第7話 真実の眼
ルトたちが出ていったあと、ルールスとアウラはしばらく黙り込んでいた。
ネイアは、あとを付いて行きたそうにしていたが、ルールスに睨まれて諦めた。
「えらいものを連れてきたのお。」
ルールスは、分厚いメガネをとった。
瞳の代わりに輝く球体が埋まっていた。
「先生の目にはどう見えました?」
「ローゼバックの真実の眼・・・・」
ルールスはつかれたように天井を仰いだ。
「それほど、万能なものではない。
真実の姿が見えるといっても見えるのは、そこにつながるいくつかのキーワードのみ。
しかも非常に抽象的じゃ。」
「あの少女はほんとうに真祖の吸血鬼なのでしょうか?」
アウラが、ネイアを見やった。ネイアは、睨むようにアウラを見返した。
「そういうことについては、吸血鬼は嘘がつけない。」
ため息をついて、ルールスは二人に座るように促した。
「わたしの目にはこういう文字が映った。『半分の吸血鬼の王』。」
「どういう意味でしょう?
ネイアが見たようになにがしか力に制限をかけていることの表現でしょうか?」
「おそらくは、な。」
「ほかの者たちはいかがでしたでしょう?」
「もっとロクでもない。アモンは『古竜』、ギムリウスは『神獣』、ルトは『魔王の再来』、リウは『魔王』じゃ。」
「・・・真実の眼が曇っているということでしょうか?」
「そうも思いたくなる。だが、『魔王宮』が五十年ぶりに開かれたのがつい先月の話。
そこからやってきたパーティにこうも仰々しいキーワードがならんでいるのは偶然とは思えん。
そこで明日の試験だが。
ネイア!」
「はい」
「通常の筆記に加えて実技もプラスする。闘技場を使えるようにしておけ。」
「かしこまりました。しかし、試験の内容は?」
「攻撃魔法による的あてと手の空いている冒険者による模擬戦だ。」
「『魔王』や『古竜』を相手にですか?」
「真実の眼が教えるのは、あくまで抽象的な意味だ、といっただろうが。誰が、迷宮に封印された魔王が地上を闊歩していると考える?
それに、あやつらなら自分の力を充分にコントロールできておるわ。
そこいらの鉄級冒険者がしかけた程度で、暴走の危険はない。」
「そのご意見には賛成ですね。ただ、どうもルトくん以外の四人については、なかなか『常識』というものが欠落しているように感じられるのですよ。
とくにギムリウスはペンも知らない様子でしたし。」
「常識を教えてやるのも学校と教師の仕事だろうよ。少々骨はおれそうだがな。」
学食とやらの味は悪くなかったと思う。
メニューは基本的に一種類だけのようだが、今日は、野菜と肉を煮込んだシチューに酸味のある黒っぽいパン。飲み物はほのかに甘い香りのするお茶でこれはおかわりも自由だった。
あとは適当に根菜類を蒸したものとチーズ、燻製肉、ハムなどが盛られた大皿がテーブル毎にあって、そこから好きなものを取り分ける。
ロウが、チーズのかけらを落とした。
さっと黒い影がそれをさらっていく。
ネズミだった。
見えたのは一瞬で、すぐに壁のすきまに姿を消したので、食事をしていた生徒たちは誰も気が付かなかった。
「あの教師は『真実の眼』の持ち主だ。
わたしたちの正体が正確に見抜かれている。」
ネズミから情報を受け取ったロウが、パンにハムをはさみながら言った。
「ずいぶんと健啖ですね。」
「わたしには全部嗜好品にすぎないからな。よく食べ、よく眠るのは健康にいい。」
「夜も眠るつもりなんですね・・・」
「部屋はひとつみたいだぞ。一緒のベッドに寝てみるか?」
近くで食事をしていた生徒がぎょっとしたように、こちらを見た。
たぶん、十代の半ばだろう。
ぼくだって、ぎょっとする。
ロウは美人なのだ。女性らしいラインというよりは、筋肉の線がわかるような、しなやかで、贅肉がない中性的な体つきなのだが、胸とお尻だけは優美なラインで丸く盛り上がっている。
見たのかって?
さんざん見せつけられたんだ。しかもダブルで。
「それより、正体云々のほうですが。」
「ああ、ほぼ正確に見抜かれている。
わたしが『半身の吸血鬼王』。アモンが『古竜』。ギムリウスが『神獣』。リウが『魔王』。
だが、ざんねんなことにそれを正しく解釈することができないらしい。
それはそうだろうな。転校生が真祖に、魔王、神獣に古竜だったら、学校は大慌てだ。」
「ぼくは?」
「『魔王の再来』。」
それだけ、ただのあだ名なんだけど。しかも学校時代の。
ここの会話は、正面にいるぼくにしか聞こえない小声で話された。
「あくまで目標は、冒険者登録ですからね!
ランクは行動に自由がきき、収入もそこそこ見込める銀級狙い!」
「あと明日の試験は急遽、実技も導入されることになったようだ。魔法の的あてや冒険者相手の模擬戦もある。」
「戦えるのか!」
リウが、うれしそうに言った。
「実技試験の目的は、わたしたちがいかに常識があるか、だから人間の範疇以外のことはだめですよ。」
ロウはそう言うが、ぼくはリウについてはそう心配はしていない。
まずそうなのは・・・・
「ギムリウス、それはお皿といって食べるものではない。」
「そうなのですか。道理で味がしないはずです。」
部屋は6人部屋で、ほぼベッドと机でいっぱい。ベッドは二段ベッドだった。
常識のないギムリウスは、嬉々として天井の片隅に巣をつくると
「おやすみい」
と言って眠りについた。
眠る前のおやすみの挨拶がわかっていて、なぜ、ベッドで眠らないのだろう。
彼女の常識は、ずれている。
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