美咲さんの思い

美咲さんは、曲を聞き終わった。


「馬鹿馬鹿しいね。キスぐらいしとくべきだったかな?」


そう言って、涙を流してる。


「したら、自分の気持ち否定するみたいで嫌だったんですよね?」


俺は、美咲さんを見てる。


「そうだね。しーちゃんを10年も思ってきた俺を否定する事だった。たった、数分のキスで忘れるぐらい簡単な思いじゃないのに」


いつも元気で笑顔な美咲さんが、泣いて小さく見える姿に胸が締め付けられて涙がでる。


「なんで、月君が泣くの?星君も」


そう言って、俺と星の涙を拭ってくれるから俺と星も美咲さんの涙を拭ってる。


「期待した詩音が悪いみたいな言い方されて俺は、辛かったよ。」


「キスしたら忘れるでしょって簡単に向こうは言えちゃうぐらいなんだね。」


「そうだよね。」


美咲さんは、俺と星の手を握った。


「キスをしなかったのは、これ以上、失望したくなかったからでしょ?」


美咲さんは、頷いた。


「好きになってくれなくてもよかったけど、そんな断り方はされたくなかったんだよね。」


星の目からまた涙が流れた。


「椎名さんを悪く言いたくはないけれど、俺には詩音がどれだけ酷い事を言っても離れないって思ってるとしか思えないよ。」


「僕は、美咲さんが自分をまだ好きだって気づいてたと思ったよ。月に例え気持ちがあっても、美咲さんが一番好きなのは自分だってわかっていたとしか思えないよ。」


俺と星の言葉に、美咲さんは泣いてる。


「嫌いになりたくなかった。こんなにずっと想っていた人を、嫌いになりたくなかった。愛されないのなんてわかってたよ。だから、気持ちには答えられないって言われるだけでよかった。なのに、なんで?キスして、忘れろなの?」


美咲さんは、椎名さんに言えなかった想いを俺と星にぶつけ始める。


「なんで、俺を傷つけるの?そんなに、しーちゃんを好きな気持ちは駄目なものなの?俺、我慢したんだよ。5年間、我慢したんだよ。だけど、我慢できなかったからあの日伝えたんだよ。だけど、しーちゃんの目の端に嫌悪感が見えたから冗談だって笑ったんだよ。それから、5年間。俺は、また我慢してたんだよ。なのに…

なのに…何で傷つけるの?」


そう言って、美咲さんは俺と星の手を強く握りしめる。


「しーちゃんを好きな気持ちをそんなに簡単に終わらせられないよ。簡単に、終わるならもうとっくに諦めてるよ。好きにさせたくせに何て言わないよ。俺が、勝手に好きになっただけだから…。だけど、そんな言い方して欲しくなかった。俺の10年間をサクッと終わらそうとして欲しくなかった。本当はね、俺は、しーちゃんを10年間好きなんだよ。出会った時から、ずっと好きなんだよ。わかって欲しいなんて思わないし、好きになってなんて思わないし、でも、それでも少しでも優しくフラれたかった。」


美咲さんの目から涙が、流れては落ちていく。


俺と星も泣いてる。


優しい言葉をかけてもらえると信じたかったんだ。


ブーブーって、美咲さんのスマホが震えてる。


「しーちゃんだ。」


美咲さんは、スマホの画面を見て言った。


「月君、出て?」


「えっ?今、俺がでたらまた酷いこと言われませんか?」


「これ以上に、酷いこと言われる事ある?」


「あると思いますよ。」


「それでも、出てよ。お願いだから」


美咲さんは、泣きながらお願いしてきた。


俺は、電話にでる。


美咲さんは、それをスピーカーにした。


「もしもし」


「誰?」


「あ、橘月です。」


「美咲のスマホだろ?」


「あっ、はい。」


「何で、君が出るの?」


「何ででしょうか?」


「なんだよ。それ」


椎名さんは、少し不機嫌だった。


「美咲は、そこにいるの?」


「はい」


「住所教えてくれる?」


「なぜですか?」


「話がしたいから」


「美咲さんは、何も話す事はないと言ってましたが…。」


「あるよ、さっきの返事を聞いていない。」


「あの、失礼ですが…。美咲さんに興味がないならそっとしといてもらえませんか?」


「また、かける」


そう言って、電話が切れてしまった。


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