第22話 決闘の申し込みってふつう悪役のほうからだよね?

笑顔がすてきなあの子が大好き!


1年くらい前に、王都で流行った歌劇のキャッチコピーだった。

ドロシーとお昼を食べながらそんなことを思い出したのは、目の前のドロシーの表情を見ていて、


どうもこのドロシーという魔法使いは、困った顔、心配する顔がとくに綺麗にぼくには感じられる。


「『神竜騎士団』に目をつけられたってきいたんだけど。」

「朝ごはん食べてる時にね。あいつらの指定席に座ってしまってたようなんだよね。」

「ふつうなら、『どけ』で終わりよ、それ。」


ドロシーは顔をしかめた。

「けっこう、有名なの。『神竜騎士団』って。もう七、八年は続いてるんじゃないかしら。もともとは、冒険者学校の自警団からはじまってるから、けっこう学校のうえのほうにも顔が効く。」


ドロシーは、生まれも育ちもランゴバルドで、いろいろと詳しい。あるいは、冒険者学校に放り込まれると決まった時点であれこれ、下調べをしたのかもしれない。


「冒険者学校に自警団?」

「わたしの子供のころだから、もう十年くらい前になるけど、叩き上げの冒険者、いわゆる錆から持ち上がった冒険者の一部が、冒険者学校の生徒を目の敵にしてた時期があって。

街に買い物に出る度に、集団で囲まれて袋叩きにされて金品を奪われる事件が多発してたの。」

「ランゴバルドって警察は?

治安機能はどうなってるの。」

「冒険者学校の生徒は、いわば、ランゴバルトの公的な支給で食べてるわけだから、私有財産の侵害は適用外です。」


となれば命などそれ以上に軽いのだろうな。


「メイリュウって派手な刺繍のジャッケットの女の子が今の、リーダー?」

「しっ!

あの上着は、代々受け継がれてるシロモノなの。

メイリュウって、どの科目も最優秀のエリートでね。ほんとなら、とっくに卒業できるんだけど、噂によると史上2番目の銀級デビューを狙ってるって。」

「あの、派手な刺繍は?」

「初代の団長が竜人だったみたい。アダバルドの出身であそこはほら、竜神姫リアモンドさまを信仰してるから。」


一日の最初と最後に、ホームルームがある。

いろいろな授業、選択科目や自主練習で別れて一日過ごすクラスメイトが一応はここで全員集まるわけだ。


リウは、アモンとともに、午後の「一般常識」をサボって姿をくらましていたが、ここにはちゃんと参加していた。


「なにか、発言のあるもの」

というネイア先生の発言に挙手すると、彼はさっそうと立ち上がり、宣言した。


「『神竜騎士団』に決闘を申し込む。」


教室がざわつくなか、ぼくはぼんやりと考えた。

うーん、よくないんじゃないか。成り上がりものは、当人の人柄がよくないと。

あんまり、こっちからケンカ売りにいくのはどうかなあ。



王立学院にも決闘という制度はあった。ただあそこの決闘は、生徒に、高位貴族や王族の師弟が多かったので、なんと代理をたてることが認められていたのだよ!

もちろん、外から熟練の剣士や魔法士を雇ってくるのはだめで、在籍中の学生で生活に困ってるやつを金で雇って代理に決闘させる。

いやあ、一時は良く、稼がせてもらったなあ。


実はそこらもドロシーから、昼休みに情報を仕入れている。


ランゴバルド冒険者学校の独自ルールは、一体一、ではなくて、5-5か6-6の団体戦になることらしい。

これは、「パーティ」での戦闘を重視する冒険者学校ならではだろう。


「決闘は10日後だ。場所は、この前、試験をうけたコロシアム。」


「いいゾ!魔王!」

「陛下!一生ついてきます!」


威勢よく掛け声をかけるのは、元マシュー一派、いまはリウ組の面々であるが、大半の生徒はまだ呆然としている。


「ち、ち、ちょっと、なにを勝手なことしてくれてる!」

ネイアが叫んだ。

「あなたがとんでもない魔力量をもった逸材ってことは理解している!

でも、あいつらだって、リーダーのメイリュウをはじめ、銀級や鉄級なみの強さがある猛者が目白押しなんだから!」


「安心しろ。オレはでない。」


「そりゃあ、あんたは黄金級のラウレスをワンパンしてるけどあれは、ふいをついた結果であって・・・・


ええっ!出ない!?」


「当たり前だろう? オレが出たらたんなるイジメになる。もちろんルトもアモンもギムリウスもロウも出ない。」


はあ。

ぼくは安堵のため息をついた。

なるほど。アイツらを、ぶちのめしたいのはわかるが、アモンがちょっと本気で怒っている。

神竜姫リアモンドを、信仰するものから食事を、台無しにされたのだから当然だ。

ここでアモンを戦わせたらぜったいにやりすぎになるから、彼女を、出す訳にはいかない。

「アモンは出さない」ならアモンは納得しないだろうが「オレたちは、出ない。」なら納得せざるを得ない。


「では、このクラスからの参加メンバーを発表する。」


王の器、なんだろうけど結構な暴君なんじゃないか、これ。


「まずエミリア!」

はいっ!と元気な声で黄金級をぶちのめした神官衣の少女が立ち上がった。ここらへんには、話がついていたのだろう。

笑みを浮かべ、リウに手首をぶつける様な仕草をした。


「次! ファイユ」


えっ、わたし!?


と、びっくりしたように立ち上がったのは、黄金級に見事に一撃いれた剣士の少女。そのあとふっとばされて気を失ったのだが、怪我は軽く、一緒のクラスになっている。


「三人め!ドロシー!」


なぜに!?

と、ドロシーはびっくりしているが、まあ、順当なところなのだと思う。

遠距離攻撃の試験では、的を5枚全部砕いてるし、アタマがいい。


「それからクロウド!」


やったぜっ!

と筋肉男が、吠えて立ち上がった。たぶんちゃんと修練つめばいい戦士になるんじゃないかと思う。

体だってもう一回りでかくなるだろうし。


「最期にマシュー。」


ほう、わたしの出番と言うわけか?


子爵家の坊ちゃまは、ポーズをつけて立ち上がったが、これにはクラスの一同が面食らっている。


「あれか? 油断させておいて、4勝1敗のセンを狙うととか?」

「いや、パーティ対パーティでやり合うんだぞ。明らかな弱点があったらそこ突かれるだろ?」

「でもひょっとして、不幸な事故でもあったら、ドロシーやクロウドが助かるんじゃ。」

「なるほど! それ狙いか。さすがは陛下!」


・・・けっこう発想が黒くないか。これだから都会のやつらは。



「いいか。奴らの実力は決して低くはない。さっきネイア先生が言ってたように現役冒険者なみに腕のたつやつもいる。

いまのままでは、勝てない。

なので、今言ったメンバーにはこれから放課後、時間を開けておけ! 十日間でオレたちが一対一で稽古をつける!」


なるほど。そういうことか。

それなら勝ち目も見えてくる。


「まず、エミリアはオレだ。技の制御もだが、魔法の発動、組み合わせでの活用、みっちり鍛えてやる!」

「はい!リウ!」


「ファイユ、おまえはギムリウスにつけ! 剣士としてはギムリウスは明らかに異質だが、おまえに学んでほしい技術をもっている。」

「わかりました。がんばります、リウ。」


「ドロシー、おまえはロウに学べ。射出系の攻撃魔法は、ロウが得意だ。使い方を工夫すればおまえもあのヘタレ黄金級くらいなら、すぐに勝てるようになる。」

「え・・・・」

ドロシーはなにか言いたそうに、ぼくを見た。悩みどころである。

ぼくの魔法というのは、相手が知らないことを前提に初見殺し的なものが多い。魔法の指導としては、ロウのほうが向いている。

「ロウ=リンドは、魔法の熟練者だ。高等魔導院に行けなかった分くらい10日で取り戻せる。」

と、ぼくが言うと、やっと笑顔を見せた。うん、笑顔も悪くないな。


「アモン・・・・クロウドを頼めるか?」

「わたしが? まあ・・・体内での魔力循環を教えてやるだけでもけっこう化けるだろ。まかしときな!」

「姉御! よろしくお願いします!」


あれ?この流れは・・・

「ちょっと待て!リウ」

ぼくは叫んだ。

「やっぱドロシーはぼくが教えたいなあ・・・なんて。」


「却下だ。」

リウは暴君の笑いを浮かべながら高らかに宣言した。

「マシュー坊ちゃまは、我ら『踊る道化師』のリーダー、ルトに任せる! 10日で銀級に負けないように仕上げてこいよ!」


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