第3部 初めてのお使い 初めての・・・

第37話 休息日

ランゴバルドでは、十日ごとに「休息日」と言うものが設けられているそうだ。


あくまでも人間は、このくらいに一度は休め、という目安的なもので、店や役所は休日なしに活動してなければならないので、働くものは交代で休日を取る。


例えば冒険者学校の教官であったなら、自分が担当する授業がなければ、その日は一日休みになるわけだし、それは十日に一度などというものではなく、三日おきくらいにはあるらしい。


悪くない制度だな。


と、思った。

とは言ってもこれが適用されるのは「人間」だけらしく、例えば、吸血鬼のネイア先生などは、担任しているぼくらに付き合って、昼も夜もなく右往左往しているし、空いた時間は護衛の任務についているわけで、本当に寝る時間もなく働いている。

亜人も人に混じって暮らせるランゴバルドでも、差別はなくはない、のだ。


ぼくの祖国、グランダあたりでは、職人、商人であったなら少なくとも見習い、徒弟のうちは、決まった休日などもってのほか、一人前になってからは、それぞれの信仰する神様の祭事に従って休みを取る。

西域でメジャーな聖光教が、グランダで最も有力であるものの、支配的な地位を占めれないのは、性的な行為(特に同性間の)に対する厳格さと、定める休息日が冬場に集中し過ぎていることにあるのだろう。北国の冬は、黙ってても活動できない日はあるのだし、もうすこしそれぞれの季節に分散してほしいものだ。


さて。

休息日である。


冒険者学校は広い上に、出入り口が一か所のみとなっている。

あれこれ、買い物を楽しめる繁華街までは、歩けば片道で2時間。夜になれば門は閉まるので、放課後にちょっと遊びに出るのは、なかなか困難。

あれこれと嗜好品や日用品を仕入れるのは、休息日にまとめて行うことになるらしい。


一定期間、少なくとも「初等」と呼ばれる科目をすべて及第すれば、外泊もできるようになるそうだが、ああ。

それにつけても金の欲しさよ。



「ごめん。」

ドロシーは、ぼくに頭を下げた。

「マシューが、まだちょっと手の方がうまく動かないんだ。食事のときについててやらないと。」


そうでなければ、買い物くらい喜んでつきあうんだけど。

と、ドロシーは言う。


ああ、これはまたマシューの愚痴を聞いてほしいんだ。


「ならクロウドたちは、ヒマかな。

ランゴバルドの街ははじめてなんで、ひとりだと心細くて。」


「あれは、もう、マシューとは関係なくって、実質魔王党でしょう?」


魔王党。そんなふうに呼ばれてるのか。

そのうち、ミトラの聖光教会から、刺客でもくるんじゃないのか?


それならそれもいい。勇者クロノにはフィオリナが世話になったみたいだし。


「リウが、補習で出かけられない以上、自分達も出かけるわけには行かないって、意地をはってる。

まあ、子爵さまから、いただいた手切れ金だってそう余裕があるわけじゃないから、そのほうがありがたいけど。」


元カレとヨリを戻したせいで、フラれた彼女とあんまり話し込んでもロクなことはない。

なんだか、いっしょにご飯をたべる機会はこれからもありそうだが。



さて、そうすると買い物に付き合ってくれそうなのは。


「二人で買い物ですか?」残念ですけど。」


使い魔に、休日の買い物に付き合ってくれるように頼むテイマーもどうかと思うが、断わる使い魔もどうかと思う。


「ルールス先生の護衛のこともありますので、学校から離れるのはどうも。校内でしたら、最悪、転移魔法でもかけつけられますから。」



「転移陣を作っておこうか? 一方通行の使い切りになるけど。」


「ルトさまに常識を要求するのは無理だとわかってますが・・・・」

ネイア先生はため息をついた。

「グランダは魔道の研鑽については少なくとも、西域に遅れはとっていないようですね。」


「だめかな?」


「難しいですね。明日はわたしは、補講の講師がありますので。」


「休息日なのに?」


「ご真祖さま、リウ、ギムリウス、アモンの補講、です。『一般常識』をとってもらわなければ、今後のカリキュラムにも影響します。」


「なんで、ネイア先生が講師を?」


「休息日だからですね。もともと担当の先生はお休みです。」



やっぱりいちばん、割をくっている緑の瞳の吸血鬼は、翌朝、ぼくにサンドイッチを作ってきてくれた。


「昨日の夜ご飯のあまりものです。傷みやすいので午後までには食べてください。」




学校の正門から、街の中心部までは、乗り合いの馬車が出ている。

機械馬のひく馬車に揺られながらぼくは、ネイアに手を合わせた。


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