第60話、いちばんの関係者がまったく興味を示さないっ
卵の入ったお粥をどんぶりいっぱいに。
顔より大きなどんぶりを一気に流し込む。
「ギムリウス。そこにあるのはスプーンと言って食べ物をすくって口に運ぶためにあります。」
「なるほど、武器にしては刃が全くついていないので、おかしいとは思っていましたが、そのように使うのですね。」
「熱くないのか、それ。」
「熱耐性の魔法を使えます。」
「熱耐性魔法を熱いものを食うときに使うやつは、初めて見た。」
それぞれの授業も違うし、放課後の予定も違う。せめて朝飯は一緒にと言うことで、ぼくらは、集まってはいるのだが、ギムリウスは相変わらずのマイペースだった。
「選択授業は何をとった?」
固形物が好きなリウは、お粥用のどんぶりにチーズやハムを大盛りにしている。
「わたしは、政治、演劇、音楽ですね。」
ギムリウスは意外なことを言う。
「人間の文化は面白いと思いました。」
「実技はどうする?
剣でも槍でも武器を使った講義は、ひとつは必修だぞ。あと無手の体術も。」
「そこらへんは、実は講義を受けなくてもいいみたいだぞ、ルト。」
アモンが言った。
ぼくが買ってきたステーキを毎晩のように食べているので、健康志向で朝は、野菜とフルーツが主体だ。
そんなドラゴンがいるのか?
「いきなり、試験を受けていいらしい。型見せもあるが、要は相手をぶちのめせば文句はあるまい?」
どうだかなあ。
武器の試験に、めんどくさいからといって、素手で挑み、相手を殴り倒して失格になる未来が目に浮かぶ。
「そ、れ、よりさぁ。」
向かいの席のロウ=リンドが身を乗り出した。
「昨夜はあれからどうなった?」
「どうにもならない。」
吐息がかかりそうな距離だったが、そうはならない。ロウは吸血鬼だからね。息することは必須ではないのさ。
それでも、顔をくっつけるようにしてしゃべるのは、まわりに刺激が強いのでやめて欲しい。
「ネイア先生が来たんで、寮の部屋まで送ってもらった。
ちょっと寝不足ぎみだ。」
ネイアめ!
とかなんとか、ロウがぶつぶつとつぶやく。
やめて。真祖にそんな態度をされると、またネイア先生のストレスになるから。
「放課後、ルールス先生に呼ばれてるんだ。
ランゴバルド王立博物館の副館長に依頼をうけた件だと思う。
みんなも集まれるかな?」
「オレは魔王党のやつらに、剣の稽古をしてやる約束がある。」
「同じく、だな。神竜騎士団に入団希望者の試験がある。」
「わたしは『紅玉の瞳』のヤツらと一緒に、屋台のラーメンを食べに行く。正門脇で夜中までやってるらしい。」
「ギムリウスは部屋で寝ます。」
せめて、理由を作ろうギムリウス。
「そうだ、ルト。」
ハムとチーズを頬張りながらリウが言った。
「オレの代わりにエミリアを連れて行ってくれ。」
「エミリアを? なんで。」
「オレの従者ってことにする。まあ、パーティ見習いってことにしといてくれ。
そう不満そうな顔をするな。そのうちにオレたちのパーティは入団志願者が殺到して、選抜試験に練兵場が必要になるようになるんだ。」
将来の話はさておき。
ホームルームが終わった後、ぼくとエミリアは連れ立って、ルールス先生の教官室に向かった。
エミリアの素性はこうだ。
ランゴバルドでも割と片田舎。最寄りの駅からは山を二つ越え、一昼夜かかる。
道も悪くて、馬車も通れない。
そんな寒村に育ったのだが、司祭さまから魔法の才を見出され、都会に出て冒険者となるべく、学校に入った。
・・・という設定の14才だ。
棒術は、人化した古竜を失神させるほど。
そんな14才がいるかっ!
「それを言い出したら、ルトさまたちだって。」
と言って、エミリアはころころと笑った。
「リウが何を言ってたか知らないけど」
「リウさまは、『オレたちのことはルトにきけ。』とおっしゃいました。
『あいつが必要だと思うことだけしゃべるだろう。オレだとしゃべりすぎるかもしれない。』」
そう言って上目遣いに、ぼくを見た。
背はほとんど変わらないはずなのにそんな可愛げのあるしぐさが上手い。
「信頼されてますね?」
そうかもね。
「それに愛されている。」
なにを言い出す?
「思考を読むのは魔術が必要でも感情はそうでもありません。
ちょっとしたしぐさ、表情、目線の動き。」
エミリアは、うれしそうに手を打った。
「ルトさまもリウさまも、感情を隠すことについては、あまりお上手ではありません。」
「さま、はやめてくれない?」
「すいません。リウにもそう言われた。
周りが変に思うからって。
それじゃあ、行こうよ、ルト。
よいお話だといいけどね!」
ルールス先生は、元学長ということもあるのか、かなりの屋敷をひとりで使っている。
玄関では、ロウとギムリウスが待っていた。
「リウが、エミリアと2人きりにして、手でも出されたら困るからついて行ってくれってさ。」
あのね。
「分かってるってば。
ルトの好みはロリババアじゃなくて、細身でうっすら筋肉のラインが浮かぶスレンダー健康美人だもんね。
わたしとか、フィオリナみたいな。」
健康美人を自称する真祖吸血鬼は、ばんばんとぼくの肩を叩いた。
「ドロシーもルト好みに仕上げてやるから楽しみにしててね。」
ロリババア呼ばわりされたエミリアは、顔を引き攣らせて黙り込んだ。
「それはそうと、アモンは?」
「忙しいのは本当だけど」
ロウは肩をすくめた。
「この件にそもそも関心ないみたい。
任せるってさ。」
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