第12話 古竜ラウレス
ラウルスは、心からよかったと思っている。
冒険者登録のことだ。
「なんだかんだで、人間とともに暮らしていきたいのだろう?」
彼の先達にあたる竜はいやらしい笑いを浮かべて彼にそういった。
もうかれこれ、十数年は昔の話だ。
十年ばかり前のことに「昔」という言葉を使うこと自体、だいぶ人間界に毒されているということになるのだろう。
思い出はわずかに苦味もある。
人間界に興味がある程度ならともかく、ラウルスは人間文化に耽溺しきっている。
華やかな衣装、歌、音楽、そしてなにより女たち。
それは竜たちにとっては、侮蔑されるべき欠点である。
宝物の収集癖までは、巣を飾り立てたい竜という種のもつ共通の悪癖なので、かなり許容される。
問題は「女」だ。
竜のメスよりもヒトの女に性欲を覚えるなど、立場を逆にして考えてみれば良い。
身の丈20メルトルの竜をみて、これに抱かれたいと思う人間の女性がいたら、けっこうな変わり者だろう。
ラウレスは、当時から、聖帝国の竜人部隊の影の指揮官として君臨していた。
権力もある。富もある。人間として、面白おかしく生きるのには充分なものだ。
だが・・・・
つい先日、彼はその地位を追われた。
率いていた竜人部隊は壊滅。
彼自身も負傷した。
それは単なる戦闘での敗北ではなく、今後、長期にわたって影響のある外交的な敗北である。
そう、聖帝国と聖光教の上層部は、判断し、その責任の一端をラウルスの辞任という形で取らせたのだ。
対外的な説明は異なる。
ラウルスは、後任をもっと若い竜にゆずり、今後は、気ままに冒険者生活を楽しむことにした、と。
十数年前に、すすめられた通り、「冒険者」の資格をとっておいて、よかった。
と、ラウルスはこのとき思ったのだ。
黄金級の冒険者もまた彼の自尊心を一部は満足させられる程度には、ひとから尊敬の念をもって遇される存在であったから。
蓄えがいくらたっぷりあっても、まったくの無職ではこうはなるまい。
彼の実態が古竜であることをしるものはごく少ない。
「黄金級冒険者」竜人ラウレス、がいまの彼の名乗りである。
しばらくは、ふさわしい仲間を探すとの名目で依頼は受けないつもりであった。
昼間は街をぶらついたり、ギルドで、若い冒険者に訓戒をたれ、夜は酒場で痛飲する。
暇な毎日に飽いて、冒険者学校に顔をだしたラウレスはそこで、珍しく実技の試験があることをききつけて、試験官を買って出た。
もちろん、冒険者学校側は、恐縮しつつも、感謝の念をもってこれを受け入れた。
もちろん、彼は、竜としての誇りを持っていた。
さらに、どこかの王立学院の剣術師範のような、加虐趣味があるわけでもない。
誠意をもって、そして優越感をみたすために。
彼は試験官を引き受けた。
受験生は100名近いと聞いていたがそれがなんだというのだろう。
もし、一合でも撃ち合えるものがいれば、ポケットマネーから報奨金を出そう。
機嫌よく彼はそんなことまで言って、意気揚々と試験会場にむかったのだ。
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