第21話 神竜騎士団

神竜騎士団。


そう名乗った連中は、男女合わせて10人はいた。

いずれも「いかつい」。

全員が、制服の左袖を引きちぎって、それをバンダナのように頭に巻いていた。

うん。


「ださっ」。


テーブルを叩いた男は、リウのコップに残った茶を食べかけのサンドイッチの上にこぼした。

台無しになった朝食をリウは無言で見つめた。


「さて、お子様たちは痛い思いをするか、わび料を払って立ち去るか選ばせてやる。」


リウの「見かけの」年齢よりは4つ5つ年上だろう。15で入学して18で卒業、という冒険者学校のモデルプランからははずれているから、あるいはぼくらのように経験のある冒険者が資格をとるために入学したのかもしれなかった。


昨日は夜まで、トラブル続き、今朝も朝食からトラブル続出だけど、まあ、いいや。

とりあえず、解決のつかないロウの浮気疑惑は、後回しにできそうだ。いやまさか。

疑惑じゃなくてほんとに「浮気」になるのか、これ?


キャベツは炒められることが歓びだったとする。人間が食欲のみでキャベツを炒めたらそれは浮気になるのか?

とある女性は性交渉そのものが歓びだったとする。ある男性が性欲のみでその女性を抱いたら。


浮気だ。浮気に間違いありません。残念ながら浮気です。


どうもロウの理屈のほうが正しそうだと気がついて、そんな余計なことを考えていたので、「神竜騎士団」を名乗ったチンピラがこぶしを振り上げたのに対し、ぼくは一瞬、反応が遅れた。

危うし!チンピラの命!


風のようにかけつけてくれたのは、ネイア先生だった。

こぶしは、彼女の掌のなかにそっと収まって、そのまま、彼女は、相手をひねり倒した。怪力だけじゃない。体術もちゃんと勉強している。


それでもテーブルの上のものが飛び散り、燻製肉やピクルスののった大皿が割れ、あたりは騒然となった。


「ネイア先生? 生徒同士のトラブルに教師が首をつっこむのはご法度よ。」


「神竜騎士団」の方向から、悠然と現れたのはリーダーらしき女性だった。

素肌の上に、軽く制服のジャケットを羽織っただけ。前をはだけているので、一応下着はつけているものの、乳房の形から、おへそまで丸見えの状態なのだ。

北の街でこの格好で歩いたら完全に逮捕案件なのだが・・・・。


「メイリュウ。彼らは、昨日入学したばかりだ。多めに見てやってはくれまいか?」


「あら。」

メイリュウと呼ばれたリーダーの女はクスクスと笑った。どこか狂的な匂いのある嫌な笑い方だった。

「そっちの坊やは昨夜、ルールス元『学長』のところに呼ばれたあと、あなたと第三学寮の小道の近く。ちょうど木立になったあたりで、いいことしてたんじゃないかしら。

愛人をかばうのも大変だけど、教師たるものあまり吸血鬼の本能をむきだしにしないほうがいいと思うわ。それとも吸血鬼より“女”の部分かしらね。」


格好は馬鹿っぽいが、こいつらはけっこう、学内で隠然たる勢力をもっているようだ。そしておそらく。


「ジャンガ=ジャンガの」

「ジャンガ=グローブ学長、ね。」

メイリュウは眉を顰めた。

「どこを聞き違えるのかわからないけど、それ学長がいやがるからやめてね。

まあ、少しは話が通じてるみたいで助かる。

ルールス教官についてもあなた方にロクなことはないわ。もし、ここを無事に卒業して冒険者資格を得たいのなら、わたしたちに逆らわないこと!

そうすれば、逆にいい思いができるかもよ。」


メイリュウはくるりと背をむけた。

背中の部分は思い切り大きく刺繍が入っている。


「神竜公姫リアモンド」


金と朱で見事描かれた竜の絵と、上古文字でかかれたその名前。


アモンをみたが、ああ、よかった笑ってる。いやあれは笑いじゃなくって。


歯をむき出しているのか。


入校二日目で、冒険者学校壊滅の予感に怯えながらぼくらは、空きっ腹をかかえて一時限目の授業に急いだ。



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