぼくは。
「首尾は?」
一応ルールス先生には報告の義務があるのだろう。
「万事つつがなく。ミトラの聖光教会本部から盗んだ鱗は、ロゼル一族からこっそり返させる。」
「それはまたずいぶんと・・・・難しいことを。」
「わたしが、今度『紅玉の瞳』をついだから。新頭領のもとでの初仕事にしては気が利いてない?」
さすがに真祖の意見にもこれは同意できなかったのか、押し黙ったネイア先生だったが。
「え? ご真祖さまがロゼルの頭領になったんですか?」
「そうだよ。冒険者学校は、盗賊の頭領だとはいれないの?」
「ふつうに無理でしょう。」
「なら、黙っててよ。」
ネイア先生は絶句して天を仰いだ。
「ランゴバルド博物館は、所蔵する『神竜の鱗』が三枚になった。東の帝国が所蔵していた一枚は、もともとの国が滅亡してしまって管理者がいなかったらしい。あと海底の難破船からひきあげた一枚で合計三枚。
竜の都から盗まれた一枚は、二フフ副館長が自分のルートをもって、返還するそうだ。」
「・・・・なにをどうやったら・・・そうなるんですか?」
「二フフ館長の依頼は『神竜の鱗』を守れでしょ? 増えたのはオプションみたいなもんだよね!」
あとは、ネイア先生には明日の授業の欠席をお願いしたが、これは無理ではないだろう。学校の課題として、ランゴバルド博物館の徹夜での警備を仰せつかったのだ。
授業は休み!
ドロシーは、ぼくの背中でよく眠っていた。
同室の友人たちを起こすのも憚られたので、ロウの部屋で寝かせることにした。
ぼくらが例によってバルコニーから失礼して、ベッドにドロシーを横にすると、ロウは、それではわたしは夜の散歩に、と、またバルコニーから飛び出って行った。
ため息をついて、勝手知ったるロウの部屋から、寝間着につかえそうな部屋着を探して、ドロシーを起こした。
いくらなんでもギムリウスの糸のコートにロウのトレンチの重ね着では眠りにくいだろう。
「ああ、ルトがいる。」
とろんとした目で、コートのドロシーがぼくを見つめる。
「ここは?」
「ロウ=リンドの部屋。今日は遅いからここに泊まる。明日は授業は休みだからゆっくりしていくといいよ。」
「神竜の鱗はどうなったんだっけ。」
「無事だよ。いまごろは二フフ副館長がもとの場所におさめてるだろう。」
三枚に増えたことをどう説明するのかは知らないが。
「二フフ副館長で竜だったっけ?」
夢でも見たの?と言ってぼくが額をなぜると、ドロシーはほっとしたように、やっぱり夢だったのか、とつぶやいた。
「けっこう、怖いん夢だっんだよ。あのね、二フフ副館長が竜で、わたしに神竜の鱗の在り処を話せって、わたしを手枷でつるしてね。
ギムリスムのボディスーツを切り裂かれて。
うふふ。なんかそういう願望があるのかな、わたし。」
夢でしょ。
とぼくは微笑む。
「あと、なんだか黒い竜がやってきて、ルトが『神竜の鱗』を持ってるって言って・・・わたし、何をいってるんだろう?」
「ほんとにね。いろいろあって想像と現実がごっちゃになってるんだよ。今夜は、といってもあと何時間かで朝だけど。ゆっくりお休み?」
「ランゴバルド塔がくだけたのもあれも夢・・・なのかなあ。アモンが黒い竜を引きずってきて。」
「夢だろうなあ。」とぼくは笑う。
「じゃあ、ルト。
これも夢?」
ドロシーはコートの前を開いた。
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『怪盗ロゼル一族と神竜の鱗』はこれにて終了です。
お付き合いいただき感謝いたします。
次は「新章 グランダ魔道学院対抗戦」となります。
ルトの故郷、北の王国グランダの魔道院に百年ぶりに新しい学院長が。
なんと、千年前の初代勇者パーティの賢者ウィルニアだと名乗るこの人物からランゴバルド冒険者学校へ学校対抗戦への招待状が届きます。
冒険者学校は、前学長のルールスにこの件を一任。ルトたちが引っ張り出されるハメになります。
はたして、賢者ウィルニアを名乗る魔道院の学院長の正体は!?
ルトたちをしても青ざめる対抗戦のメンバーとは。
そして、故郷で待ち受けるルトの婚約者とドロシーはどうなる?
というところまでしか考えてないので、どうなる!? ほんとの意味でどうなる!?
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