第15話 合格と一緒に得たもの

「すごいなおまえら。」

子爵のご子息ご一行さまの一人、エミリアに絡んでた筋肉男が、そう話しかけてきた。


実技試験はあのまま流れた。

ラウレス試験官は、そのまま退場されてしまったのだ。

捨て台詞は

「急用が」

と言うもので、まともな神経の持ち主なら明日の朝、一番の列車でランゴバルドを去るだろう。


結果、やつに怪我をさせられた受験生は、怪我のさせられ損。

まあ、ぼくらとしては、一躍、同期の(この言い方で間違いないよね)ヒーローになってしまったことがメリットであり、デメリットでもあり。


筋肉男の視線には、単純に強いものへの憧れと好意がある。


「これでも故郷では、冒険者だったからな。」


「すごいな。ほんとの冒険者なのか。」


「ああ。ただ、故郷での冒険者証がこっちでは使えなくてな。

資格を取り直すために、学校に入ったってわけだ。」



気がつくと、リウを囲む人の輪が出来ている。

リウは、ぶっきらぼうに応対しているが嬉しそうだ。もともとこうやって人に囲まれているのが当たり前で、それが好きなんだろう、と思う。

だが、彼の体質が民を終わりのない戦に駆り立てた。

そのあとは、千年の幽閉生活だ。


いくつか、偶然が重なったにせよ。

こいつをあそこから出せてやれて本当によかった。そう思うのは、ぼくも彼のことが好きになっているからなのだろうか。



まずいな。


リウの女性形は、少しキツめの顔立ちの美人で、これはぼくにとっては、とてもとっても好みのタイプではあるのだ。

性格に、もちろん難はある。

自分勝手で他人思いでワガママなお人好し。いざとなれば力押しでなんとかイけると思ってる。

そういうところもフィオリナそっくりなのだ。


ロウとアモンの周りは、男が多い。

タイプは違えど美人ではあるからなあ。

では、明らかに年下にみえるギムリウスの周りに集まってる連中は何なんだろう。目を除けば、ギムリウスは(というかギムリウスの作ったヒトガタ)はなかなかの美少女なのである。

呆れたことに、子爵家のマーシュ坊ちゃんは、その中に加わっていた。

とんでもない亜人フェチでなければあれか、ロ。


このとき、ぼくはすでに新たな問題に気がついている。

冒険者学校の同期となる仲間に囲まれている「ぼくら」の中に、エミリアもちゃっかりしっかり入っているのだ。

そてし、もともと、ぼくらの仲間であったかのように振舞っていた。

冒険者のパーティの多くが5、6編成なのだが、これはそろそろ6人めの決定に真剣にならないと。


我がフィオリナが第一候補なのは、ともかく、ヨウィスも名乗りを上げている。

リウは、確かにエミリアを気に入っている。実力もまあまあ。足りない分は鍛えればいい。


さて。

人化した古竜を圧倒することが、できるエミリアが、果たして本当に本人が言うように、辺境の村で、教会の司祭さまだかに魔法を習っただけの冒険者志願なのか?

裏を取らないとなあ、と、ぼくなんかは思うのだが、リウは気にしない。人と能力が気に入れば、実はエミリアが、どこかの列強国の姫君だろうが、彼女の言う「教会」の祀る神が邪神ヴァルゴールであろうが、すべてなぎ倒して彼女を手に入れるんだろう。

かつて、フィオリナが、どこの馬の骨ともしれぬ、駆け出し冒険者のルドを自分の小姓にしようとしたように。

王の器というのは、そういうものかもしれないが、だったらぼくは無理。


気がつくと、となりに子爵家のお目付け役、魔法使いのドロシー嬢が立っていた。

あれこれとギムリウスに話しかける坊っちゃまを、難しい顔で睨んでいる。


「さっきはよくやった。」

と、話しかけると眼鏡の奥から淡いブルーの瞳がぼくを睨んだ。

「とっさに“棄権”なんて判断はなかなかできない。たいしたものだと思う。」


ドロシーの頬がほんのりと赤くなった。


「わ、わたしは、坊っちゃまのためだけに、生きるのです。誘惑には負けないのです!」


いや、誘惑してないけど。


「でも、少しだけなら。」


わかった。ここの子爵家は主従ともまともなヤツはいない。


無事に冒険者の正式な資格を手にして、ここを出てくための問題はいろいろと山積みだ。


たった今、いらないフラグを立てた予感に怯えながら、ぼくは思った。


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