第25話 努力!友情?勝利・・・・??
翌朝。
「ギムリウス。それは観賞用に活けている花なんでたべてはいけません。」
「そうなのですか? 確かに毒耐性がないとお腹を壊す成分がはいってますが、冒険者はみんな毒に耐性くらいもっているのでは?」
それは、幾多の苦難を乗り越え、神獣ギムリウスの前にたつような者はそうかもしれないけど。
食堂でいつもの面子で朝食をとったあと、ぼくらは教室に入った。
間もなくホームルームが始まる。
「エミリア、ファイユ、ドロシー、クロウドは欠席?」
ネイア先生が、ぼくらを向いて詰問口調で言う。
「確か、あなた方が稽古をつけたのよね。なにか変わったところななかった?」
リウは首を傾げた。
「うむ。エミリアはけっこうバテていたな。だが、それだけだぞ。」
「それはいつの話し?」
「一時間ほど前だが。」
「徹夜で訓練してたのかっ! それはもう訓練ではなくて拷問…」
「そんなことはない。回復魔法をかけながらだから、理論上は無限に稽古ができる!
まあ、教えたことを飲み込むには適度なインターバルが必要なので、いったん中断したが。」
ネイア先生は天を仰いだ。
「ほかの者も同様か?」
「肉体的な鍛錬には一時的な過負荷が大切だ。回復魔法などかけてやっては、過負荷が得られない。回復もまた身体能力の内だ。」
アモンはきっぱりと言い切った。
「何時まで訓練を、やっていたんだ?」
「シャワーを浴びた後、朝飯を、誘ったら断られた。これだから思春期は困る。」
これだから古竜は困る。
「ギムリウスのところもそうか?」
「そんなことは、ないです。」
ギムリウスは、可憐に抗議した。
「丁寧に回復魔法をつかってます。ちゃんと切れたところは繋いで治癒しました。」
「切れたって…まさか、手とか足じゃないだろうな。」
「上半身と、下半身です。」
「ふ、普通は即死だぞ!?」
「そんなことはないです。リヨンはちゃんと生きてました。」
「リヨンが誰かは知らないが…
至高の御方さま!」
なにか?
と、真祖はかっこつけて、髪をかきあげて見せる。ほかの3人と違って彼女は眠そうだ。
夜は寝たいタイプの真祖なのである。
「あなたさまは、こんな無茶をしてらっしゃらないですよね?」
「当然であろう。」
ロウは鷹揚に頷いた。
「ひとつの、能力をひたすら鍛えるのは効率が悪い。剣と魔法、バランスよくマスターさせねば。」
「つまり、まさか。」
「魔法訓練と体術の鍛錬を1時間ずつ交互に。魔法訓練の4回目で意識がなくなったので、そのまま寮に運んで寝かせている。」
吸血鬼だって絶望することはある。
ぼくとフィオリナはそう、主張するのだが、なかなか信じてもらえない。
さあ、みんな。これが吸血鬼が絶望したときの顔だよ。
その場で夕食時間よりあとの訓練を中止された四人は、そのまま、午後の「一般常識」のクラスに出てこなかった。
ふてたのではない。その時間を訓練に当てることにしたのだろう。
「大丈夫なのかな。」
あれから7日が過ぎた。
今日も放課後。寮の裏の空き地で、マシューは、ぼくが放る木の的を件で貫く稽古をしている。正しいフォームから教えたかったのだが、時間がないのでやりながら教えている。
進歩は遅いが着実だ。始めたころは、10にひとつが精一杯だったが、今は5にひとつは的を貫けている。
ここまでで、7日かかっていた。
「集中して。」
マシューの突きが的を貫いた。
かなりの速度で投げたつもりだったが、これは上出来だ。
「みんなはどんな訓練をしてて、相手はどんなやつらなんだろう。」
「ある程度、実力が進歩してから気にしてください、なっと!」
2つ続けて投げた的は、どちらもマシューの突きが弾き返した。
「うん、だいぶいい。コレくらいで充分でしょう。」
「ふざけないでくれっ!」
マシューはどなった。
「わたしだって、自分の実力くらいはわかる。
・・・いやルトの教え方を責めてるんじゃない。ルトは・・すごいよ。魔法も剣も。
でも、こんなことで、みんなの足をひっぱらないか?
戦うのが怖いんじゃない・・・いやほんとは怖いけど。みんなから役立たずのボンクラと思われるのが一番、怖いんだ。」
「いや。それは・・・・」ぼくは言葉を濁した。いや濁さなくてもいいか。「とっくにそう思われているのでは?」
「・・・だからいままで、いろんなことにまともに向き合おうとしなかったのかもしれない。」
マシューは肩を落とした。
ほぼ、一時間。途切れなしに的あてを続けている。汗は、シャツをびっしょり濡らしていた。疲労困憊してるのは間違いないのに、集中力をきらさないのは、たいしたものだ。
「精一杯、努力しても、役立たずと思われるなら最初から努力なんかしなければ、自分への言い訳ができる。」
マシューは大きく、ため息をついて、地面に座り込んだ。
「そうやって逃げてるうちに、どんどん世界が狭くなっていって・・・気がついたらこの有り様だよ。笑えよ、ルト。」
マシューは下からぼくを睨んだ。
「いや、そこはほんとに笑うとこか?」
「まあ、気がついただけでも立派です。それにね、あなたには才能がある。」
「よくもまあ。」
マシューは視線をそらし、力なく微笑んだ。
「気持ちはありがたいけど・・・・」
「周りから嫌われる才能です。あなたを見ると誰でもこいつをぶん殴りたくなる。」
「・・・・・かりにそうだとして、それを『才能』と呼ぶのか?」
「要は使い方です。前に学食で『囮』の話をしましたよね。」
「ああ、あれ。」
マシューは、嫌な顔をした。
「本気だったのか。だったらもう、わたしは『それ』でいい。だが、それにしても、だ。
少なくともドロシーとクロウドは、わたしを助けようとするぞ。つまりみんなの足をひっぱる。」
「だから、簡単には死なないように鍛錬してるんじゃありませんか。」
「・・・でも、この程度だ。」
マシューは吐き捨てるように言った。
「確かに、こんなに努力したことなんて生まれて初めてかもしれない。でもドロシーたちでさえ、今、この瞬間にも、もっともっと激しい稽古をしているはずだ。そうだろ?」
「鍛錬にも基礎が必要なんですよ。いまのあなたに、リウやロウの鍛錬を施したら、たぶん賢者ウィルニアにも再生できないくらい確実に死ねるんじゃないかな。」
「そこで、伝説の初代勇者パーティの賢者の名前を出す?」
「・・・突きのフォームも狙いもいい。」
穏やかに笑ったつもりだったが、マシューの顔が青ざめた。いや、ぼくはフィオリナじゃないぞ、笑顔でひとを凍らせるなんて。
「あとは、その威力とスピードを百倍にすりゃいいんです。
魔法もそうです。炎の矢の確実性も着実にあがりました。あとは詠唱速度と破壊力を百倍にすりゃあ、いいんです。」
マシューは、なにを言い出すんだと言わんばかりにぼくを睨んだ。いや睨むまでもいかない。ほんとに正気なのかこいつ、の目つきだ。
「ど、どうやって。」
「そいつは頭領にきいてください。」
夕暮れの人気のない寮の裏庭。薄暗くなりかかった庭に、霧がわだかまり、人の姿をとった。
「ネイア先生っ!?」
濃い霧の中。ネイアの瞳が高貴な宝玉のように輝いていた。
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