幕間2

強いってなんだろう

そういえば、ぼくもマシューに付き合って、「的投げ」の訓練は続けていたのだった。


場所は、たいてい寮の裏庭。夕ご飯まえのひととき。

長いときは一時間近くも。


ぼくの投げる木の的を、マシューは剣で突く。

乾いた音がして的が、弾かれる。


はじめた当初よりはずいぶんよくなった。


「今日は、このくらいで。」


散乱した的を集め始めたぼくをマシューは、じっと見つめる。


「どうしたの? マシュー坊っちゃん?」


「そろそろ・・・なんかその」


「奥義獄炎三連突き、とかを教えて欲しいとか。」


「な、なぜわかる!」


ため息がでた。


「ドロシーからマシューがなんだか悩んでるようだから相談にのってくれと。」


「・・・・」


「そう言ってるドロシー自身が、悩みの原因なんだから、難しいものです。」


マシューは、うなだれて地べたに座り込んだ。いやパンツが汚れるだろ。

どうも同室のリウにもこいつにも家事をこなす能力はないとわかって、洗濯はぼくが引き受けることにしたのだ。

汚れ物を増やさないでほしい。


「ど、どんな相談なんだ! ギムリウスのことならあれはほんとに、みんなで食事に誘っただけだから!

いつもギムリウスはひとりでいるから。」


「ギムリウスはもともと単体で成立してる生き物・・・一族なので、食事をみんなでとる習慣がないのです。

でも誘ってくれてありがとうございます。」


「じゃあ、ネイア先生の胸を見つめすぎていたのがバレたのかな。あのときたまたまあのボロマントが少しはだけてたから、見てた生徒はぼくだけじゃないぞ!」


「いや、それくらいは気にしないでしょう。」


「そうだよな。けっこう、アモンさんとかもついつい見ちゃうけど、文句言われたことないし。」


それはアモンが嫌がるからやめてほしい。


「あ・・・やっぱりあれ。あれだな。」


マシューはがっくりと肩を落とした。


「この前、晩ごはんのあと少し二人で歩いたんだ。

木立のところで、キスしたんだけど、そのとき、ついそれ以上の行為をしようとして、はねつけられたんだ。

それから、なんだか気まずくて・・・」


ああんっ!?


「いや、なんだかその、ドロシーがこのところすごく綺麗に見えて、つい、その胸にさわってしまって・・・」


へえ?


マシューが少し後ずさりしている。いや、違うな。

これは怒るのならドロシー自身であって、ぼくが出る幕じゃないぞ。

それに、ドロシーもそのことは、べつに相談してなかったし、そんなに嫌でもなかったんだろう。


うむ。結論だ。勝手にしろ。


「ドロシーから相談されたのは、逆です。マシューが自分を避けてるんじゃないかって。」


暗がりでキスして胸さらわせといて、よく言うわ。

と、温厚なぼくは、次の休息日までこいつの洗濯をしてやらないことに決めた。

マシューの下着が臭うことで、ドロシーに間接的に嫌がらせをしようなんて、なかなかの自分の性格の悪さにぞっとする。


「・・・・ドロシーって、わたしより強くないか?」


なにを当たり前のことを。

あっちは、真祖の吸血鬼が、趣味をかねて特訓してるんだぞ。やっと、バランスよい突きをだせるようになった、おまえがなんでドロシーより強いわけがある?


「ドロシーに、勝ちたいんですか?」


「いや、守りたい。男だから、そのなんだかその頼ってほしい。」


「なるほど。」


「なにがなるほど、なんだか?」

 

「自分が優位に立ちたいから、そういう行為を焦ったと。」


いや、そんなことは、と否定してから、ううっと考え込んだ。


人間のそういう行為は、吸血鬼に例えると、血を吸う方と吸われる方くらいの差があるのだ。

このたとえはよくないな。


「まずは単純に、戦いが強いことは諦めてください。」


「そ、そうなのか?」


「ドロシーはあなたを守るために強くなったんです。戦いだけではなく、そのほかこれからおこる様々なことに対しても。

だから、あなたがすべきことは別にある。」


マシューは、腕組みをして考え込んだ。


そろそろ夕闇が迫ってくる。

マシューの影が、長く伸びていく。


リウなどは平然と言う。

エミリアが欲しいと。


ぼくはそんなことは出来ない。出来ないといいながら、リアやドロシーにくらっときたりしている。

我ながら勝手なものだと思う。

ひょっとすると、マシューとドロシーの関係は、自分のこれからにも参考になったりしないか。


「明日は、ドロシーと二人で夕食をとってください。リウには話しておきます。」



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