第30話 世界決戦

 総勢800億人の世界連合

 そのうち僅か3,000人の精鋭たちが無数の支援魔法を受けて、宙から振り下ろされた銀河の剣に向かって飛んでいく

 そして全てをせん滅する為に向けられた銀の剣へと最初に接触したのは、二機の機体だった

 白銀と黄金、強力無比な二機に乗り込む浅井とサザミは、機体が握った武器で銀河の剣を受け止める

 その瞬間、機体に奔る凄まじい衝撃


 「オォォォォォォォォォォォォ!!」


 「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 内部で機体を操作する二人は、その衝撃に負けないように腹の底から叫びながら、力を込めて操縦桿を動かす

 本来であれば、両機体が合わさったとしても受け止めらないだけの力を誇る銀河の剣であったが、数十億個の支援魔法に強化を受けた二機は、徐々にその銀の剣を押し返していく

 そして二機が世界の初撃を止めているうちに、デオス含めた他の精鋭達、そして動き出した宇宙艦隊が世界へと攻撃を仕掛ける

 

 「掃射開始ぃ!!」


 世界連合総指揮官の命令と共に、艦隊からは数えきれない程のレーザービームが射出される

 そしてデオス達精鋭部隊からは、支援魔法により数百倍以上に強化された魔法や超能力などの攻撃が撃ち放たれた

 

 その束になって一直線に進んだ連合軍側の攻撃に対して、世界は機械的に対抗策を講じる

 煌めく世界の胴体、それと同時に創造されていく星々、無数に重なり合った銀河が連合軍側の攻撃の前に出現する

 世界は連合軍側の攻撃を防ぐ為だけに今、新たな銀河を生成した

 そして数秒後、連合軍側の攻撃と無数の銀河が衝突する

 

 その瞬間、宇宙は眩い光に包まれる

 続けて宇宙全土を揺らす衝撃波が奔った

 余波で軋む艦隊、そして揺れた船内から乗組員が目撃したのは、複数の銀河を盾にして連合軍側の最大威力の攻撃を防ぎ、無傷で佇む世界の姿だった

 あの攻撃を防ぐのか、とざわつく艦内

 だが艦内の兵士たちが、動揺していられる時間など無かった

 世界は先の連合軍側の攻撃を防いでからすぐに、艦隊目掛けて追撃を放つ

 

 世界は空いた左手を開き、掌を艦隊へと向ける

 続けて掌に造り出される銀河、世界はその美しく煌めいた銀河を艦隊へと撃ち出す

 まるで散弾のように飛び散りながら射出された銀河は、流星のように加速していく

 そして回避不可能、最強の弾幕。艦隊に迫る凶悪な流星群の前に跳びだす複数の影があった

 

 ただ一直線に突き進み、艦隊に迫る星々の前に現れたのは、デオスやジョエル達7人だった

 彼らは銀河の散弾へと突撃すると、星々を片っ端から解体していく

 特に先頭のジョエルとズイズの活躍は華々しかった


「「「カハハハハハ!! 流石、創造神ってところだな。私達の攻撃をああも簡単に防ぐとは、中々やるな!」」」


 「ハァ――――――!? 何言ってんのよ、そこのワンころ!! 貴方、そもそもさっきの攻撃に参加してないじゃないのよ!!」


 「「「カハハハハハ! そうだったか?」」」


 「けてんじゃないの? ………って、誰よ貴方!?」 


 ズイズは今まで横で共に戦っていたものの、全く知らない男の姿に驚き声を上げた

 それに対してジョエルは、興味が無さそうに返答する


 「「「誰でも良いではないか、小娘!!」」」


 「こむって、貴方何歳よ!」


 (コイツ、年下だったら絞める殺す)


 小娘と言われてズイズは額に青筋を浮かべる

 ジョエルはその姿を見て、ケラケラと笑いながら返答する


 「「「俺か? 俺は2900歳だ」」」


 「年下じゃないのよ!!」


 「いいツッコミだな、小娘! カハハハハハ!!」


 「組長おやじ………」


 タイタスは戦場のど真ん中、それも未だに散弾のように飛んでくる星々の弾丸を相手にしているというのに、デオスの仲間とボケ合ってるジョエルに対して呆れて溜息を吐く

 そして先陣を切る彼らの背後から怒号が飛ぶ

 叱るようなその怒号を飛ばしたのは、ジョエルが撃ち洩らした星々の処理を担当していたデオスだった


 「そこのバカ二人! こんな時に何乳繰り合ってんだ!!」


 「乳繰り合ってないわよ!!」


 「いてっ! おい、ズイズ! だからこんな時に植物飛ばすじゃねえ!!」


 「カカカカカカ! 面白いのぉ、おぬし等」


 「ふふ、ほんとですね」


 デオス達のやり取りを聞いて、アルバーニと雛美は口を押えて笑った


 「アルバーニ殿、後ヒナミさんもです!! 二人とも笑っていないで参加してください! 吾達だけでは手が足りないんです!!」


 「カカカ、分かっておるわい! 【totyos[mish]mi】 【tot=[misn]minanatottotohmu=futogmi】【hatryosrfutottokfu,hattyatorfu】」


 「ええ、分かってます。結界術・戦迅絶剣けっかいじゅつ・せんじんぜっけん!」


 魔法を発動し、骨の外装を纏うアルバーニと結界の剣を身体の周囲に浮かべる雛美は、戦線へと復帰する

 続けてデオス達も各々の魔法や技を使い、畳み掛けるように迫る星々の嵐を木っ端微塵に死ながら突き進んで行く

 そして銀河の散弾との衝突から十数秒後

 デオス達は誰一人欠ける事無く、地獄のような銀河の散弾を一つ残らず粉微塵に斬り飛ばす


 だがその直後、銀河の散弾を抜けた先でデオス達を待っていたのは、祝福などでは無く世界が左手で振るった銀河の剣であった

 輝く複数の銀河が内包された剣は、全てを置き去りにするような速度でデオス達に迫る


 「!?」


 焦りを見せるデオス達

 だがその光速の一打は、デオス達に接触する直前で大きく弾かれる事になる

 流星のように衝突し世界の腕を力任せに逸らしたのは、先程世界のからの攻撃を受け止めた浅井とサザミが乗る白銀と黄金の機体だった

 彼らは世界が放った最初の一撃を耐えきり、弾き飛ばした後、デオス達の下へと戻ってきていた


 「皆さん、このまま世界の身体へと乗り込みます!!」


 そして浅井とサザミを加えた彼ら9人は、腕を逸らされ大きく体勢を崩した世界へと近づき、そのまま銀河で構成された腕に乗り移った

 銀河の左腕、未知の物質で構成された星々の上を浅井たちは突き進む

 一度も休むことなく、ただ一点を見つめて地を蹴る、そんな彼らの目的は世界の胸の中心で輝きを放つオレンジ色の惑星だった


 「恐らくあの箇所が、世界の心臓部であると推測されます」


 しろがねは世界が人型と成って出現してから、ずっと解析を続けていた

 そして長い演算の後に弾き出した世界の弱点であると推測される個所を、共に戦場を掛ける仲間たちへと共有する

 

 「つまりあの星を壊せば、麻呂らの勝ちと」


 「ああ、そういうことだ。だが、簡単にはいかないだろうがな」


 しろがねの言葉に反応したサザミに対して、デオスが返答する

 そしてその言葉通り、世界が動き出す

 

 「あれは………」


 世界の心臓部に向けて走る浅井達、その目前で異常が発生した

 銀河の地面からブクブクと泡立つように、無数の物体が浮き上がる

 目視できるだけでも4兆体以上のそれらは、出現してから数秒で人型や獣型など統一性の無い形を成していく

 まるで操り人形のように動き出したそれらは、浅井達へと視線を向けると同時に、一斉に地面を蹴る

 そして早送りのような歪な動きと速度のまま、浅井達目掛けて飛び掛かった


 「こいつら………!」


 意思の無い動き、だが統率は取れたそれらに対し、浅井とデオスはまるでアルバーニが得意とする死霊魔法で動き出した骸の様だと考えたが、すぐに地面を形成する物質で生成された事と襲い掛かって来た面子の中に覚えのある顔が存在する事に気が付き、人形の様な連中の正体が骸なんて程度の低い存在では無い事を知る

 ではあの人形の様な存在は何なのか、その正体は世界ヴォーデュガが保有するこの世界で生きてきた者たちの記録、その記録を世界ヴォーデュガが生成した人形にコピーし動き出した偽物の命を持つ疑似生命体であった

 彼ら疑似生命体は、世界からの支援を受けて今、浅井達へと魔法や武器などの凶器を振るう

 そして撃ち込まれた無数の魔法や弾丸、その全てが一撃で星を砕く威力を持っていた

 そんな無数の殺意に対し、最初に動いたのはタイタスであった

 タイタスは二刀を構えると、背後に立つジョエルに一言送る


 「親父、先陣はわたくしが務めます」


 「ああ、行ってこい」

 

 そして組の親父であるジョエルから許可を貰ったタイタスは、低く屈み脚に力を入れ、続けて地面を勢いよく蹴った

 陥没する地面、巻き上がる粉塵

 ただ地面を蹴って跳び出しただけでその二つの光景を造りだし、引き起こしたタイタスは、勢いそのままに疑似生命体達へと迫り二刀を振るう

 次の瞬間、数億体の疑似生命体の胴体が真っ二つに分かれ宙を舞う

 一閃、ただ一閃、タイタスはたった一振りで疑似生命体達を切断し、続けて周囲へと糸を放つ

 タイタスを中心に蜘蛛の巣のように広がった糸は、先の一撃を逃れた疑似生命体達の身体に巻き付き拘束していく

 世界からの支援があり凄まじい力を持つ疑似生命達は、腕力や魔法でその糸を引き千切ろうとするが、強固な糸は一本も千切れる事が無かった

 そしてタイタスによって力が込められた糸は、そのまま抵抗する彼ら疑似生命体を地面へと押さえつける

 まるで押し花のように磔にされた疑似生命体

 そしてその中心で動きを止めたタイタス、その上空を巨大な一つの影が通過する

 黒く膨れ上がった筋肉を携えたその三首の影の正体は、本来の姿を解放したジョエルであった


 「「「後は、任せろ」」」


 ジョエルはタイタスの上部を飛び越え言葉を放つと同時に、その巨大な6本の剛腕を振るう

 内から外へ動いた腕、その先に付いた鋭い30の爪から斬撃が走り、斬撃の通過地点に居た疑似生命体達は、何の抵抗もすることが出来ずに地面ごと木っ端微塵に斬り飛ばされる

 舞い散る十数億体の疑似生命体達の粉塵、煙幕のようになったその塵を抜けた先で、ジョエルは更にその腕を振るう

 狙いは消し飛んだ仲間の亡骸を踏み越えて襲い掛かって来た疑似生命体達

 数百億体はいるであろう彼らの下に、ジョエルの爪から発生した無数の斬撃が放たれる

 そして次の瞬間には疑似生命体達は、嵐の様な斬撃によって消し飛んでいく

 ジョエルはその光景を見て、ただ楽しそうに笑い声を上げた

 

 「「「カハハハハハハハハハハ!! もっとだ、もっと私を楽しませろ、世界ヴォーデュガぁ!!」」」


 そして無数の疑似生命体相手に無双するジョエルとタイタスに続いて、骨の外装を纏ったアルバーニが戦場に舞い降りる

 

 「さて、次は儂の番じゃの」


 アルバーニは襲い掛かる疑似生命体達の猛攻を、呪文を唱える片手間に処理しながら戦場を舞う

 そしてアルバーニの肉体を這う呪文の成立と共に、地面を砕いて出現する巨大な多腕の骸兵は、寝起きの一発として主に群がる疑似生命体達へと武器を叩きつけた

 轟音が響き、衝撃を大地を伝播する、更に先の一撃によって巻き上がった粉塵と共に数億体の疑似生命体の千切れた身体が雨の様に降り注ぐ

 アルバーニはその肉片の雨を気持ち良さそうに浴びながら、秘術で召喚した破壊骸巨兵、その名も屍山血河餓者具足へと指示を送った

 

 「さぁ、全てを破壊しつくせ! 屍山血河餓者具足ゥ!! カァ、カカカカカカカカカカカカカ!!」


 アルバーニの笑い声に合わせて咆哮を上げた屍山血河餓者具足は、主の指示に従って動き出す

 屍山血河餓者具足はその巨体に似合わない速度で地面を蹴り、疑似生命体の大群の下に辿り着くと、手の持った無数の武器を振るいすれ違いざまに疑似生命体達をミンチに変えていく

 そして先陣を切って暴れる屍山血河餓者具足に続くように浮かび上がったアルバーニも、長々とした呪文を唱えて魔法を発動する


 「【totyos[mish]mi】【totohyos[misn]mi=hatmi】【hatryosrfutottokfu,hatryosrkokofu1nanayossmisy-hatyosi】

  【totyos[mish]mi】 【mishatyyatot=misk】 【hatryosrfutottokfu,ton[misttoh]kokofu14nanayossmisy-hatyosi】」

 

 地面から噴き上がる骨の牙

 まるで巨大な津波のような骨の大群は、疑似生命体達をその質量で次々と押し潰していく

 更にその骨の大海を泳ぐ骨の鯨と、暴れ回る屍山血河餓者具足によって数百億体の疑似生命体達が押し消えて逝く


 そしてジョエルとアルバーニが、世界の左手上で暴れていた頃

 別の場所では輝きを放つ黄金の機体に乗ったサザミが、世界からの猛攻に立ち向かっていた

 

 「さて、麻呂の相手は此方のようだな。――――――シィ!!」


 振るわれた銀河の剣、その凶悪で強烈な一撃の行き先は、世界の左手で戦う浅井達だった

 サザミはその世界の目的を絶つ為に、銀河の剣と世界の左腕の間に滑り込んだ

 そして武器を構える黄金の機体と、振り下ろされた銀河の剣が接触した


 「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!! ハァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 削れる黄金、飛び散る黄金

 凄まじい衝撃と共にサザミが操る黄金の機体が押し込まれていく

 だが先程とは違い魔力を糧に爆発的に強化された黄金の機体は単身で、その銀河の剣を受け止めていた

 そして数秒の鍔競り合いの後、黄金の機体は力任せに銀河の剣を押し返し、そこから続けて飛び上がった

 急上昇する黄金の機体、その行先は世界の右腕であり、世界からの抵抗を避けて難なく美しい銀河で構成された右腕に着地した黄金の機体は、その胸部を開き黄金の砲を露出させた

 そして次の瞬間、胸部の砲から一切の溜めも無く射出された黄金のレーザービームが、凄まじい轟音を奏でながら一直線に世界の右腕に降り注ぐ


 「ヌオォォォォォォォォォォォォ!! 焼け落ちるがいい!!」


 叫ぶサザミ、それに呼応するように威力を増す黄金の輝き

 まるで空で輝く天の川の様に氾濫した黄金の輝きは、眩い閃光と共に無数の銀河で構成された世界の右腕を抉り取るように吹き飛ばした

 


 そして世界の右腕を吹き飛ばしたサザミ、その華々しい活躍を横目にデオス、ズイズ、レイニール、雛美の4人は戦場を駆ける


 「ハハハハハ! よくやった黄金卿!」


 「私たちも負けてられないわね」 


 「ああ!」


 ズイズの言葉を肯定するように飛び上がるデオス、その視線の先には無数の疑似生命体が居た

 デオスはその疑似生命体達に狙いを付けると、後方に構えた掌に炎を出現させる

 まるで太陽の様な凄まじい密度と火力を誇る炎玉、デオスはその炎を疑似生命体達の集団に向けて撃ち放つ


 「白炎火葬・日輪天球はくえんかそう・にちりんてんきゅう!!」


 飛び散る火花、焼け落ちる銀河、全てを消し炭に変えんと飛翔する炎の太陽は、目視出来ぬ速度で疑似生命体達へと向かい、周囲一帯ごと群がる疑似生命体を消滅させた

 更に炎の天球は内部で燃やした疑似生命体を燃料に、周囲へと拡大し続ける

 そしてデオスに続いてズイズ達3人も、炎の天球から逃れた疑似生命体達へと技を放つ


 「押し潰れなさい!!」

 

 「滴水ノ星々したたるみずのほしぼし


 「結界術・戦迅絶剣けっかいじゅつ・せんじんぜっけん!!」


 巨大な樹木と流星の様に振り注ぐ雨粒、そして無数の結界で造りだされた刃が疑似生命体へ向かい、全てを押し潰し洗い流し斬り飛ばした

 そして数千億体の疑似生命体を消滅させたデオス達4人は、勢いそのままに世界の腕を駆け上がって行く

 デオス達はその途中、何度も何度も数えられない程の疑似生命体達からの襲撃を受けるも、その全てを退けていく

 そして速度緩めることなく飛び続けるデオス達が、世界の腕の中腹を過ぎた頃だった

 宙から突然、一人筋の光が飛来する

 凄まじい衝撃と轟音を鳴らしてデオス達の前に着地したのは、1年前に打ち破ったかつての仇敵である偽麗の神であった

 意思の無いただの操り人形である偽麗の神であったが、その迫力は生前に負けるどころか世界からの支援もあって遥かに上回っていた


 「………奴は!」


 そして疑似生命体ではあるが偽麗の神の登場にデオス達は目を見開くが、その動揺は一瞬だけであり、更にデオス達はその足を止めずに偽麗の神へと向かって進んで行く

 一直線に突撃するデオス達、それに対して偽麗の神は無数の魔法と技を掛け合わせ、周囲の空間を歪ませる程の圧を放つ一撃を持って迎え撃った

 

 「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 知性の感じられない咆哮と共に、撃ち出される偽麗の神の一撃

 無数の魔法が混ざり合い淀んだ輝きを放つその一撃は、大地に深い溝を作り上げ他の疑似生命体達を巻き込みながら突き進む

 破壊力は十分、炸裂すれば銀河の一つや二つなど簡単に消し飛ぶ威力を持ったその一撃は、デオス達を消滅させようとその目前に迫り


 「オラァァァァァァァ!!」


 そして次の瞬間、力任せに振ったデオスの拳によって掻き消された


 確かに偽麗の神は世界やしろがね完全体を除けば、敵などいない怪物的な存在であったが、この世界対世界連合という今までのスケールを遥かに超えた戦いでは、偽麗の神程度では圧倒的な力不足といえた

 

 「貴様は、もうお呼びじゃねえんだよ!! 白炎火葬・日輪絶拳はくえんかそう・にちりんぜっけん!!」


 「邪魔よ!!」


 「退け!!降打水ノ剣フルウチミズノツルギ!!」


 「結界術・断罪の刃!!」


 そして先の一撃を軽々と消し飛ばしたデオスとその背を追うズイズ達3人は、偽麗の神の下に到達し、その胴体に拳と刃を叩き込んだ

 

 「――――――Gugaaaaaaaaa!」


 上がる悲鳴、飛び散る肉片

 デオス達渾身の一撃を防御無しで喰らった偽麗の神は、なんの抵抗も出来ずに凄まじい轟音と共にこの世から消え去るのだった 

 そして先程の疑似生命体達を消滅させた一撃の傷と、今回偽麗の神を葬り去った一撃の傷によって、世界の右腕はその機能を停止させる

 


     ――――――――――――――――――――――――――――



 ここまでジョエルとタイタス、アルバーニ、サザミ、デオスとズイズとレイニールと雛美が世界との決戦、その最前線を駆け抜けた

 そしてこの激戦が繰り広げられる最前線に最後に登場するのは、白銀の機体ラ・セルガ・メディサを操る浅井宗孝だった

 浅井は世界の核である星へ向けてラ・セルガ・メディサを走らせる


 ただ一直線に、前へ、前へと

 そして光速で進む浅井が世界の胸元へ接近した瞬間だった


 「ムネタカ様、来ます」


 機体のコックピット内に警告音が鳴り響き、モニターに予測線が書き込まれていく

 無数の予測線、その脅威に対して浅井はしろがねに向けて冷静に指示を送る

 

 「しろがねさん、防御は任せます」


 「ええ、任されました」


 「では、行きます」


 その言葉と共に浅井は機体脚部のブースターを点火し、弾丸のように迫る星々の中へと突っ込んで行く

 撃ち出された銀河の内部は、数えきれない程の星や残骸で満たされており、更にその全てが光速で移動していた

 浅井はその殺意の嵐の様な内部を、予測としろがねが操作する移動砲台、そして周囲に張られたシールドを巧みに使い無傷で突破する

 

 そして銀河の散弾を超えた浅井としろがね

 その二人が開けた視界の先で見たのは、機体に向けて構えられた暗黒の巨大質量ブラックホールだった

 鳴り響く警告音、モニターに刻まれる死の文字


 「――――――ッ!」

 

 その暗黒を目撃した浅井は、息を吞み焦りと共に目を見開く

 だがここまで多くの戦場を超えてきた浅井だからこそ、即座に今まで通りの冷静さを取り戻して、行動を始める

 

 「しろがねさん、全てのエネルギーを剣に注ぎ込んでください!! あの暗黒を正面から打ち破ります!!」


 「了解しました。――――――しかしムネタカ様、私達の力を持ってしてもアレを超えられるかは………………」


 「ええ、分かっています。ですが、この好機を逃すわけにはいきません。どうか共に来ていただけませんか?」


 不安そうなしろがねを安心させるためか、浅井は力強くされど落ち着いた雰囲気でそう答えた

 しろがねはその言葉に対し沈黙する

 そして数秒の後、浅井に向けて返答する


 「はい、――――――何処までもお供いたします」


 「――――――、ありがとうございます」


 ヘルメットの中で微笑んだ浅井は、覚悟を示すように操縦桿を倒す

 そして動き出した白銀の機体は、二刀を組み合わせた巨大な大剣を構えながらブラックホールへと一直線に接近した

 その瞬間だった、美しい白銀の機体に無数の罅が奔り、浅井が操る操縦桿が震え出す

 

 (近づくだけでこれですか………!)


 ブラックホールの引力は凄まじく、白銀の機体と言えどもその強大な暗黒を前に一方的な展開に持ち込まれようとしていた

 だが浅井は逆にその引力を利用して、機体を加速させる

 そして損傷させられながらも何とかブラックホールへと辿り着いた機体は、勢いそのままに青く光り輝く白銀の大剣を突き放った


「オォォォォォォォォォォォォ!!」


 接触する剣先とブラックホール

 その瞬間、轟音が響き渡り、続いて奔った衝撃が周囲の空間を歪ませる

 そして更にその衝撃を一番の至近距離で受けた白銀の機体、その美しい身体全体へと深い罅が広がった

 弾け飛ぶ破片、砕けた隙間から血潮の様に噴き上がる魔力

 本来であれば崩壊しても可笑しくない損害であったが、白銀の機体は強化魔法による支援と動力源から注がれる無尽蔵の魔力を利用し、損害を上回る速度で再生し続ける事で停止することなく戦いを続ける

 そしてコックピット内に立つ浅井も、機体と同じ様に全身に奔る激痛と裂傷を再生魔法で回復しながら震え血が滲む手で操縦桿に力を込める

 

 「ここで、負けるわけにはいかないですよ!!」


 血を吐きながら叫ぶ浅井、その心からの言葉に同意するように白銀の機体しろがねが加速し、手に持った大剣の刃を深々と押し進んで行く

 威力も速度も十分、だが耐久力はそうではなかった

 白銀の大剣に無数の罅が奔る

 

 「ッ………!」


 ブラックホールの中心に行くほど衝撃も圧力も強まり続ける

 その為、機体の装甲よりも脆い大剣が先に根を上げた


 「――――――このままでは!!」


 崩壊を始める大剣の姿に焦りを見せる浅井

 だがそんな彼の下に、宙白い炎の線を描きながら一人の男が飛来する


 「ムネタカ!!」


 浅井にとって何度も耳にした熱意溢れるその声の持ち主は、デオス・フォッサマグマであった

 デオスは白銀の機体の横に着けると、ブラックホールに向けて拳を放つ

 そして更にデオスに追随する形でズイズやジョエル達が現れブラックホールへ攻撃を加え、他にも精鋭部隊や連合艦隊までもが魔法や斬撃を放ちながら戦列に加わった

 

 「皆さん!!」


 浅井は援軍の登場に喜びを露わにする

 そしてその声にデオスが反応する


 「ムネタカ、決めるぞ!」


 「ええ!!」


 盛り上がりを魅せる戦場で、世界連合と世界の押し合いが始まる

 世界連合は斬撃やレーザービームや魔法などの合成技、世界はブラックホールによる巨大質量攻撃

 今までの歴史でも見られる事の無かった純粋な力と力のぶつかり合い

 その衝突から十数秒後、拮抗していた天秤が片側へと徐々に傾き始めた


 宙を二分する壮絶な衝突、その勝者は――――――世界連合であった

 世界連合の放った輝きによって、巨大な暗黒ブラックホールが歪み、そして弾け飛ぶ

 その瞬間、周囲を崩壊させるには十分な衝撃が宙に迸り、世界を僅かに後退させた

 更にその衝撃は世界だけではなく、近くに居た世界連合へと降り注ぐ

 凄まじい衝撃に弾き飛ばされるデオス達含めた世界連合

 これによって世界と世界連合との間に距離が開き、戦いが仕切り直しになろうとしていた

 もし本当にこのまま戦いがやり直しになれば、負けるのは消耗の大きい世界連合側であるのは確実だった

 だが――――――!!


 そんな未来のを否定するように、一筋の光が世界へと向かって行く

 その希望の様に輝きを放つ光の正体は浅井としろがねであった。浅井は右手以外の四肢を失い、更にコックピットを露出させる程に損傷を受けた白銀の機体しろがねを動かし今、世界の核である星へと辿り着いた


 「ムネタカ様!!」


 主を鼓舞するようにしろがねが叫びを上げ

 

 「ええ、これで終わりです!!」

 

 浅井はその声に応じる様に、力強く操縦桿を倒す

 そしてその動きに合わせる様に、突き出された白銀の右手は、勢いそのままに世界の核である星を穿つのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る