第67話 万全の準備
クラスの中心人物に話しかけるのには、少し緊張感がある。
一人一人は、仲の良いいいやつもいるし、寮が同室だったり、入学前から知ってたし。
リウのグループ、通称「魔王党」は、放課後は、ぼくらが入学試験をしたあの闘技場に集まって、剣や魔法の稽古をしていると聞いていたので、出かけてみると、随分と人数が増えている。
しかも、顔の見たことのない面々だ。
そんなけっこうな強面の兄ちゃんが
「ああん!?」
みたいな感じで来られるので、泣きそうになる。
「あのリウに。」
「魔王さま! もしくは陛下と呼べ!」
それは内輪だけにしてほしい。
「ウオウ、そいつはうちのクラスのやつだ。」
クロウドがやたらイキんでる兄ちゃんを、止めてくれた。
「陛下と一緒のパーティで、プロの冒険者上がりだぞ。」
いかつい兄ちゃんは、こんな奴が・・・とぶつぶつと文句を言っていたが、道を開けて闘技場に入れてくれた。
いるいる。
人数は、30名ばかりだろうか。
女の子は少ないが、何人かぼくらのクラスの女子が参加していて、男性に混じって組手の稽古をしている。
「リウ!」
エミリアに何かの魔法の指導をしていたリウに、呼びかけると、リウは指導の手を休めて、「よお」と久しぶりの友人に会うように手を挙げた。
そういえば、このところ、寝付くまでリウが帰って来なかったり、ぼくが帰ったときにはリウはもう寝てたり。
朝食も適当に済ませてるみたいで、ちゃんと顔を見るのは何日かぶりだ。
接点といえばあれだな、夜、洗濯をしてて、あれずいぶんと汚したなあ、とか、これは血痕っ! 返り血か。
そういえば治癒魔法って使ってたとこ、見てないなあ、とかそんな感慨にふけるばかり。
我ながらなんて、甲斐甲斐しいんだろう。
たしかに、リウのようなオレさまタイプが伴侶に望むようなタイプかもしれない。
だが、しかし!
今の性別はどちらも男性を選んでいるし、ぼくは郷里に婚約者がいるし、これがまたリウに輪をかけたオレさま姫なのだ。
しかも、リウを殴り倒したこともあるし。
この手のタイプは、苦手なはずなのだが、どうしたものだか、そういうタイプにもてる、と言うのがぼくの目下の悩みである。
「帰るといっつも寝てるし!」
と、ぼくは亭主の帰りが遅いと嘆く奥さんのような文句を言った。
「そりゃ、おまえ、仕事とか付き合いとか」
魔王くんは、酒場の女にこっそり入れあげてる夫のような言い訳をする。
「今日という今日はちゃんと話をきいてもらいますからねっ!」
「いや、聞くからそんな大声で。」
もちろん、お互いに冗談でやっているのだが、ふと、横をみるとドロシーが立っていた。
ショックのためか顔色がよくない。
一応、恋人のマシューとともに魔王党の一員ではあるのだが、ロウ=リンドに個別に稽古をつけられているので、放課後の集まりには、あまり参加はしてないはずなのだ。
「担任教師に続いて、同室の友達とも」
ネイア先生はただ従魔としてテイムしているだけで、リウには口説かれてるだけだよっ!
と、本当のことを、伝えられたらどんなにラクか。
でも本当のことのほうがどう考えてもヤバそうなので、とりあえず笑って手を振った。
涙目のまま、闘技場から駆け出していくドロシー。追いかけるマシュー。
夕日が、ふたりの影を、長く伸ばしていく。
ああっ!
青春っていいなあ。
「青春っていいなあって、顔してないで要件を言え。」
浮気夫と甲斐甲斐しい新妻ごっこに飽きたリウが言った。
ぼくの心が読めるのか、こいつ。
「気に入ってるやつの心はなんとなくは、な。」
「じゃあ、要件も読みとってくれないかなあ。」
「ランゴバルド博物館の警護に人を貸せ、だろ。
アモンの『神竜騎士団』はどうなんだ?」
「『神竜の鱗』の警備に『神竜騎士団』だと話が上手すぎて、賊のほうが警戒するかもしれない。」
「賊を捕まえたいのか?」
「変態蜥蜴は仲間のバカ蜥蜴から、賊を捕まえたら、ランゴバルドでかなりの地位をもらえると約束してるらしい。」
「それがオレたちになにか関係あるのか?」
「そしたら、卒業までたかり放題じゃないか。」
身も蓋もないないな、こいつ、と独り言を言いながら、リウは彼の配下たちを見渡した。
全員が鍛錬の手を休めて、こちらに注目している。
「何人、いる。
正直、竜人のもと黄金級冒険者やそれを軽々と撃退するようなやつらを相手に、こいつらでは荷が重い。
オレが」
僕は、いらない、と言った。
それだと『神竜の爪』だけ残して、ランゴバルド博物館が消滅する未来がみえる!
「エミリアだけでいい。」
エミリアが、え?わたし?とびっくりした演技をしている。
「外出は、校外演習で許可をとってある。単位にもなる。」
「いいなあ、担任教師の愛人はいろいろと無理がきいて。」
愛人じゃなくて、飼い主だからね!
「よし、ドロシーもつけてやる。
しっかり誤解もといてこいよ。」
「いや、ドロシーはあれ、ふつうの女の子だから。」
「ルトくん、わたしだって普通の女の子なんだけど?」
そうそう。そういう設定だったわ。ごめんね、エミリア。
そうは言いながら、神竜騎士団はともかくアモンには話しがあったので、ぼくは神竜騎士団の本部にもお邪魔した。
鱗が5枚そろうと、神竜があらわれて何でも願いを叶えてくれる、という都市伝説は、けっこうウケて、アモンは笑い転げてくれた。
神竜騎士団の面々は、どこがツボったのかわからずに、きょとんとしていたが。
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