第9話 入学試験
リウは、威風堂々としている。
肉体的な年齢は、ぼくと同じか、たぶん少し下だろう。なのに、ひとめでこいつはただものではない、と思わせる風格がある。
「どうだった?」
というぼくの質問に対し
「まったくわからん。」
ときっぱりと澄んだ瞳で返してきた。
そこまでで聞く気がうせた。一応、人間のリウがそんな状態ならあとのみんなは、名前だけ書けていれば充分だろう。
簡単な四則演算や、西域共通語の文法問題は出来た、と思いたい。
「ルトはどうだ?」
「西域の地理はさっぱり。国名に王様の名前はなんとか。
クラス分けがどうなるかわからないけど、少なくとも優等クラスでないことは間違いない。」
解答用紙が回収されると、今度は実技試験とやらだった。
ロウの情報によれば、ぼくらのために急遽、追加された試験らしい。
ここで、挽回!
などと思ってくれるなよ。
もの珍しいのか、きょときょとと、あたりを見回すギムリウス。試験の出来にショックをうけたのか、元気のないロウ、マイペースのアモンのあとをついて、ぼくとリウも闘技場にむかった。
「これから係りのものが、的をいつつ投げる。攻撃魔法を撃てるものは魔法で。出来ないものは弓でも石でもかまわん。的に当ててみろ。破壊する必要はない。」
そこは、すり鉢状になった直径が100メルトルばかりの空き地だった。
申し訳程度に魔法障壁がはってある。
「迷宮内に階層をつくる技術はないのかな?」
ぼくが小声でリウに言うと
「ウィルニアの術式を利用しているならば、基本的に同じ技術だ。維持のためのエネルギー効率の問題だと思う。」
「ようし、一番手はわたしが行こう。」
さきほど、女の子にからんでいた貴族の師弟とおぼしき優男が前にでたが、
「こちらで呼ばれたものから、前に出てください。」
「きさま!アルバート子爵家のマーシュ坊っちゃんにこれ以上無礼があると・・・」
ドロシーと名乗った魔法使いが、いきりたったが、試験官の「失格でよろしいか?」の一言で黙り込んだ。
「では、まず、エミリア。」
はいっ、と元気のよい返事で先程の少女が前にすすんだ。
「見たところ、飛び道具はもっていないようだな。弓矢やスリングショットの貸出しもできるが、なにを使う。」
「はい! わたし魔法を使います。」
「みたところ、魔法の増幅アイテムはもっていないようだが?」
「え?
わたしの村ではそんなの使いませんけど・・・」
なんだよ、どこの田舎からでてきたんだ。
くすくすと笑う声、あきれる声は、そこここから聞こえた。すまないね。ぼくらも魔法使うのにいちいち増幅アイテムを使うのにはなれていない田舎者だよ!
「まあ、いいだろう。準備ができたら合図をくれ。」
「いつでもいいです!」
的は、スープ皿程度の土器だった。
距離は5メルトル。
ゆっくりと弧を描いて投げられた皿をエミリアの光の矢が次々と打ち砕いていく。
「すべて命中!」
試験官は驚いたように、エミリアを見つめた。
「無詠唱でご連射か。魔法はどこで学んだ?」
「村の教会の司祭さまです。」
「うむ、見事なものだ。次は接近戦での模擬戦を戦ってもらう。しばらく休んでいいぞ。」
動く的になにかを当てるのはたやすいことではない。
子爵家のお坊ちゃまは、炎の矢を二回詠唱し、当てたのは一枚だけ。
その取り巻きたちは、もう少しましで、矢や礫をつかって、それぞれ3~4枚を割った。
ドロシーという女魔法使いは、氷の礫を無詠唱で連射し、五枚すべてを割った。
残ったのは、ぼくたちだけ。
さて。
「リウ。おまえは何を使う?」
試験官がきいた。
「なにも使わない。」
「ふむ? 魔法を使うということか? 剣士の身なりだが。」
「いいや。なにも使わない。」
変なことをしてくれるなよっ。
ぼくはこころの中で悲鳴をあげながらも、にこやかに微笑むという特技があるのだ。
「リウ、もうちょっと試験官の先生にわかりやすく話そうよ。」
「ああ、そうだな。いずれにしてもなにかの力を当てないわけにはいかないか。
割らなくてもいいのだったな。」
「ああ、そうだ。」
「なら、オレ流にやらしてもらう。」
リウは、剣を抜こうともしない。
流派によっては、剣撃による衝撃波で遠当てを行うものもあるのだが、そういえばリウの流派はなんなのだろう。
そもそも。
彼が戦ったところを、ぼくはまだ一度も見ていないのだ。
だが、その剣が、もともとぼくの婚約者であるフィオリナ姫が一時、所有していたものであるならば。その剣のもつ属性は「破壊」と「否定」。
たとえば、世界そのものに干渉して、それをすり潰すような。
それを抜こうとしないのならば、少なくとも彼はそういう方法はとらないだろう。
恐怖と。
ある意味、期待をこめてぼくは見守った。
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