第27話 世界にさようならを
絵画のような星空の下で、2人の男女が向き合っていた
片方は地球から召喚された異世界人である朝倉雛美であり、その雛美の膝に頭を置いた赤髪の男は、この世界で「白炎」「国落とし」と言う異名を持った悪魔、デオス・フォッサマグマだった
3000年ぶりの奇跡の再開を噛み締める2人は、まるで付き合いたての恋人の様な視線で見つめ合っていた
恐らく彼らにとっては、長い時間に感じられた1分程の見つめ合いの後、意を決したようにデオスが口を開いた
「ヒナミ、久しぶりだな」
「私が亡くなってから、久しぶりって言うくらいには時間が経ちました?」
「ああ、長かった、3000年だ」
「ふふ、それだと確かにお久ぶりですね、デオスさん」
優しく微笑む雛美
その雛美の表情を見て、デオスは涙を零す
「………………ああ、本当に、久しぶりだ。………お帰りヒナミ」
「はい、ただいまです、デオスさん」
言葉と共に2人の瞳からとめどなく流れる涙
雛美は両腕の先が無い為に涙を拭けないデオスの代わりに、彼の涙を優しく指で拭った
その後、一通り涙を流したデオスは、疑問を解くために雛美へと言葉を投げかける
「そういえば、どうやって生き返ったんだ?」
その問いに雛美は、「私も詳細は分からないんですけど」と前置きしながら返答する
「デオスさんと、ご一緒に戦われていたあの骸骨の方に、蘇生してもらいました」
「アルバーニか!? あいつ、そんなことが出来たのか………!」
デオスは、この世界でも数例しか確認されていない死者蘇生という禁忌の力を、アルバーニが使えたことに驚愕して目を丸くすると同時に、死霊魔法を極めたかつ自己蘇生すら可能にした男だからこそできる芸当かと、納得して頷いた
その後、他愛もない話をする二人の下に、声が響く
遠く離れていても煩いくらいのその声の持ち主はレイニールであり、その隣にはアルバーニの姿もあった
そしてアルバーニともに歩いて来たレイニールの腕には、ズイズがお姫様抱っこされていた
ズイズは、偽麗の神との戦闘で魔力を使い切っていた事もあり、顔面蒼白状態であったが、雛美の姿を見ると顔をパアっと輝かせてレイニールの腕から飛び降りた
「ヒナミ!!」
雛美の下に駆け寄ったズイズは、雛美に膝枕されていたデオスを押し退ける
「いてっ」と地面に転げ落ちたデオスは、ズイズにブーイングを飛ばす
「おい、ズイズ。これでも俺は重体なんだぞ! 少しは労わってくれ!!」
「仕方ないわね。ほら、これで良いでしょ」
ズイズは、プンスカしながらブーイングするデオスに回復魔法を掛ける
その後にズイズは、雛美に跳び付くように抱き着いた
「ズイズちゃん!?」
雛美は、急な抱擁に驚き目を丸くする
それに対し、ズイズは雛美の胸で子供の様に泣き始めた
「ヒナミ、ヒナミ、ヒナミ~~~~~!! 良かった、本当に良かった!! もう消えないで、何処にも行かないで、ヒナミ」
涙声でそう捲し立てる雛美
その美しい緑髪を、雛美は優しく撫でる
「大丈夫ですよ、ズイズちゃん。私は、消えないですし、もう何処にも行かないですよ」
その雛美の言葉を聞いたズイズは、言葉すら離せない程に涙を流し続ける
そして子供を抱く親のようにズイズを包み込んだ雛美に向けて、今度はレイニールが膝を付いて話しかける
「ヒナミ殿、お久しぶりです。貴方と共に旅をしたレイニール・ルルファです。覚えておりますでしょうか?」
「ええ!? レイニールくん!?」
雛美はこの3000年間で殆ど容姿の変わっていないデオスとズイズとは違い、しっかりと年月を重ねて老いた皺だらけのレイニールの姿に驚き、一瞬だけ動きを停止させるも、すぐに若い頃の面影を見つけ出して微笑む
「ふふ、確かに面影があります。本当にあのレイニールくん何ですね。というかレイニールくんも2人と同じで長命種だったんですね」
「ええ、デオス殿やズイズ殿と違い、純血の長命種ではありませんが。あの日、貴方を亡くしてから吾は、何度も死を考えました。ですが貴方とこうして3000年の時を経て出会た事、それを思うと吾は生き続けて良かった。本当に貴方と再会できた事………、吾は嬉しく思います」
静かにレイニールは、涙を隠すように首を下げる
雛美もその言葉に同意するように、唇をかみしめながら何度も何度も頷いた
「私も、皆と出会って良かった、また再会できて………良かった」
その後、再開を懐かしむように涙を流し笑い合う4人の下に、何台もの軍用車がやって来る
そして停車したその軍用車から降りてきたのは、ゼノカ・マルケレス王国の医療部隊であった
彼らは、デオスの達の姿を確認すると急いで駆け寄る
「団長!! 遅れて申し訳ありません」
「いや、構わん。だが重傷者も多い、すぐに治療を」
的確に指示を飛ばしていくレイニール
「はっ!!」
そして指示に従い散らばる医療部隊、その背後から1人の男が兵士に肩を借りて歩いて来た
その男は、消し飛んでいた半身の再生を終えた浅井宗孝だった
浅井は手を振りながらデオス達へ声をかける
「皆さん!!」
「おう、ムネタカ!! 勝ったぞ!!」
デオスの言葉に「ええ、信じてましたよ」と言いながら笑顔で親指を立てる浅井だったが、デオス達の横に居る少女を見て表情を変える
その後、目元を揉んだり擦ったりしても変わらない事実に観念したのか、浅井は大きく息を吸ってから口を開く
「スゥ――――――。………………お聞きしても?」
「ああ」
「そちらは、雛美さん本人で間違いないでしょうか?」
「間違いない。な、ヒナミ」
「え? はい、私は雛美です」
「一体、何故ここに?」
「それなんだが、アルバーニが蘇生したらしい」
「!? そんな事出来たんですか、アルバーニさん」
「うむ、出来たぞ。まぁ、儂にも隠し事の一つや二つや三つや四つや五つぐらいあるって事よ。カカカカカカカ!」
カカカカカと笑い続けるアルバーニをよそに、浅井は雛美に向き合った
「お騒がせしてすみません」
「いえ………?」
「ずっとお会いしたかったです、雛美伯母さん」
「おばさん!? デ、デオスさん、私そんなに老けて見えますか!?」
雛美はおばさんと言われて動揺し、横に居るデオスを揺さぶる
伯母さんとおばさん、その細かな違いにすぐに気が付いたデオスは笑い声を上げた
「ガハハハ! 違う、違う、そっちのおばさんじゃなくて、親の姉の方の叔母さんだよ、ヒナミ」
「えっ、それって………」
「申し訳ありません、先に説明をすべきでした。ですので改めて自己紹介を、私の名前は浅井宗孝。雛美さんの妹、旧姓朝倉鶴子の息子です」
「え? ええ!? 鶴ちゃんの子供!?」
凄まじい驚きっぷりを見せる雛美
その姿に、「まぁ、そうなりますよね」と呟いた浅井は、雛美をどうにか落ち着かせてから、これまでにあった出来事を時系列順に説明し始めた
そして5分後、説明を終えた浅井は、涙を流す雛美に抱きしめられていた
「うわ~ん! 良く頑張ったね、宗孝くん!!」
「あの、雛美さん」
「さん付けなんてそんな他人行儀な呼び方じゃなくて、雛美でも雛美ちゃんでもお姉ちゃんでも好きに呼んで良いよ、宗孝くん」
「はは、………………それは流石に遠慮しておきます、雛美さん」
わしゃわしゃと犬のように頭を撫でられる浅井
その表情は、何とも言えない表情であった
「ほらヒナミ、迷惑でしょ」
二人の様子を見たズイズが、呆れた顔でやって来る
それから未だに浅井を褒め続ける雛美の首根っこを掴むと、無理矢理引き剥がした
そしてズイズは、甥っ子を可愛がり足りないからか暴れる雛美を肩に担ぐと、ムネタカに向き合ってから口を開く
「ほら、貴方には他にやることがあるでしょ」
「ええ、すみません、ありがとうございます」
浅井はズイズの気遣いに感謝の言葉を送ると、次はデオスの方に言葉を投げかけた
「デオスさん」
浅井の真っ直ぐな視線と僅かな言葉、たったそれだけでデオスは、浅井の意思を汲み取る
「ああ、分かってる」
デオスは回復魔法で再生したばかりの右腕を、胸元に持っていく
そして僅かに触れた指先に収まるように、胸から浮かび上がってきたのは、しろがねの動力源であった
その光輝く動力源をデオスは、浅井に向けて放った
動力源は山なりを描き、そのままゆっくりと浅井の手元に収まった
「これで、ようやく」
浅井は手元の動力に視線を落とす
そして深い息を吐いた後、覚悟決めて動力源を胸元に持っていった
その瞬間、雷の様な青い光が浅井の全身に走り、続けて今までとは比較にならない程の魔力発生と共に、浅井の身体を白銀の鎧が覆った
「これは………」
僅かに装甲の増した白銀の鎧に包まれた浅井は、湧き上がる底知れない力に感激するように言葉を溢す
そして浅井のその言葉に反応するように、彼の胸の中心から音声が周囲に響く
「ムネタカ様、全ての情報を閲覧しました」
美しく品のあるその声の持ち主は、しろがねであった
「結果は?」
「はい。その結果、当初の想定通り時空を超えた転移魔法の発動が可能であり、且つ地球の座標も残っていることから、地球への帰還が可能であると断言させて頂きます」
「――――――そうですか!」
望むべき言葉を聞いた浅井は、安心するように表情を緩めた
そしてその言葉は、浅井だけではなくデオス達にとっても嬉しい報告だった
浅井との約束、そして雛美との約束、その両方が叶う事にデオス一同は皆、顔を綻ばせて喜びだす
「良かったな、ムネタカ! ヒナミ!」
デオスはムネタカの肩を抱くと、二人に向けて言葉を送る
「ええ、良かったです」
「はい!!」
そしてデオスの背後から、目元と鼻を赤くしてやって来たズイズは、ヒナミを抱きしめる
「ヒナミ!! 絶対に貴方の事、忘れないから」
「はい、どんなに離れても、私たちは親友です!!」
レイニールは、その抱きしめ合う二人の姿を見て涙腺が決壊したのか、大量の涙を地面に落とす
「良かった、良かった………!」
「使うか?」
「ありがとうございます……………」
今まで静かに様子を見守っていたアルバーニは、ハンカチをレイニールに手渡す
その後、アルバーニはレイニールの横に座ると、過去を懐かしむように皆の姿を視界に収める
「いつの時代も、こうゆう場面は感動的で良いのぉ」
――――――――――――――――――――――――――――
そしてデオス達の大騒ぎが治まって来た頃、未だ熱に浮かされる彼らに向けて今まで沈黙していたしろがねから声が届く
「皆様、一つ宜しいでしょうか?」
楽し気に話すデオス達6人とは違い、しろがねの声はとても深刻そうだった
「しろがねさん? 一体、どうしました? もしかして、転移の方に不備でもありましたか?」
「いえ、そちらは問題ありません。内容としてはムネタカ様やヒナミ様ではなく、デオス様達に関係する事なのですが………」
僅かに言い淀むしろがね
それに対して先程とは打って変わって真面目な顔になったデオスは、しろがねに向き合うように一歩前に出る
「どんな内容でも大丈夫だ。言ってくれ」
デオスだけではなく、ズイズやレイニールやアルバーニも見守る中、しろがねが覚悟を決めたように言葉を放った
「では、私が先程、転移魔法などの記録を確認するために記録媒体を閲覧した時に知った情報です。――――――まもなく、この世界は崩壊して無くなります」
それはこの場に居る全員を、凍り付かせるには十分な情報であった
世界の崩壊、かつてこの世界に起こり国々の悉くを消滅させた出来事が今、再度起ころうとしていのだった
4章 偽麗の神編 完
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