失うのは嫌だ

星が、俺の肩に頭を乗せた。


「苦しめられる必要なんてないのにね。みんな。」


「子供の話?」


「それだけじゃないよ。美咲さんが話してた。ないって話。人と同じ物は持ちたくないって思うのに…。人生は、人と同じだと安心するってなんか変だよね。」


「確かに、そうだな。」


「みんなと一緒だったら、怖くないって教え込まれたんだよね。知らない間に…。」


「そうだよな。同じじゃないからって、苦しむ必要なんてないよな。」


俺は、星の手を握った。


ひかるが、俺の手を握ってくれるのだって当たり前じゃないんだよ。いついなくなるかなんてわからないんだよ。」


「なんで、泣いてるの?いなくならないよ。」


星は、俺の頭を撫でる。


いつ、いなくなるかわからないと本気で思った。


脳裏にあの出来事が浮かんだ。


ずっと一緒にいるなんて、不確かで不可能な願いなのに…


どうして、当たり前みたいに思うのだろうか?


「いなくならないで」


俺は、星を抱き締めた。


不確かで不可能な願いなのはわかってる。


でも、いなくならないで欲しい。


「俺、星以外いらないから…。子供とか縛られるのやめるよ。俺は、この先も、星と笑っていたい。」


だってそうだろ?流星は、妻子がいるのにいなくなろうとした。


氷雨君だって、そうだ。


結局、埋まらないんだろ?


自分で埋めるしかないんだろ?


俺は、この手に伝わる星の温もりを離したくないよ。


失うの恐れたら何も出来ないって言う人がいるけど…。


俺は、あの日、目が覚めなかったらって今でも考えると震える。


星のかわりなんて、この世界にいないのだ。


量産品ではない。


例え、クローンが出来ても星ではない。


かわりなどいない。



失ったら生きてなどいけない。



星の一番は、氷雨君で、俺の一番は流星だ。


それは、一生かわらない。


それでも俺は、星と一緒にいたい。


一番になりたいから一緒にいるわけじゃない。


るい、苦しいよ」


「ごめん。」


俺は、星から離れた。


「どうしたの?珍しいね」


「幸せだなって思っただけ。隣に居てくれて幸せだなって」


「そっか…。僕もだよ。一生一緒なんて、胸はって言えないよね。晴海君の話、聞いたりしたら。だけど、失うの前提でいるのも僕は嫌だな。一生一緒にいれる努力はしたいから」


「努力?」


「うん。例えば、安全運転するとか健康に気を使った食事をするとか…。月と一生一緒にいる為の努力をするよ。だから、月も努力して!僕と一生一緒にいる」


「わかった。努力する」


「約束」


星は、小指を差し出してきた。


「約束」


指切りをした。


「ずっと、ずっと続いたらいいのにね。」


「うん」


そう言って、手を繋いで歩きだした。


「駅まで歩こうか、距離あるけど」


「うん」


星が、隣にいるだけで幸せなのにそれ以上を望むのは何故だろうか?


人間の欲って際限ないんだな。


俺は、普通の幸せなんて手にはいらないってわかってたのにな。


婆ちゃんと爺ちゃんが、俺の隣にいるのが男だって知ったら怒るのかな。


そんな事考えるとない方が身軽だな。


「月は、もうお兄さんに会えないんだよね」


「会わなくたって生きていけるよ」


「あの紙を書いたお兄さんには会わないでいいね」


「そうだな。」


「月、好きなのはお兄さんでしょ?どんな酷い事言われても」


「一番になりたくなったの?」


「ううん。ならなくていい。だけど、月がいなくなるのだけは嫌だなって思った。」


「ならないよ。俺は、努力するから」


「わかってる。それでも、月がいなくなるのがやっぱり怖い。」


「高校生の頃の話?」


「うん、何日も探したんだよ。この公園に何度もきて。でも、いなくて会えなくて、絶望だった。月に会いたかった。会って、好きだって伝えたかった。」


「俺だって同じたよ。」


「だからね、次は絶対に離さないて決めたの」


そう言って、星が満面の笑みで笑うから俺もつられて笑った。


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