第53話 必死の抵抗
いくらなんでもやり過ぎだ。
と、ぼくは思った。
ギムリウスは、ギムリウスを信仰する亜人の末裔。その力の一端は使えるものの、あくまで、神話に出てくるギムリウス本人ではない、という設定を。
壊すな。
とういうか、ギムリウスの巨大な本体を呼び寄せて、配下の蜘蛛軍団を自由に操れるならば、もはや、本人と主張しようがしなかろうが危険度は全く変わらないではないですか?
「あ、悪夢だ。」
リンクスくんがうめいた。
そうだ。いいことを思いついた。全部、夢だったことにしよう。
「じゃあ、リンクスくん、あそこの蜘蛛が一番、密集してるところ目がけて、最大火力の雷魔法をお願いします。」
「なにが、じゃあ、なのかわからないけど、ぼくは前にも言ったかな。一族でも落ちこぼれで姉の方が遥かに技量が上・・・」
「はいはい。それは『魔法封じ』の話でしたよね。
それ以外の魔法は如何ですか?」
リンクスは酢でも飲んだみたいな顔でぼくを見つめている。
「『沈黙』のスズカゼは知らなかったのですが、『雷弓』のリンクスは聞いたことがあると言ったら?」
リンクスは、聞いたことのないスラングで神と運命を罵った。
「なにものなんだ?」
「言ったと思いますが。」
「ちがう! おまえ自身が、だ!」
「リンクスくんが、聖帝国でどんな地位を持って、この任務に臨んでいるとか、あるいは、『神竜の息吹』の食事や酒に興奮剤や催淫剤をどういう意図で混入させているのか、正直に答えてくれたら、ぼくだってもう少し素直になれるかもしれません。
ま、今は、最大の攻撃魔法を打ち込むことに専念してください。
隊列が崩れて、潰走が始まる前に、ね。」
ぼくにとっては、おなじみの蜘蛛は、一匹一匹が大型犬程の大きさがある。
以前「魔王宮」で見たときには、斬撃や炎の魔法に耐性が高かったり、自らが判断して複数の魔法を使いこなす変異種(ギムリウス流に言えば『ユニーク』)もいたが、今回、召喚した中には入っていないようだった。
ならば、冒険者には十分、戦える相手であるはずなのだが。
なにしろ、西域の冒険者はグランダよりも質が高いそうですしぃ。
しかし、数が多い。多分、数百匹はいるだろう。一人頭10匹退治すればなんとか帳尻は合うんだろうけど。
「いいか! 一人当たり10匹だ。いやわたしが50匹、引き受けるから一人当たりは9匹だ。
魔法で数を減らす! 詠唱はじめ。無駄玉は撃つなよ。引き付ける!」
メイリュウ。そのイキはいいが、そこまで隊列が持たない。逃げ出し始める奴が出たら、その瞬間に戦いは終わる。
蒼白な顔で、リンクス君が歩み出た。
口の中でぶつぶつと詠唱を始めている。
リンクス!危ないから下がってろ!
と誰かが言って、リンクスがあまり尊敬はされていないにせよ、嫌われているわけではないのがわかった。
バチバチと、体に電気が走る。
髪が逆立った。
「雷神の盾」
なぜ、攻撃するのに盾!?
という疑問は次の瞬間解消された。
「ラウラールの大波」
召喚した大量の水が津波のように、蜘蛛の軍団を押し包む。そこに電の盾が投じられ、飲み込まれた蜘蛛が抵抗も出来ずに感電死していく。
いくら一山いくらの兵器でももったいないな、と思ってギムリウスを見ると、糸で空中に文字を書いていた。
「ざいこしょぶん」
とあるから、いいのだろう。
空間が割れて次の蜘蛛の一団が現れた。
水と雷撃の複合技で打ち止めかと思われたリンクスくんは目に見えぬ弓を引き絞る。
「雷神の矢!」
それは、矢と言うよりも稲妻そのものに近い。
直撃した蜘蛛が周りを巻き添えに、吹っ飛んだ。
その、空隙に体をねじ込むようにして、メイリュウが、切り込んだ。
体を常にコマのように回転させながら、相手を切り刻むその流派は、ぼくにも見覚えがない。
エルトがからんだときの、ヘタレっぷりとは別人だった。
剣戟の竜巻に、蜘蛛たちは近づくことさえできずに次々と斬殺されていく。
メイリュウがうち漏らした蜘蛛を、棒術使いが打ち据える。
仮面の女が、クリスタル球から放つ炎の矢が、トドメを刺していく。
これで「神竜の息吹」はイキが上がった。
のそり。
と、クリュエルが歩む。
周りに蜘蛛が殺到するが、刹那の瞬間に、叩きこまれた気獣に、頭や体に穴を開けられ、死骸へと変わる。
空をかけるのは、召喚獣。鳥のクチバシと獅子の胴体、羽はコウモリを思わせ、四肢は鋭い爪を備えていた。
蜘蛛の群れに突っ込み、クチバシで爪で、蜘蛛共を蹂躙し始めた。
魔道士のヴォロニカが、再び近くによってきた。
手に数珠を弄んでいる。
玉のひとつが、割れていた。
「わしの、下僕じゃ。」
自慢そうだった。
「竜人や吸血鬼にも有効なものも用意しておる。お主の仲間が何者でどんな力を持っていようが、抵抗もせずに殺されはせんぞ。」
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