第10話 駆け出し冒険者はやらかす

投じられた皿は、そのまま放物線をえがいて、地面に落下した。

リウは腕組みをしてそれを見つめていた。呪文の詠唱もなし、何かを投げる様子もなし。


下は柔らかな芝草だったから、皿は割れもせず、そのまま地面に転がった。

「ほんとうになにもしないのか。」

呆れたように試験官が言った。

「いや。別に落とすための試験ではないから、合否には関係ないのだが。

遠距離攻撃のすべがないなら、素直にそう言ってもらえると、時間もはぶけたんだか。」

「オレは攻撃はしていない。」

リウは、 それだけ言ってさっさと受験者の列に戻ってしまった。

怪訝な顔で、地面落ちた皿を回収しようとした、試験官が叫んだ。

「な、なんだこれは。」

皿は、持ち上げようと掴んだとたんに崩れ去り、砂となって地面に散らばった。


「おい、受験番号87番!」

「リウ、という。」

「おい、リウ!

いったい何をしたんだ!」


「なにもしていない。」

リウは物憂げに、試験官を見やった。

「ただその粗末な皿がオレの視線に耐えられなかったんじゃないかな。」

「ふざけてるのか!」


合否には関係なくても、試験官を怒こらせてなんの得になるんだろう。

ぼくはにこやかに笑みを浮かべ、リウと試験官に割って入った。

「彼の無礼はかわってお詫びいたします。

ですが、自身のもつ特殊能力については、人目のあるところでやすやすと明かす訳にはいかないことをご承知ください。」


なるほど。

ど、試験官はいったんひいてくれた。

邪眼のたぐいだろう、しかしなんの力の発動も感じなかった。すごい能力だな。

ぶつぶつとそんな独り言をもらしながら。


「ルトは無茶な理屈をいう。」


人の努力を台無しにしてくれるようなことを背中から、リウがささやいた。


「そもそも人に知られて困る能力なら人前で使わなければいいのだ。

受験会場で的当てゲームに使っておいて、他人には話せない特殊能力だとか、言ってることが、そもそもむちゃくちゃなんだ。」

「分かってたら、なんとかしろ!」


ぼくは、振り返って、叫んだ。


「いや、こういう時になんとかしてくれるのがルトだろう。」

「甘やかさないですからね!

ぼくはあんたの臣下じゃないんだ! 」

「むしろ臣下ならば、陛下、このような、所業はあまりにも御無体、とか言って腹でも切って諌めてくれるのになあ。」

「あんたの臣下は一人残らず、アレか!」


「88番、し、試験終了。」

戸惑ったように試験官がそう言ってくれたので、自分の試験を終えたぼくはヤレヤレと列に戻った。

「自分だって、相当やらかしたことに気がついてないな。」

リウは楽しそうだった。

「なあにが?

得物は短剣。それを投げただけだよ。

そりゃあ、鋼糸をつけといて投げてからも引き戻して使うのはちょっと珍しいテクニックかも知れないけど!」

「後ろを向いて、オレと話しながらやる技じゃないなあ。」

あ、そうか。

本当はひとつ、ふたつはずすつもりだったのが、話に夢中で忘れてた。

「なんだ?その微妙な表情は?」

「“ おっとやっちまったか、でもこの位は普通ですよね”の表情です。」

「随分と人類文明は複雑に進化してしまったのだな!」


「次は89番」


ある意味、リウより怖いパニエの少女が歩みでる。

「魔法はダメだぞ!ギムリウス!」

リウが叫んだ。

「ギムリウスは魔法はダメなんですか?」

「制御の問題だ。この建物ごと吹き飛ばしてもかまわんか?」


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