第23話 どうしようもないやつをどうにかする
特訓はさっそく今日からはじめるぞっ!
リウの威勢のよい掛け声に、それぞれのメンバーが、散っていく。
ドロシーは心配そうにぼくを最期まで見ていたが、ロウにうながされてしぶしぶ教室を出る。
あとに残されたのは、マシュー坊っちゃんとぼく。
「と、とりあえず」
言ったマシューの声が緊張のあまり裏返っていた。
「お、お茶でもしよう。」
ぼくはうなずいた。それしかなさそうだった。
飲み食いは基本的には、学食である。どうもメニューこそ違えど、一日中、夜も昼もなく開けているらしい。
この時間は、まだ夕食にはだいぶ早く、メニューは、お茶や作りおきのきく干菓子、酢漬けの野菜スティック、干した果実くらい。
とはいえ、無料で食べられるのだから充分すぎる。
人気のほとんどない食堂の片隅に腰を降ろすやいなや
「すまない!」
マシュー坊っちゃんが頭を下げてきたのには、少しびっくりした。
「話がわからないんだけど。」
「たぶん、おまえらが『神竜騎士団』に絡まれたのはわたしのせいだ。」
「・・・・・」
「わたしは『神竜騎士団』に入団させてもらうつもりで、挨拶に出向いたんだ。一昨日の夕方、入学試験が終わってすぐだ。
ドロシーは自分もいっしょに行くといったが、断った。なにかひとりでできるところを見せたかったんだ。」
「で?」
声が冷たくなるのが自分でもわかる。
「で? どうなりました。」
「いつもの調子でいったら、殺されたいのかと凄まれた。怖くて逃げて帰ってきたが、新入生だとバレている。」
「いつもの調子とは?」
マーシュは顎をあげて、指を口元において、やや高い声で
「きぃみたちも、我がアルバート子爵家の縁ができることを喜びとしたまえ。」
「・・・意識的にやってるのか、それ。」
「無意識にやってたら、だいぶおかしいやつだろう。」
ぼくは、テーブルに額をつけて、しばし思考の暗闇に身を委ねた。
「どうした、ルトくん。大丈夫か?」
「いや、唯一のプランが崩壊したので次を考えてました。」
「唯一のプラン、というと?」
「新しい冒険者の職業を考えたんだけど、チャレンジしてみてもらえないかと思って。」
「なにそれ」
「『囮』。画期的でしょ。」
「ダメだよ、それ。使い捨てになっちゃうじゃないか。」
意外にまともな答えが帰ってきた。
「・・・なるほど。」
ぼくは、閃いた。
「使い捨てにならなければいいんだ。」
忙しく頭を働かせる。
「なあ。」
普通に話しているときのマシュー=アルバートは普通だった。
「なにかな?」
「ルトたちは本物の冒険者なんだろ?」
「国元では、ね。」
「なんでこっちに出てきたんだ?」
「グランダじゃあ、亜人はほとんどいなくて。」
魔力は一応ある。威力はまあまあ。発動は遅い。
「ロウなんかは、魔物といっしょの扱いになります。とてもパーティなんか組めないので、西方域に出てきました。こっちなら亜人もパーティが組めるときいたものでね。」
剣の才能はない。みっちり指導して、使えるようになるのは一年か。
「ギムリウスは? 彼女とはどうやって知り合ったのさ。」
「全員、『魔王宮』の中ですよ。それぞれ、潜っていてパーティとはぐれてしまってね。ギムリウスとアモン、ロウはソロだったと思う。」
魔力があるなら、魔力循環による体力向上・・・いや、防御と再生に特化させれば。
「ギムリウスに手紙を送ったんだ。なにか言ってなかったかな。」
「ああ、彼女の種族にはそういう習慣はなかったみたいです。なんのことかわからなかったみたい。」
マシューはがっくりとうなだれた。
「と、ともだちからでもよかったのに・・・・」
「それだったら、大丈夫ですよ。ギムリウスは『試し』をしてもいいって言ってたから。」
「試し・・・て試験みたいなことかい? なにをすればいいのかな。」
「たぶん、マシュー坊っちゃんが考えてるより難しいですよ。単騎で迷宮の階層主と戦うくらい。」
しばらく、だらだらと話をいたものの、ぼくの指導方針が定まらない以上、いくら話をしてもしかたがない。
とりとめのない話は、マシューの幼少期からはじまり、ドロシーとの思い出、家督を巡っての家臣同士の陰湿な暗闘。家督相続が11番目のマシューは、なんだか自動的に次男派に入れられており、特に期待もされず、失点だけは作らないように、厳しくかつてきとーに育てられてきた。
そんな環境に反発して、軽くグレてみたところ、成績は激下がり、気がついたら勘当寸前で、ここに放り込まれた。
うむうむ。つまんない話だね。
なら、幼なじみのせいでワリくってるドロシーにはもうちょっとやさしくしてやったら。
マシューは、賢人のような顔で言った。
「なんか、あいつの困ってる顔とか悲しそうな顔が、響いちゃうんだよなあ。」
しまった。こいつと共通点がある。
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