第71話 嘘つきと偽物、紛い物、フェイクとイミテーションその4

「ランゴバルド博物館の件。」

と、ぼくが言うと、ああ、とエミリアは答えた。

とたんにやる気がなくなったのが、これも表情に現れていた。


そうですか。

これを見てもその表情が続けられるかな?


~~~~~よ。




ぼくはポケットから、手のひらに収まる程度の極彩色に輝く破片を取り出した。

さすがにあまり大っぴらでもなく、食卓の下でそっと。


がりっ。


いやな音がした。

エミリアがスプーンを噛み砕いた音だった。


ばり。

ばり。


ごり。


木製のスプーンを咀嚼している。

ゴクリ。


と喉がなる。


「それは?」


「ランゴバルド博物館の隠し部屋の一品。」


バンとテーブルをたたいて、エミリアが立ち上がる。

それほど、混み合ってはいなかったが、昼食どきの学食だった。


周りの目が集まる。


エミリアはどこからか取り出したのか、頑丈そうな木の棒を構えている。

身長に近い長さのそんな武器をどこに隠し持っていたのか。


この間合いならば、一撃でこのぼくを昏倒させられる。


で、昏倒させてどうする。


どうする。


どうする。


どうにもならないことに気がついたのか。


エミレアはもう一度、座った。

ぽて。


と、お尻が椅子に着地した可愛い音がした。


「ほ、ほ、ホ、」


「本物かと言われればそう。」


「な、な、な、なに、に、に、」


「考えたんだ。


博物館は、一般の人たちもたくさん出入りする。あそこでは、とても守りきれない。


ならばいっそ、ぼくが持っていた方が、確実に守れるのではないか、と。」


「に、に、に、にふ、」


「ニフフ副館長はさすがに知りません。」


「ど、ど、どう、どうして」


「アモンは『神竜の鱗』のイミテーションを集めるのが、趣味で。

一つもらって、こっそり入れ替えてきました。


どう言うものか、ぼくはニフフ副館長に信頼が厚くてね。」


「わ、わかった。」


口調が少し変わっていた。


「で、当日はどうする?」


「黒蜥蜴なる賊を捕まえることに全力を集中しようと思うけど、どうだろう?」


「わかった。ならば、わざと警備の冒険者をあの部屋から遠ざけよう。

黒蜥蜴は、イミテーションをつかまされた挙句に、わたしたちにお縄になる。」


「そして、神竜の鱗をもとに戻してめでたしめでたし、と。」


エミリアの顔色はまだすぐれない。


「黒蜥蜴は何ものか、な。」


ぼくは余裕たっぷりに笑って見せた。


「だって、今までなんの活動歴もないただの道化もんだよ。

ぼくはむしろ、もう一つの方を心配してるんだ。」


「もう、一つ・・・てなに、かな?」


「神竜の鱗が自分達のものだと主張するロゼル一族とかいう、連中だ。

盗賊としてより、殺し屋として名高いらしい。


そいつらも実は、神竜の鱗を手中におさめようと暗躍している。」


「そ、そうなの?」


「そしてその黒幕は、迷宮に潜む古竜。深淵竜ゾールと名乗っているようだ。」


「な、なんだかわからないなあ。」


「ロゼル一族は、神竜の鱗を5枚、集めたがっている。

深淵竜ゾールはなにが目的なんだろう?


どうもそいつは、黒竜ラウレスには、まったく別のことを要求したようなんだ。


つまり。


なにものかが、神竜の鱗を集めている。と、それを阻止しろ、と。」


「古竜の考えなんてわからない!」


「ただの育ちすぎの蜥蜴だ。」

ぼくは、アモンからの受け売りでそんな言葉を使った。

「賢いものもいるが、そうでもないものもいる。


だが、仮にロゼル一族なるものが、神竜の鱗を集めているとして、彼らは場所もわからない竜の都や旅路に数年を要する東域からも、鱗をに盗み出せるほどの力のある組織なんだろうか。


もし、そんな力あったら、ランゴバルド博物館の警護なんてないも同然だ。


とっくに、手に入れて。」


エミリアは、顔を青くしたかと思えば、真っ赤になり、可哀想なくらい狼狽しきっていた。


「手に入れてどうするつもりなんだろう。


神竜の鱗は貴重品すぎて、売りさばくことも不可能に近い。

あの、都市伝説。」


ぼくは、視線の先にアモンの姿を認めた。「神竜騎士団」を三、四人引き連れている。

遠目に会釈すると、ニッと笑って応えてくれた。


「神竜が現れて、願いを叶えてくれる、というお伽話を信じているのか。

なら、その願いとはなんだろう。」


ぼくは、神竜の鱗をポケットに戻して、立ち上がった。


「明日は、夕食を済ませたら、正門前に集合。ドロシーも加えて、三人でまる一日、ランゴバルド博物館に詰めるよ。


出来ればその前に、ロゼル一族と接触したいんだけど。

どうも奴らは、深淵竜とか自称する蜥蜴に、いいように利用されているだけかもしれない。」


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