第35話 愛は決闘場に散った!

歓声が起こるまで、一瞬間があったと思う。


闘技場は大歓声につつまれた。

ちょっと喜びすぎるもの、いやに悔しがるものもいて、ああ、これは賭けてやがったな。


呆然としているのは、「神竜騎士団」の生き残り組で、盾も棒も仮面も。

まだまだ戦えたのに、総大将が勝手に出てきて、勝手に失神してくれたのだ。納得までには、時間もかかろう。


ほめてほめて、アピールのロウを無視して、ぼくは叫んだ。


「これにて、決闘は新入生組の勝利!」


わあああ


歓声が一段と高まった。


「負傷者が出ている。救護を大至急。それとメイリュウ団長どの。」


ぼくらの回りは、「神竜騎士団」数十人が取囲みてんでに、得物を突きつけていた。


「こちらが勝ったので、言うことをきいてもらいますよ。」


「そんな約束はしてないぞ。」


「そっちは自分たちが勝ったら、ロウにネイア先生を拘束させるつもりだったでしょう?」


「否定はせんが、それがどうした?

おまえたちの損にはなるまい?」


「ぼくの『お願い』も、別にあなたがたの損にはなりません。

今後は、ルールス派にくら替えしてください。」


「なにを言い出す・・・・」


「なにかと金を無心するだけの先輩がたと縁を切る絶好のチャンスかと。」


「話にならんな。」


メイリュウの得物は、顔が映るほど磨き抜かれた曲刀だった。それがすい、と引かれた。

そのまま、団員を率いて闘技場をあとにする。


「いい答えだったな。」

リウが、ぼくの頭を撫ぜる。


試合前に、メイリュウと打ち合わせをしていた冒険者の一団も会場を後にするようだ。

さて、どうでるか。


救護班にまじって闘技場におりた。


少し迷ったあげく、ドロシーとマシューを優先することにした。


ドロシーは。

密着した状態から、電撃魔法を使ったのだ。

自分にもダメージは避けられないと思っていたか、自分で、体を起こせるくらいに回復していた。

ギムリウスのボディスーツのおかげだろう。


医務室に行くか尋ねると、頭を振って


「マシューのところにお願いします。」


と言った。


マシューは、地面に倒れたまま、ほっておかれている。擬似吸血鬼に、回復魔法などきかない。本人の治癒力に任せるしかないのだが、傷はようやく薄皮がはられたくらいだった。


ドロシーは、そのそばに跪いた。

マシューの手を取るその指が骨折しているのに、ぼくは気がついた。対するマシューも指を数本、失っていた。


「なんで」


ポロポロと涙を零しながら、ドロシーはマシューの手を握りしめた。


「なんでこんなことしたの?」


「わたしには、ドロシーのような才能がないのだよ。みんなの、足を引っ張らないためにはこれが、ただひとつの方法だった。」


マシューの乱杭歯がつきでた口元が笑みのた形を作った。

へえ、この状態で感情があるんだ。たいしたもんだ。


「結局はまた助けてもらったようだけど。」


「最低のバカっ!!」


「なんと、言ってくれてもいい。わたしは...血を飲んでしまった。自ら血を飲んだ擬似吸血鬼は、二度と人間には戻れない。鉄則だ。」


「な、ならわたしも吸血鬼になる!」


ドロシーが、スーツの襟首を広げた。


「私を、噛んで。」


マシューは首を横に振った。


「バカなことを。きみはルトと幸せになるんだ。」


「わたしはマシューがいてくれないと幸せにはならない。」



「子爵家のバカ息子だよ。僅かな手切金と一緒に冒険者学校に放り出された。」


「わたしも一緒よ。一緒に行きましょう。どこまでも。」


ぼくは、何も言わずにマシューを「解除」した。



闘技場中に響き渡る悲鳴は心地よい。うむ。


擬似吸血鬼だったことで、鈍っていた痛覚が一気に戻ってきたのだ。


そこから先は「痛い」以外言わなくなったマシューは、そのまま医務室に担ぎ込まれた。


ドロシーは、そのまま付き添おうとしたが、ふと気がついたように駆け戻ってぼくの前にたつと。


「ルト・・・・あの・・・ありがとう。」


「擬似吸血鬼が、吸血鬼化するのは、親となるべき吸血鬼がそう望むから。マシュー坊ちゃんは誰からも望まれていないので。

一名を除いては、だけどね。」


ぼくの長口舌を黙らせるように、ドロシーの唇がそっと重なった。


「ごめんね、ルト。さようなら。」


そのまま、マシューの担架を追って走り出した。



「ルト・・・・お前・・・・」


振り向くと、クロウドが男泣きしている。


「いいやつだなあ。

大丈夫だ。おまえ、顔いいから、絶対、新しい彼女見つかるから。」


え?


気がつくと、クラスメイトたちが周りに集まっていた。その目は・・・・同情と憐れみ。


「いや、これでいいんじゃないか。最初からそのつもりだったし。」



強がるなあ。

意地張ってみせるとこもかわいい。顔もよき。

こんないいやつフルなんて、ドロシーもバカだよなあ。


違う。フラれたわけじゃなくて、これはこういう計画なんで、全ては計画通りなんだから。



哀れみの半笑い。慰めるような生暖かい視線、視線、視線。





ほんとなんだからーーーーーーっ!!!






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