第42話 それは出来ないこと
なるほど。
都会の人間は、面白いことをする。
目の前に立つのは、ぼくを尾行していた「神竜騎士団」のメンバー。
それと、柄の悪そうな冒険者、または冒険者まがいのチンピラ。
魔道士らしき、それっぽいアイテムをじゃらじゃらさせた若い男。
の三人。
取り囲んでいる、というわけでもないし、遠目にはただの立ち話にも見えるだろう。
実際、通行人は多いが、特に注目することもなく通り過ぎていく。
だが。
そこの街灯の横に二人。
後ろの角に一人。
道を挟んで反対側に三人。
それに少し離れて、博物館の塀にもたれ掛かりながら、立ち話をしているカップルも。
都合、11人がぼくを遠巻きにしていた。
しかも離れているものは、短弓やら投げナイフやらの飛び道具。または魔法の詠唱を準備。
どうしたものか。
けっこう真剣にぼくは困っている。
ぼくが目の前の三人を交わして逃げれば、容赦なく矢が飛び、魔法が飛び交う。
そうなれば、道を歩くなんでもない人たちは、絶対に巻き添えをくう。短弓なら殺傷能力は低いだろうはあまり慰めにはならなかった。
行きかう人の中には休息日ということもあるのか、小さな子供もいる家族連れも多い。
おいおい。まさか、こんなところでやり合うのか?
まるで周りの、無関係な人間すべてを人質にとられたように、ぼくは感じた。
正直なところ、このときまで「神竜騎士団」もその後ろ盾である「神竜の息吹」にも、ぼくはなんともおもっちゃいなかった。
むしろ、あれこれ詮索するルールス先生のほうが、ウザイとさえ思っていた。
ぼくらは、自由に世界を冒険して回る。
そのために、銀級の冒険者の地位がほしい。
そのための冒険者学校であり、その中で、いくら嵐が起きようが、身を縮めて、やり過ごせればよかったのだ。
でも。
ああ、「神竜騎士団」よ、「神竜の息吹」よ。
ぼくはおまえたちが嫌いになった。
大嫌いになったぞ。
「気がついちゃいないだろうが、おまえはいま、20人からの腕利きに囲まれてんだよ。」
神竜騎士団のガキが、うそぶいた。
なかなかの二枚めだ。歳は17くらいか。
両脇に短めの剣を二振り、ぶら下げていた。
「痛い思いをしたくなければ、おとなしく一緒に来るんだな。
おまえは魔術師だろう?
こっちにはな、魔術封じのリンクスさまがいるんだ。てめえがどんな魔法を持ってようが」
ガツン!
派手に鼻血を噴き上げて、ガキが仰け反った。
冒険者の拳が、顔面を捕らえている。
「こっちの手の内をペラペラさえずるんじゃねえ。」
吐き捨てるように、冒険者が言った。
・・・あたりまえである。
本当は、ぼくが
「ファイヤーボール!!
・・・・ええっ!術が発動しないっ! ど、どうして!」
と叫んでから、言うべきセリフなのだ。ガキよ(ぼくもガキだけど)セリフの順番は守らんとな。
ガキくんはダラダラと血を流す鼻を抑えて、こっちを睨んだ。いや殴ったやつを睨めよ、と思うのだが、この手の連中は、噛み付いていいやつと、そうでないやつの見分けだけで世をわたっていくのだ。
痛みは噛み付いて良い奴を相手に倍にしてかえす。
義理も道理もありはしない。
「しかし、まあ、そういうことだ。
どうだ? なんか魔術を使ってみるか?」
冒険者はせせら笑うが、ぼくは、それよりも「魔術封じのリンクス」くんの方が気になっていた。
彼は、さっきから、何度も口の中で詠唱を繰り返しては、青くなったり赤くなったりしている。
理由は簡単。
彼の「魔術封じ」が効かないのである。これも実にわかりやすい話で、目の前に聳える山に関節技をかけようとしてもうまくいかないのと一緒である。
周りも気がついてやれ、と思うのだが、気がつかないかなあ。
ぼくは、よろめいて、リンクスくんにもたれかかった。
リンクスくんが焦って身をひこうとするので、抱きつくようにして耳元で囁いた。
「あんたの術のせいにしとけ。」
「え?・・・・」
「術が効かないことが、周りにわかってもいいのか? クビになるぞ。」
。。。。
「い、いやあ!」
リンクスくんは素っ頓狂な叫びをあげた。
「ちょっと、魔法封じが効きすぎたようだなあ!
意識が飛んでしまったようだ。」
棒読みのセリフだったが、冒険者は納得したようだった。
「おまえの術も珍しく冴えてるじゃねえか、リンクス!
そのまま、そいつを担いで馬車に押しこめろ。本部に運ぶぞ。」
リンクスくん、魔術師でももうちょっと体を鍛えようよ。ぼくの脚引きずってるし。
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