第70話 嘘つきと偽物、紛い物、フェイクとイミテーションその3
ぼくは、ホームルームのときに、エミリアを昼食に誘った。
何人かの男子生徒が険しい顔をしている。
男女比だと圧倒的に男性が多いこの学校なので、このクラスの女子も数少ない。
その中には、ギムリウスやアモン、ロウも含まれいる。
つまりまともにクラスの中で付き合う相手を探すことは、駆け出し冒険者の迷宮攻略並みに困難なことになる。
エミリアは、入学早々の決闘騒ぎで、入院。一時は復帰も危ぶまれたそうだが、信じられないような回復力で、怪我は快癒し、退院。
以降は、ずっとリウの側から離れない。
リウもべつに嫌そうではなく、ときどき、褒めるつもりか、あたまをポンポンしたり、撫でてやったりとスキンシップもそれなり、に。
ただ、今の彼は史書にあるよう美丈夫ではなく、10代半ばの美少年であり、言ってしまえば、顔面の偏差値は、エミリアを超えている。
そして、背の方は超えていないのだから、そんなスキンシップは、なんだか、ガキが背伸びしてるように見えて、微笑ましく感じてしまうのだ。
それ以上の行為は知らない。
西域では成人年齢は18歳、グランダを含む北方では16歳だが、少なくとも自分で生計を立てられない人間が、その手の行為におよぶことはあまり褒められたことではない、と言われている。
つまり、学校に通っている以上、推奨する行動からは明らかに外れるわけだ。
しかし、リウとエミリアについては勝手にしろと思っている。
どちらも見かけ上の歳じゃなかろうし。
「魔王の女に手を出した」
と思われるのもやっかいなので、わざと席は長テーブル一角に取り、エミリアはとなりに座ってもらった。
「誘ってくれてありがとね。」
そう言ってにこっと笑って、カップの縁を合わせた。
少なくとも被った仮面は純朴で純真で陽気で気さくな美少女だ。
設定上だが14歳だったはずだ。さあて、この年ごろの女の子が、同世代の男子に、如才なく、愛想よく振る舞ったりするだろうか。
たぶん、するのだろう。リウやフィオリナほどではないが、美形にうまれて本当によかった。
午後からも出席したい講義があるというので、パンにソーセージを挟んだものをかじりながら、とっとと話をすすめようとしたら、エリミアも「わたしもちょっと聞きたいことがあって。」と言ってきた。
こちらは、お粥に果実の干したものを細かく刻んで、蜂蜜と果実酢を入れたものだ。
もくもくとそれを口に頬張るさまは小動物の食事風景を見ているようだった。
「ロウ=リンドのことなんだけど。」
「うちの吸血鬼がなんか?」
気になることでもした?と聞くと、エミリアは、少し上目遣いで、
「本当に真祖の吸血鬼なの?」
と聞いてきた。
「今になってそれが、気になるようになった?」
「あ」
表情を隠すのは苦手でも、相手の表情を読むのは、それなり、になんだなあ。エミリア。
可愛い舌の先が唇を舐めた。
「そんなことないよ。でも、『踊る道化師』のことはルトに聞けって言われてるし、なかなか二人になるチャンスもなかったから。」
そこで、声を低くした。
「ロウ=リンドの名前が出てくる古い文献を見つけたの。魔族戦争よりも前の。
で、そのロウ=リンドが、あのロウ=リンドなのか知りたくなって。」
「なんて文献でどこで見つけたのか聞いてもいい?」
「疑ってる?
なんかわたし、気に触るようなこと言った?」
「とんでもない!」
ぼくは笑う。
「ただ、エミリアの読んだ文献っていうのは、ニセモノ臭い。
魔族戦争前は、彼女はロウ=リンドとは名乗っていないはずなんだ。」
虚をつかれたようにエミリアは、黙った。
「なら、その、」
「魔族戦争前、上古の時代から生きている吸血鬼、だと本人が言っているのは間違いない。」
「し、真祖なのは?!」
「本人はそう言ってる。」
それ以上は、証明しようもないのだ。
「どこでどんな風に出会ったの?」
これはストレートすぎる質問だった。
「当時かの彼女は、『魔王宮』の第二層て階層主をしていたんだ。
そこへ、攻略に乗り込んだのが、ぼくとぼくの婚約者。ロウと一体一の決闘に持ち込んだんだが。」
ストレートに答えたが、エミリアは疑惑の粉にまみれた子犬をみるような目でぼくを眺めた。
「見事、ぼくの婚約者がロウの首を刎ねて、それ以来ロウがぼくの婚約者に懐いてしまった。
それでぼくとも仲良くなってね。一緒にパーティを組もうっていったらついて来てくれた。」
わかった。
これ以上、まともに話すつもりはないんだな。
そう思っているのは、口には出さなくても表情でわかった。
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