第29話 世界連合

 宇宙の果て

 人々が住む星々からは遠く離れたこの地に、世界ヴォーデュガに存在する多くの国々から派遣された軍隊が、世界崩壊から世界を守るという同じ志を胸に抱き集まっていた

 今までの歴史でも有り得ない、各国の軍隊で構成された世界連合

 そんな夢のような世界連合の結成を成し遂げる事が出来たのは、浅井達一行が世界各地を駆けずり回って粘り強く交渉を続けたからだった

 そしてそんな功績を残した浅井達一行はというと、現在レイニールが軍団長を務めているゼノカ・マルケレス王国軍の宇宙戦艦内に併設されたラウンジに居り、浅井達はその豪華な装飾が施されたラウンジ内で、各国の軍上層部と挨拶を交わしていた

 

 「それでは、よろしくお願いします。レイニール軍団長殿、浅井殿」


 軍服を着た鬼族の大男が、レイニールと浅井に向けて手を差しだす


 「ええ、こちらこそよろしくお願いします。バルディデン大将」


 その手をレイニールは握り返し、背後に立つ浅井も頭を下げる

 そしてトロセント冥王国大将バルディデン・ゴウロンとの挨拶を終えた二人の前に続けてやって来たのは、かつてアルバーニが戦でデオスと浅井と共闘したコルネス国四将のドドザ・オーガ・シーウルルド・モーテサバットだった

 ドドザは浅井の顔を見ると、満面の笑みを浮かべる。そして微笑みながら話し出す


 「直接顔を合わせるのは、8か月前の会合振りだったかな、ムネタカ殿」


 「ええ、そうなりますね。あの時は、いの一番に連合国軍への参加表明をして頂き、ありがとうございます。とても助かりました」


 「何を言うか、我らの仲であろう。かつて貴殿らには世話になった、だから今回は我らがその恩を返す番というだけだ」 


 「それでもです、感謝を」


 「ふっ、律儀な男よ」

 

 二人は、お互いの信頼関係を確認するように力強い握手を交わす

 

 「では、ムネタカ殿。我はここいらで失礼させてもらおう」


 「もう、ですか? 開戦の予定時刻が迫っているとはいえ、まだ世間話をするくらいの時間は残っていますし、久しぶりの再会ですから、もう少し話しませんか?」


 「その申し出は、有難いんだが………すまない。一軍の将として、これからやらなけばいけない事が少々残っていてな。それに、まだ挨拶待ちが居るのに、我が独占するわけにもいかんだろ」


 そう言ってドドザは背後を指さす

 ラウンジの入口、ドドザの指先に居たのは、黄金の鎧を着込んだ男、サザミ・ジェルフィーゴ・メルフィスだった

 

 「というわけだ、ムネタカ殿。では、また戦場で」


 「ええ」


 2人は軽い別れの挨拶を交わし、解散する

 その後、サザミが浅井へ近づき口を開いた


 「息災であったか、アザイ殿」


 「ええ、この通り」


 手を広げて身体を見せる浅井

 サザミはその動作に微笑を浮かべながら話を続ける

 

 「それは何よりだ。………………さて、まもなく戦いが始まるな」


 「ええ」


 「敵は世界、であれば麻呂らのどちらかは死んでも可笑しくないだろう。だからその前に、貴殿に試合を申し込みたい。武人として受けてくれるか」


 後、十数分ほどで世界との決戦が始まるというのに、サザミは試合を申し込んで来た

 その提案を、周囲に居たレイニール達やサザミの部下達は止めようとする

 だが浅井は、彼のその真っ直ぐな思いが乗った提案に頷く


 「構いません」


 「忝いかたじけな、アザイ殿」


 そして二人はラウンジから戦艦の鋼板へと移動する

 距離を開けて向き合う二人

 緊張が走る中、審判役であるデオスが言葉を発する


 「この勝負、先に一撃を与えた者が勝者とする。双方異存はないな!」


 「ええ」


 「構わぬ」


 デオスに返事を返す浅井とサザミ

 その返事を受けてデオスは、腕を限界まで上げる


 「では、双方構えよ」


 睨み合う両者は、武器を構え足を一歩前に出す

 そしてお互いの緊張が最大限までに高まったその瞬間、限界まで上げられたデオスの腕が、一気に降ろされた

 

 「いざ、尋常に勝負!!」


 デオスの掛け声と共に、両者が鋼板を蹴る

 衝撃波が鋼板を揺らす、そして前方に跳びだした両者は、瞬きの間に接敵する

 

 「フッ!!」


 振り払われる黄金の太刀

 その煌めく刃を、浅井は大剣で上部へ受け流す

 続けて浅井は、がら空きのサザミの胴体に刃を走らせるが、その刃は跳び上がったサザミに躱される

 そして空中に居るサザミから下部の浅井へ向けて大太刀が振り下ろされる

 落ちる刃、高速の一太刀、浅井を一刀両断せんと地面に向かって進むサザミの持つ最速の一手

 それを浅井は身体を傾けて軽々と避ける

 そして浅井に接触することなく鋼板に叩きつけられた刃を、浅井は踏みつける


 「!?」


 鮮やかな行動に驚愕するサザミ

 続けて武器を封じられたサザミに向けて浅井は、一直線に大剣を振るう

 サザミはその大剣を刃から手を離して避けようとしたが、その前に浅井の振るった大剣の刃が到達する


 「グゥ!」


 衝撃音、そして飛び散る黄金の破片

 胴体に刃を受け、鋼板に叩きつけられたサザミの鎧には傷が付いていた

 とても浅い傷、殺し合いであれば怪我とも言えない程の傷であったが、これは試合である

 睨み合う二人に向けて、声が飛ぶ


 「勝負あり!! 勝者アザイ・ムネタカ!!」


 試合を審判として見守っていたデオスからの、勝負終了の合図

 その声を聞き起き上がったサザミは、目前に立つ浅井に向けて手を伸ばす

 

 「見事」


 「満足しましたか?」


 「ああ、僅かな時であったが、とても」


 「それなら、良かったです」


 浅井もサザミの返答を聞くと、差し出された握り返した

 そして彼らの試合が一段落した頃だった、デオス達の下にゼノカ・マルケレス王国軍の兵士がやって来る

 その兵士はこの場に浅井達一行が揃っているのを確認すると、緊張感を漂わせながら報告を飛ばした


 「皆様、もう間もなく既定の時刻になります。どうか指定の位置へ」


 その報告にレイニールが返答する


 「報告ご苦労、すぐに向かう」


 「はっ!」


 報告を終えて去っていく兵士

 その背を見送ったデオス達は、浅井に声を掛ける


 「ムネタカ、行くぞ」


 「分かりました。ではサザミさん、戦場で」


 「うむ」


 サザミと一旦の別れを交わした浅井は、デオス達と共に戦艦内へと戻った

 その後、浅井達は当初の計画通りに前線へと向かって移動を開始した


 

  

     ――――――――――――――――――――――――――――



 ――――――決戦の地

 広がる宇宙の果てには、隊列を組むように無数の宇宙戦艦が浮かんでいた

 そしてその先頭に浮かぶ艦隊には、3000人の精鋭が待機しており、殺気立つその精鋭達の中には浅井やデオスなどお馴染みの面々が揃っていた

 だがその各国から選ばれた猛者達の中に、紛れ込んだ者達が居た

 お揃いの衣装を着たその者達は、デオス達の前に集まった精鋭たちを掻き分けて姿を現す

 そして集団の先頭に立っていた男が、デオスに声を掛けた


 「「「久しぶりだな、デオス」」」


 デオスは、自身に声を掛けた男を見て驚愕した

 なぜならその男はかつて己が殺したはずの怪物、ジョエル・モスコールであったからだった


 「生きていたのか、ジョエル・モスコール!」


 「「「当たり前だ、あの程度で殺されていては狂犬の名が廃るというものよ。しかし、殺し合った仲だというのに今日の事を教えてくれんとは、残念だ」」」


 「俺はお前の事を死んだと思っていたんだ、教えようがないだろ」


 「「「それもそうか、クク、クハハハハハ!!」」」


 今の会話がツボに嵌ったのか、笑い続けるジョエル

 デオスはその姿に呆れながら質問をする


 「それで、お前は何をしに来た。悪いが復讐ならまた後してくれ、忙しいんだ」


 「復讐? クハハハハ! 違う違う、私も参加したんだよ、この祭りにな!!」」」


 「そうか、なら思う存分戦ってくれ」


 「「「ああ、言われなくとも戦うさ。だが、これが終わったら再戦ぐらいはしてくれるんだろう? なぁ、白炎よ」」」


 「お前の活躍次第ではな」


 「「「クハハハハハ!! そうか、それなら張り切らんといけんな!!」」」


 「ああ、頼むよ。狂犬」


 「ハッ、任せておけ」


 条件付きでは有ったが再戦の約束を取り付けたジョエルは、上機嫌そうに笑みを浮かべながらデオスの横に並び、他の者たちを同じ様に正面を見据える

 この時だけは、味方として

 そしてジョエルという戦力が加わった精鋭部隊は、迫る決戦の時を待つ


 時間は誰の指図も受けず流れる

 先にどれだけ悪い事が有ろうとも止まる事は無い

 その先が世界の崩壊であったとしてもだ


 そして望むものが誰一人いなくとも、滅亡の時間は訪れる

 最初に気が付いたのは誰だったか、今はもう関係ない

 この場に集まった無数の兵士の視界の先、美しく煌めく星々が突如歪んだ

 まるでマントを翻したかのように、静止していた銀河が揺れ動き、形を変えてく

 時間にして僅か数秒、たったそれだけの時間で、彼ら兵士たちの目前には現れた

 人に酷似した形、だが肉体を無数の銀河で構成したソレは、まさしく創世の神話に登場する『創造神ヴォーデュガ』であった

 そして世界は動き出す

 世界は何千億個の銀河で構成された腕を構え。そして何百億個の銀河で構成された手の平に、何十億個の銀河で生成した剣を握り

 次の瞬間、世界は躊躇なく世界連合軍に向けて銀河の剣を振り下ろした



 世界の終わりを告げる銀河の剣、迫る神の鉄槌に対して、覚悟と共に世界連合軍は動き出す

 ――――――そしてこの瞬間、世界決戦が開始された

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